2018年大学入試センター試験「生物」第6問(遺伝子組み換え技術)【選択】(配点10点)問題・解答・解説

2018年1月14日(日)に行われた大学入試センター試験「生物」第6問(10点配点・選択問題)の解答・解説です。センター「生物」受験者は、そのまま国公立・私大入試で生物も受験することが多い事情を考え、解説部分では、センター試験で選択肢から正解を選ぶレベルのみにとどまらず、国公立二次試験(私大試験)に対応できる追加説明も加えました。どうぞご活用ください。

なお試験問題の内容を変えない範囲で少し表現を変え、また小問に緑字で得点を明記しました。また試験問題は白黒印刷ですが、せっかくですので一部カラーにいたしました。

解説

遺伝子組み換え(genetic recombination)技術の基本を理解しておこう。遺伝子研究には、電気泳動・PCR(DNA増幅)など様々な技術があるが、本設問のようにプラスミド(plasmid)のい大腸菌への組み込みは、それ自体が本設問のような基礎研究の手法となるだけでなく、実際に医薬品生産として、大腸菌によるヒト・インスリン生産などで実用化されている。その実用の流れを知っておくと、その流れの一部を使った基礎実験の流れもわかりやすくなるはずである。

 

上記図のように、まず組み込みたい(医薬品生成したい)遺伝子部分を含むDNA(実際はmRNAから逆転写酵素を使って作ったイントロン部分を含まないcDNA)を取り出す。赤がその遺伝子部分である。その遺伝子の両脇のDNAの特定の塩基配列を認識し切断する酵素(制限酵素restriction enzyme)を使って、DNA2本鎖を、一部、数塩基(ヌクレオチド)分(4塩基突出が多い)だけ一本鎖を突出させた形で切断する。(この図で使った制限酵素EcoRⅠではAATTが突出)

(なお制限酵素には様々な種類があり、認識配列や突出部分の塩基配列は種類により異なる。)

次に、大腸菌の中に本体DNAとは別個に複数存在する小型の環状DNA(プラスミド・plasmid)を取り出してきて、同じ制限酵素で切断する。するとプラスミドと目的遺伝子を含んだDNA断片が同じ突出DNA一本鎖を持つ。そこにDNAリガーゼ(ligase)というDNA2本鎖を連結する酵素を処理すると、AATTの突出部分同士が相補的に連結し、更に酵素の作用で切られていたヌクレオチドが献血され、目的遺伝子(赤い部分)を含むプラスミドができる。

それを大腸菌に戻して、その大腸菌を培養・増殖させると、大腸菌内でプラスミドも複製され、その中の遺伝子が発現し、目的のタンパク質が大量に生成される。それを生成して医薬品として使う。

すると問1は③が正しいとわかる。

選択肢①のDNAの2重らせん(double helix、2本鎖)をほどいて1本鎖にしていくのは、DNAヘリカーゼ(helicase)という別の酵素であり、DNAの複製の際に働いている。helix(らせん)をほどくのでhelicaseという。

選択肢②の相補的なRNAを合成する酵素は転写(transcription)の時に働くRNA ポリメラーゼ(polymerase)である。

選択肢④~⑥のDNAリガーゼ(ligase)は、上記説明のようにDNAの鎖を連結する酵素である。

★なぜプラスミドに「抗生物質耐性遺伝子」を人工的に組み込むのか?

問2・3を解く上で、実験の特徴である「抗生物質耐性遺伝子を組み込むプラスミド」をなぜ、作る必要があるかを知っておこう。

問題文には以下のように説明してある。

「目的の遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え用プラスミドを大腸菌に取り込ませる形質転換操作を行う場合、すべての大腸菌にプラスミドが導入されるわけではない。そこで、細菌の生存を阻害する抗生物質に対する耐性遺伝子をプラスミドに組み込むことで、プラスミドが導入された大腸菌のみを抗生物質によって選別することができる。

まず、抗生物質耐性遺伝子を組み込まないプラスミドで実験した場合、どうなるかを図で確認してみよう。

DNA ligaseで連結した時、プラスミドに目的遺伝子(赤)が組み込まれるプラスミドもある一方、self-ligation(自己連結)と表現するが、プラスミドの切り口(一本鎖突出)どうしで再結合してしまい目的遺伝字が組み込まれないプラスミドも生じる。更にそのプラスミドを大腸菌に組み込む操作をした場合

①目的の遺伝子を組み込んだプラスミドが組み込まれた大腸菌

②目的に遺伝子がないプラスミドが組み込まれた大腸菌

③そもそもプラスミドが組み込まれなかった大腸菌

の3種類が生じ、培地の中に混在する。この中で①だけが目的の大腸菌となるため、②③が混在することで、大腸菌に目的遺伝子の指定する目的タンパクを作らせる効果が減少する。

そこで、研究者は抗生物質耐性遺伝子を持つプラスミドを人工的につくり、そのプラスミドを組み込む操作をした大腸菌を抗生物質添加培地で育てることで、目的の遺伝子を組み込んだプラスミドを含む大腸菌(上図①)のみを選別できるようにした。

抗生物質アンピシリン抵抗性遺伝子(図の緑、anpr、rはresitanse(抵抗性)のr)と抗生物質テトラサイクリン(図の青、tetr)遺伝子を組み込んだ人工プラスミド(pBR322という名称)で,

terr遺伝子の途中に目的遺伝子が組み込まれるように制限酵素で切断し、同じ制限酵素で目的遺伝子(赤)の両端も切断しておく。次のそれをDNAリガーゼを加えて連結すると、目的遺伝子が組み込まれたプラスミドができる一方、プラスミドどうして自己連結してもとのプラスミドに戻ったものも生じる。更にそれらプラスミドを大腸菌に組み込ませる操作をすると

①目的の遺伝子を組み込んだプラスミドが組み込まれた大腸菌(テトラサイクリン抵抗性遺伝子(青)は切断され機能停止する。アンピシリン抵抗性遺伝子(緑)は保持)

②目的に遺伝子がないプラスミドが組み込まれた大腸菌(テトラサイクリン抵抗性遺伝子(青)・アンピシリン抵抗性遺伝子は両方を保持)

③そもそもプラスミドが組み込まれなかった大腸菌(テトラサイクリン抵抗性遺伝子(青)・アンピシリン抵抗性遺伝子は両方がない)

の3種が混在した状態となる。次に抗生物質を含む培地(シャーレ)でこれを選別し、①のみを選ぶ操作をする。

まず、大腸菌を含む溶液をアンピシリン添加培地(シャーレ)に塗りつける。するとアンピシリン抵抗性遺伝子を持たない③はアンピシリンによって培地上で死滅し(図の×)、コロニーを形成するのは①②のみとなる。次にそのシャーレはそのままにしながら、そのシャーレ上のコロニーをその位置を正確にうつしとるように布などをかぶせ、それを今度は、テトラサイクリン添加培地に張り付けた後、その布ははずす。この手法をレプリカ法という。今度は、①はテトラサイクリン抵抗性遺伝子が切断されテトラサイクリン抵抗性がないため、育たずに死滅する(図右上シャーレの×)。するとコロニーを形成するのは②だけとなる。

2つのシャーレを比べ、左のシャーレでは存在するが、右のシャーレでは消えているものが、①であり、目的遺伝子が組み込まれた大腸菌とわかる。これだけを集めて育てれば、効率よく目的タンパク質を合成する大腸菌のみが選別できる。

 

実は最近では更に簡単に①②③の中で①だけを選別する方法や、そもそも②を作らせないようにプラスミドの化学的処理を事前にする方向などもあるが、初期に行われた実験手法が上記の方法であり、これを問う入試問題は多い。

この設問は、この手法そのものを聞いていないが、この手法で使われる抗生物質耐性遺伝子を持つプラスミドと、それを組み込ませた大腸菌を抗生物質添加培地で育てる手法など類似の手法が使われており、この手法をあらかじめ知っておくと問題を解く上でイメージを持ちやすい。以上の前提知識を踏まえて、改めて問題を読んでみよう。

 

問2 GFPとはGreen Fluorescent Protein(緑色蛍光タンパク質)の略で、オワンクラゲから取り出され、緑色の蛍光を出すタンパク質で、これを組み込むことで、その遺伝子の働く場所が光り場所が特定できたり細胞内の中での物質の動きを追跡できたりする。発見者の下村修氏はノーベル化学賞を受賞した。

もとの遺伝子組み換え技術よりも問題としては簡単で、単純にプラスミドZは抗生物質抵抗性としてはアンピシリン耐性(抵抗性)遺伝子のみもつので、アンピシリン添加培地と、抗生物質のない培地では生息できるが、カナマイシン抵抗性はないので、カナマイシン添加培地では生育できない。よって②。

 

問3 この操作においても、一般の遺伝子組み換えの操作と同じ大腸菌への組み込み操作があるため、プラスミドが組み込まれなかった大腸菌も混在していることを忘れないでほしい。

プラスミドが組み込まれなかった大腸菌の混在も意識しながら、3種のプラスミド組み込み処理をした大腸菌と、各培地の対応を図にしてみると以下のようになる。

×は死滅しコロニーを形成しない大腸菌である。

プラスミドXの場合は+++で全ての培地で生育できるが、その培地で育ったコロニーでも、GFP遺伝子(緑)を持たないので蛍光を発するコロニーはない。よって①②とも×。

プラスミドYの場合は+-+で、培地A・Cでは生育できる。培地Aではプラスミドが組み込まれなかった大腸菌は蛍光を発しないので、蛍光を発するコロニーは全部ではなく一部となる。よって③と④は×。一方、培地Cでは生育したコロニーが全てGFP遺伝子(緑)を持つので蛍光を発するので全てのコロニーが蛍光を発するので、⑤が〇。

(同様に、プラスミドZの場合は、++−で、培地A・Bでは生育できる、培地Aではプラスミドが組み込まれなかった大腸菌は蛍光を発しないので、蛍光を発するコロニーは全部ではなく一部となる。一方、培地Bでは生育したコロニーが全てGFP遺伝子(緑)を持つので蛍光を発するので全てのコロニーが蛍光を発する。)