「PCR法とCt値」に関する大学入試問題(2021年慶応大学看護医療学部「生物」第1問(4))と解答・解説
2021年7月7日 予備校講師・船橋市議・日本分子生物学会会員 朝倉幹晴
慶應大学看護医療学部2021年入試の問題は、新型コロナウイルスに関して、多くの市民の方々の間で話題になったPCR法やCt値について出題された問題です。なお入試問題は白黒ですが、画面上ですので、意味を変えない範囲で一部カラー化しました。
看護学部はもう1題、新型コロナウイルス感染症に関する問題を出題しています。こちらもご参考にください。
2021年慶応大学看護医療学部「生物」入試第2問(新型コロナウイルス)問題・解答・解説
2021年慶応大学看護医療学部入試「生物」第1問の問4
下線部(2本のプライマーを用いてDNAを増幅するPCR法)に関し、以下の設問に答えなさい。
(1) DNAの定量には、PCR反応中にDNAが増幅していく様子(増幅曲線、図1*)を観察し、その増幅の様子からもとのDNA濃度を決定する定量的PCR法というものが用いられる。
定量的PCRにおいて増幅曲線からDNA濃度を決定する方法はいくつかあるが、よく用いられるものがCt値を用いた手法である。Ct値は、増幅曲線においてシグナルが一定の濃度を超えたときのPCRサイクル数を用いて決定する。
増幅曲線のシグナルがDNAの個数と一致するとき、100個、400個、1600個、DNAの個数が不明の試料を用いて定量的PCRを行い、結果として量が不明だった試料の中に800個のDNAが存在していたことが分かったとする。上の文章を踏まえ、次のうち、この実験で得られた各DNAにおいて、Ct値の関係として正しいものを表のCt値(a)~(d)から選択せよ。ただし、増幅曲線のシグナルが2倍になると、DNAの個数も2倍になるとする。また、PCRの溶液量は全ての試料で同じとする。
(2) 転写量の解析は、逆転写反応と定量的PCRを組み合わせることで行う。通常のPCRではRNAは増幅できないため、まず逆転写酵素を用いた逆転写反応によってRNAからcDNAを作製する。逆転写反応ではPCRと異なり、RNAと相補的な配列のDNAをプライマーとして1つだけ使用する。次に、逆転写反応で合成したcDNAの量を定量的PCRで決定する。このとき、定量的PCRのプライマーは、逆転写反応で合成したcDNAの一部を増幅するように設計する。逆転写に用いるプライマーと定量的PCRのプライマーは重複するものを使用しても良い。以上の情報と図2の説明文を踏まえ、逆転写後に定量的PCRで用いるプライマーが図2のとの場合、逆転写に用いるのに最も適当なプライマーを図の~から1つ選び、記号で答えなさい。
(3) PCR法によって特定のウイルスの検出を行う場合、プライマーの設計において注意すべきことがいくつか存在する。プライマーが結合するDNAの相補鎖と一致する必要があると仮定したとき、PCR法の特性と、特定のウイルスのみを検出するという目的を踏まえ、必ず考慮する必要があるものを、(a)~(f)の選択肢から1つ選び、記号で答えなさい。
[選択肢]
(a) 検出するウイルスとヒトのゲノムの間で共通する配列に結合するように設計する
(b) 検出するウイルスのゲノムにおいて変異が入りやすい配列に結合するよう設計する
(c) 検出するウイルスのゲノムに存在し、検出対象としない近縁のウイルスのゲノムには存在しない配列に結合するよう設計する。
(d) 3´末端にポリA配列を付加して設計する
(e) 制限酵素で切断可能な配列を含むように設計する
(f) ウイルスゲノムに存在する遺伝子が発現するためのプロモーターが増幅可能なように設計する
(4)ある遺伝子Aを標的としてPCR法で増幅することを考える。真核生物の場合、ゲノムDNAを鋳型にPCRを行う場合と、mRNAを逆転写しcDNAを合成したあとにPCRを行う場合で、増幅されるDNAの長さは異なる場合が多い。その理由は何か。1行以内で簡単に書きなさい。
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