2022年大学入試共通テスト「生物基礎」第2問B(9点、免疫)問題・解答・解説


【解説】

問3

 

 

【免疫の全体像の解説】

侵入する病原微生物などに対する生体防御機構を免疫(immunity)。英語immunityは、ラテン語でmunが労役(仕事・業務)を示し、im-が否定の接頭辞なので、「労役を免除する」意味から、病気を免れるという意味で使われるようになった。
以下は免疫系の全体像を示した図である。図中の番号順に確認していただくことでまず全体像を確認してほしい。

免疫は、すべての動物に備わっている自然免疫(innate immunity)と、脊椎動物で発達した獲得免疫(acquired immunity、適応免疫ともいう)に分類できる。
病原微生物(その中の異物として認識される部位や成分を抗原antigenという)に対し、最初に働くのは自然免疫である。病原微生物の個々の正確な特徴を認識する前に、皮膚や粘膜で病原微生物を物理的に防いだり、涙や鼻水に含まれる細菌細胞壁分解酵素リゾチーム(lysozym)で防いだり、好中球マクロファージなど()が病原微生物を食作用でとりこむ仕組みである。

これらの自然免疫を担う細胞は、その細胞膜表面に、様々な病原微生物に共通な成分のパターンを認識するパターン認識受容体(PRR、Pattern recognition receptor)を持つ。その典型例がTLR(トル様受容体、Toll-like receptor)であり、10種類以上が知られている。
(Tollは、ショウジョウバエの発生において背と腹の軸を決定する遺伝子(が指定するタンパク質)として1985年に発見されました。発見した研究者が思わず「toll !」(ドイツ語で「すごい」という意味)と叫んだことで命名された。TLRはそのTollに似た構造を持つということから命名された。)
(自然免疫にはこの他、がん細胞・ウイルス感染細胞などを細胞表面のわずかな特徴で排除するNK細胞(natural killer cell)(後述)や、病原体などを破壊するタンパク質である補体の働きも含まれる。)

自然免疫だけで生体防御できなかった場合、しばらく後に獲得免疫が働き始める。これは個々の病原微生物の抗原などを正確に認識し、その抗原などに特異的に(specific)反応し除去するしくみである。、それは体液性免疫(humoral immunity)と細胞性免疫(cell mediated immunity)に分けられる。
両者とも、まず樹状細胞などが、病原微生物や抗原を細胞内に取り込み、抗原提示細胞(APC、antigen-presenting cell)となり、ヘルパーT細胞(helper T cell)にその情報を伝える。
体液性免疫では、ヘルパーT細胞が、認識した抗原を取り込みその抗原と特異的に結合できる抗体(antibody)を作るB細胞(B cell)を刺激し、その分裂と抗体の大量生産を促す。分裂増殖したB細胞を形質細胞(plasma cell)あるいは抗体産生細胞という。抗体は血液・リンパ液など体液中に大量に放出され、それが「的に当たるヤリのように」抗原と結合し、凝集したり沈殿させたりする反応抗原抗体反応(antigen-antibody reaction)を引き起こす。抗原抗体反応の舞台は体液なので体液性免疫という。体液性免疫は、体液内で分裂増殖し、細胞表面に様々な抗原を持つ細菌に対する免疫においてよく働く。またウイルスに対する免疫では、ウイルスが細胞に侵入する前で体液にある状態で働く。このウイルスに対する抗体を特に中和抗体(neutralizing antibody)という。一般にウイルスに対するワクチンはこの中和抗体を作らせることを誘導することで、ウイルスに対する免疫を獲得させる。

細胞性免疫は、ウイルスに感染された自らの細胞や、自らの細胞が変化し制御なく増殖しはじめたがん細胞、臓器移植の際の他人の臓器に対する拒絶反応などで働く。つまり、細胞性免疫の相手は、体液中に浮遊している病原微生物ではなく、(自らの)細胞であることが多い。
これらの細胞に対しては、抗体などの「やり」では対処ができず、細胞まるごとを排除する。ヘルパーT細胞から、そのウイルスや、正常細胞にはなくがん細胞に変化した時に特異的に発現するタンパク質の情報を得たキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)が、そのウイルス感染細胞、がん細胞、他人の移植細胞を排除する。

NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、細胞性免疫を行うキラーT細胞と同じく、ウイルス感染細胞やがん細胞など細胞そのものを攻撃する。しかし、抗原提示やヘルパーT細胞の指示を必要とせずに、正常細胞とのわずかな違いを自ら認識し攻撃するので自然免疫の一種と考える。自然免疫を担う細胞には細菌などへの食作用を行う好中球やマクロファージと、ウイルス感染細胞・がん細胞を攻撃するNK細胞がある。

好中球など食作用を行う白血球は血液内に多く存在し、リンパ球のB細胞はリンパ節に、T細胞は胸腺に多い。好中球は血管(アの答)から移動する。食作用を行うのはマクロファージ(イの答)であり、NK細胞は食作用ではなくウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃する。よって答は(3点)

 

問4 免疫記憶により、2度目以降の反応はすばやく強くなる。よって(3点)

問5

死滅・不活性化、あるいは弱毒化した病原微生物(ウイルスや細菌)の成分、あるいはそれを作らせる支持をするmRNAを注射することで弱毒化した人の体に免疫応答を引き起こさせ記憶細胞として記憶させ、その後実際の病原微生物が侵入しても免疫反応が速やかに起きるので発症や重症化を予防でき。この注射成分をワクチンといい、これで病気から防御する方法を予防接種という。
あらかじめ病原微生物の抗原をウサギやマウスなどの動物に注射し人工的に抗体を作らせ、その抗体を含む血清を患者に投与し、人に侵入した病原微生物の成分を抗原抗体反応で取り除く方法を血清療法という。

毒素の注入と、その後の抗体での注射による抗原抗体反応の誘発なので、血清療法の原理である。ただ、この抗体はマウス自身のB細胞(それに刺激を与えるT細胞)の働きでマウスの体内で作られたものではない。直後に注射できるということは、あらかじめ他の動物などに注射し、その動物のB細胞(を刺激するT細胞)に作られた抗体なので、c、dではない。よって答はbのみの(3点)