【2月18日発信】新型コロナウイルス感染症に対する船橋市の体制・千葉県衛生研究所の検査体制(RT-PCR法)・船橋市保健所の潜在能力
2020年2月18日(火) 船橋市議(無党派)・駿台予備学校生物科講師 朝倉幹晴
現時点の船橋市(保健所)の情報発信は以下の通りです。
今のところの船橋市内で、感染の疑いを持った場合の流れを以下にまとめました。
これを基礎にしながら、私が市議として保健所に聴き取りしてきたこと、また駿台予備学校で生物学(遺伝子検査技術含む)を教えてきた知見を踏まえて、千葉県衛生研究所が行っている新型コロナウイルス遺伝子検査(RT-PCR法)の基本を解説します。なお、船橋市保健所はすでにノロウイルスに関しては日常業務として同様の遺伝子検査(RT-PCR法)を行っており、状況が変化し国の方針が決まれば、船橋市保健所でも同様の検査が可能なことをご理解いただければ幸いです。
千葉県衛生研究所で実施する新型コロナウイルス遺伝子検査のしくみ
大学受験で生物学を選択する受験生には、10時間ぐらいかけて、じっくり、遺伝子の基礎から応用技術の基本までを教えてきました。ただ、今回の事態で、不安の中、「新型コロナウイルスには遺伝子検査があるようだ」とTVやネットで初めて知った市民の方々に、このサイト内で説明するのは簡単ではありません。
詳細を学びたい方は学習会を設定いたします(後述)が、以下、画面上で「基本的なイメージ」だけでもご理解いたけるように解説をしていきます。今回の事態の理解の参考になればと思います。
私たちヒトも含む生物の特徴を決め、生命活動を支え、子孫にも使わる「遺伝子」という言葉、そしてそれを担う物質である「DNA(デオキシリボ核酸)」の名前は聞いたことがあるでしょう。そのDNAの親戚に「RNA」(リボ核酸)という物質があります。通常、DNAは二本鎖構造(二重らせん構造)をしており、RNAは一本鎖です。このDNAやRNAの塩基配列という情報が乗っていてそれが遺伝情報を示します。ここを説明すると更の膨大となるので割愛しますが、ヒトの社会での「文字・暗号」のようなものがかかれています。そしてその情報はそれに対面するように合成された鎖に裏返しに写し取られるのです、
私たちヒトや大型動物・植物・細菌の細胞では、DNAが遺伝子本体として働き、RNAはその一部のコピーとしての働きをすることが多いです。DNAの一部がRNAに移しとられ、その情報を基に、体に必要なたんぱく質を作ります。「DNA→RNA→タンパク質」の情報の流れをセントラルドグマといいます。「DNA→RNA」の過程を転写(transcription)、「RNA→タンパク質」の過程をを翻訳(translation)といいます。大腸菌に糖尿病治療のためのヒト・インスリンを合成させて医薬品にしているのは、こ転写・翻訳のしくみがほぼ共通なことを活用した技術です。
ただウイルスについては、この流れには必ずしも従わず、RNAが遺伝子本体であったり、RNA→DNAの合成の流れもあります。RNA→DNAは転写の逆なので「逆転写」(reverse transcription)といいそれを促進する酵素を逆転写酵素(reverse transcriptase)といいます。
コロナウイルスの遺伝子本体はRNAです。そして感染した患者の検体の中にあるコロナウイルスRNAは微量で、RNAのままでは技術的に増幅が難しいので、まず実験室(検査室)内でDNAに逆転写します。
この時検体内には、患者の細胞や他のウイルス由来ののRNAやDNAも混在して混じっています。
下図にRNAを赤(赤実線のみコロナRNA、点線は他のRNA)、DNAを青(コロナ由来でないので点線)で示しました。
図にあるように、まずDNAを分解しRNAだけにします。次に逆転写酵素でRNAに対面するようにDNAを合成します。そして最後にDNAのみの2重らせん(二本鎖)となります。これはDNAとなりましたが、もとのRNAの情報(塩基配列・遺伝暗号)を読み取ったものとなっています。
次に国立感染症研究所から千葉県衛生研究所に送られている新型コロナウイルスの遺伝暗号(塩基配列)の一部に張り付く短いDNAの鎖(プライマー)を入れながら、「94℃→56℃→68℃」の3つの温度を数分サイクルで繰り返す装置「PCR装置」に入れます。PCRとはpolymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)のことで、元のDNA鎖に張り付いたプライマーを起点(種)にDNAの鎖を対面側に合成して二本鎖DNAにする反応です。
94℃で二重らせん(二本鎖)をほどき、56℃でプライマーを貼り付け、68℃でDNAの鎖を合成させます。このサイクルを繰り返すと、理論上はDNAが2倍、4倍、8倍、16倍・・・・と増えていきます。
この時、新型コロナウイルス用のプライマーは貼り付けるのは、新型コロナ由来のDNA(RNAから逆転写させた)のみで、他のDNAには張り付かず増幅させません。しがたって新型コロナ由来のDNAがあるときのみそのDNAが増幅します。それを電気泳動で検出すると「陽性」と判定されます。新型コロナに感染していなければ増幅はおこりませんので電気泳動で検出されず「陰性」となります。
前半で逆転写(reverse transcription)で逆転写させDNAに置き換え、後半でそのDNA(置き換えたDNAを特にcDNAという)をポリメラーゼ連鎖反応(polymerse chain reaction)で増幅し検出するので、この検査の流れ全体を頭文字をとってRT-PCR法といいます。
ここまでの(前半の)処理の所要時間は約2・3です。
この後半の所要時間は約3時間です。
ノロウイルスなどについては船橋市保健所でも実施しています。
以上のRT-PCR法は、船橋市保健所で、同じRNAウイルスであるノロウイルス検査などについて行っています。私が2016年10月13日に視察した時の写真です。
実験試料などを事前調整するピペットマン・エッペンドルフチューブ
逆転写酵素でRNAからDNAを合成させる装置
PCR装置(リアルタイムPCR)
ただ、国(国立感染症研究所)は、新型コロナウイルス検出用のプライマーを県衛生研究所にしか送っていないので、船橋市保健所では現時点(2020年2月17日)では新型コロナウイルス遺伝子検査を行っていません。
理由は、現時点で千葉県内の検体数がまだ県衛生研究所での処理可能数範囲に収まっていることの他にもう1つあります。「精度管理」です。微妙な技術であるため、、ノロウイルスで熟練していれば、単純にコロナウイルス検査がすぐにできるということではないのです。実施するためには、最初に国立感染症研究所と実施研究所が同じ材料で同じ結果ができることを確認すること、検出した後、念のためDNAシークエンサーという更に精密に遺伝暗号(塩基配列)を読む装置で確認することが必要です。
検体数にもよりますが、検査可能件数以内ならば、同じ研究所で検査したほうが精度が高いのです。ただ残念ながら、千葉県衛生研究所の検査可能件数を越えた場合は、船橋市保健所でも実施できるように準備すべきということを議会などで確認していきたいと考えています。
(参考 東京農工大遺伝子実験施設の社会人講座で電気泳動の前準備をしている朝倉)
★船橋市議会での新型コロナウイルス対策などの質疑
2月25日(火)午後2~4時の間の40分(前の質疑者との関係で正確な時間はわかりません)
場所 市役所11階で誰でも傍聴可能&インターネット中継あり