大活躍する微生物たち~船橋市高瀬下水処理場の高度処理、消化ガス発電事業、生物脱硫

2022年4月19日 船橋市議・駿台予備学校生物科講師 朝倉幹晴

2022年4月から稼働した、船橋市高瀬下水処理場消化ガス(メタン等)発電事業を4月18日に視察しました。船橋市がプロポーザル方式で選定した事業者であるJFEエンジニアリング株式会社と2020年に事業契約を締結したものです。

計画の概要は、以下のJFEエンジニアリング株式会社のパンフレットにまとめられています。


処理の流れは以下のようになります。


以下は、私が撮影した写真で、下水処理場が右、発電施設が左(中央の大きな円筒がメタン生成細菌が反応するタンク)となります。

私は、予備校などの生物の授業で受験生たちに、微生物の働きが私たちの暮らしを支えていることを教えてきました。その経験を活かし、
下水処理工程における微生物の働きを議会で何度も質疑してきました。以下は市議会で質疑に使用した図です。

参考 微生物による下水処理(2017年3月23日船橋市議会予算特別委員会討論)


この図で最初に家庭から下水の中から汚泥を沈殿させる「最初沈殿池」があります。沈殿しなかった上澄み部分が「嫌気槽」「無酸素槽」「好気槽」に送られ、脱窒菌や硝化細菌やポリリン酸蓄積細菌の働きで、N(窒素)・P(リン)が除去されていきます。

一方、最初沈殿池で沈殿した汚泥は、これまで濃縮・脱水され、全てをセメント原材料などにしてきました。この汚泥の中には約2割の有機物が含まれ、それを活用すれば発電に使用できます。そこで、今回、この有機物部分をメタン生成古細菌群の働きでメタン(ガス)(CH4)とCO2(これを「消化ガス」と呼ぶ)に変え、その消化ガスのCH4の部分を燃焼させることで発電する事業を始めたわけです。リサイクルとともに作った電力をそれを東京電力に売電することで事業収入の一部が市に還元されます。以下が事業の全体像です。

この事業の基本点に加えて、私は視察の中で、もう1つの微生物活用技術の革新に注目しました。それは「生物脱硫」です。
下水汚泥はもともとは私たちの炊事の排水やお風呂の排水などであり、食べ物の残渣なども、お風呂で落ちる垢や髪の毛も私たちの体の一部であったものであり、いすれも生物由来です。生物由来のタンパク質の素材のアミノ酸にはシステイン・メチオニンという2種類の硫黄を含むアミノ酸(含硫アミノ酸)があり、それは嫌気的に(メタン生成細菌が働く酸素が少ない状態で)分解されるとH2S(硫化水素)が発生します。このH2Sを放置するとその後のプロセスでイオウなどになり、発電等の様々な阻害要因になります。
それを未然に防ぐためにH2Sを除去することを「脱硫」といい、これまでは「乾式脱硫」という化学的な方法が主流でした。
これは鉄粉、粘土等でペレット状にした酸化鉄を主成分にした剤と消化ガス(の中のH2S)を反応させるものです。
Fe2O3・3H2O+3H2S→Fe2S3+6H2O
Fe2O3・3H2O+3H2S→2FeS+S+6H2O

反応後の剤は処分が必要になります。

本事業でも「乾式脱硫」は使用しています。

ただ、本事業では、乾式脱硫の他に「生物脱硫」が使用されており、非常に注目されます。硫黄酸化細菌の働きでH2SをH2SO4(硫酸)に転換させます。H2Sが気体であるのに対し、H2SO4(硫酸)は液体なので管理がしやすく、処理技術も工業的にも確立されています。
2S+2O2→H2SO4

消化ガスの中の気体成分(CH4・CO2・O・H2S)の量は常にモニタリングしながら微調整して運転されています。

生物の技術、とりわけ微生物の技術が、下水処理場では活用されています。今後も生物学を学んできた立場で下水処理場における微生物活用技術には注目し、議会でも取り上げていきます。