2023年大学入試共通テスト「生物基礎」第2問B(配点10点)問題・解答・解説
【解説】
だ液に含まれるリゾチームは、細菌の細胞壁を分解する。〇
皮膚の角質層や気管の粘液は、ウイルスの侵入を防ぐ。〇
汗は、皮膚表面を弱酸性に保ち、細菌の繁殖を防ぐ。〇
ナチュラルキラー(NK)細胞は、ウイルスに感染した細胞を食作用により排除する。× よって(3点)
食作用ではない。NK細胞は攻撃する細胞に対して、パーフォリンという物質を分泌することで穴をあけ、グランザイムという物質を細胞内に送りこみ破壊する。また細胞が細胞表面に持っている細胞死スイッチ(Fas)を押すことで、細胞死を促す。
問4
ウイルス感染細胞に対する免疫はヘルパーT細胞に刺激されたキラーT細胞が行うので、を考えた人もいるかもしれない。
しかし、ウイルスは、細胞に侵入・感染する前は、粘液や体液(血液)、つまり細胞外に存在する。そして侵入前の段階でウイルスを攻撃する抗体(中和抗体)を作ることができる。病原性ウイルスに対するワクチンの多く(新型コロナワクチン)も、この中和抗体産生促進作用も目的としている。
「ウイルスWが感染した全てのマウスは、10日以内に死に至る。ウイルスWを無毒化したものをマウスに注射したところ、2週間後、マウスは生存しており、その血清中にウイルスWの抗原に対する抗体が検出された。この過程において、マウスのエの接触は重要な役割を果たしたと考えられる。」
問題文は赤文字にあるように(中和)抗体産生のことを聞いているので、樹状細胞が無毒化ウイルス成分を貪食し、抗原提示細胞として、リンパ節でヘルパーT細胞に提示し、そのヘルパーT細胞が抗体産生のB細胞を活性化し抗体を産生させたことを聞いていると考えられるので、(リンパ節における樹状細胞とヘルパーT細胞)(3点)
問5
・マウスR(ウイルスWを無毒化したものを注射して2週間経過したマウス)
食作用(自然免疫)〇・体液性免疫〇・細胞性免疫〇
・マウスS(好中球を完全に欠いているマウス)
食作用(自然免疫)×・体液性免疫〇・細胞性免疫〇
・マウスT(B細胞を完全に欠いているマウス)
食作用(自然免疫)〇・体液性免疫×・細胞性免疫〇
実験1 マウスRに無毒化していないウイルスWを注射したところ、このマウスは生存できた。
実験2 マウスSに、マウスRの血清を注射した。その翌日、さらに無毒化していないウイルスWを注射したところ、このマウスは生存できた。
実験3 マウスTに、ウイルスWを無毒化したものを注射した。その2週間後に、さらに無毒化していないウイルスWを注射したところ、そのマウスは生存できた。
j 実験1では、ウイルスWの抗原を認識する好中球が働いた。
×好中球は抗原を認識せず食作用のみ(抗原認識は樹状細胞・マクロファージ)
k 実験1では、ウイルスWの抗原を認識する記憶細胞が働いた。
〇抗体を産生するB細胞などの記憶細胞が働いた。
ℓ 実験2では、ウイルスWの抗原に対する抗体が働いた。
×抗体は2週間経ると分解されているので、残っている抗体が働くのでなく、mのように記憶細胞が働き新たに産生する。
m 実験2では、ウイルスWの抗原を認識する記憶細胞が働いた。
〇ヘルパーT細胞もB細胞もあるので抗体が産生される。
n 実験3では、ウイルスWの抗原に対する抗体が働いた。
×B細胞はないので抗体は産生できない。
o 実験3では、ウイルスWの抗原を認識するキラーT細胞が働いた。
〇B細胞による抗体は産生できないが、生存できたのはキラーT細胞による細胞性免疫である。
【免疫の全体像の解説】
侵入する病原微生物などに対する生体防御機構を免疫(immunity)。英語immunityは、ラテン語でmunが労役(仕事・業務)を示し、im-が否定の接頭辞なので、「労役を免除する」意味から、病気を免れるという意味で使われるようになった。
以下は免疫系の全体像を示した図である。図中の番号順に確認していただくことでまず全体像を確認してほしい。免疫は、すべての動物に備わっている自然免疫(innate immunity)と、脊椎動物で発達した獲得免疫(acquired immunity、適応免疫ともいう)に分類できる。
病原微生物(その中の異物として認識される部位や成分を抗原antigenという)に対し、最初に働くのは自然免疫である。病原微生物の個々の正確な特徴を認識する前に、皮膚や粘膜で病原微生物を物理的に防いだり、涙や鼻水に含まれる細菌細胞壁分解酵素リゾチーム(lysozym)で防いだり、好中球、マクロファージなど()が病原微生物を食作用でとりこむ仕組みである。これらの自然免疫を担う細胞は、その細胞膜表面に、様々な病原微生物に共通な成分のパターンを認識するパターン認識受容体(PRR、Pattern recognition receptor)を持つ。その典型例がTLR(トル様受容体、Toll-like receptor)であり、10種類以上が知られている。
(Tollは、ショウジョウバエの発生において背と腹の軸を決定する遺伝子(が指定するタンパク質)として1985年に発見されました。発見した研究者が思わず「toll !」(ドイツ語で「すごい」という意味)と叫んだことで命名された。TLRはそのTollに似た構造を持つということから命名された。)
自然免疫にはこの他、がん細胞・ウイルス感染細胞などを細胞表面のわずかな特徴で排除するNK細胞(natural killer cell)(後述)や、病原体などを破壊するタンパク質である補体の働きも含まれる。なおNK細胞の自然免疫だけで生体防御できなかった場合、しばらく後に獲得免疫が働き始める。これは個々の病原微生物の抗原などを正確に認識し、その抗原などに特異的に(specific)反応し除去するしくみである。、それは体液性免疫(humoral immunity)と細胞性免疫(cell mediated immunity)に分けられる。
両者とも、まず樹状細胞などが、病原微生物や抗原を細胞内に取り込み、抗原提示細胞(APC、antigen-presenting cell)となり、ヘルパーT細胞(helper T cell)にその情報を伝える。
体液性免疫では、ヘルパーT細胞が、認識した抗原を取り込みその抗原と特異的に結合できる抗体(antibody)を作るB細胞(B cell)を刺激し、その分裂と抗体の大量生産を促す。分裂増殖したB細胞を形質細胞(plasma cell)あるいは抗体産生細胞という。抗体は血液・リンパ液など体液中に大量に放出され、それが「的に当たるヤリのように」抗原と結合し、凝集したり沈殿させたりする反応抗原抗体反応(antigen-antibody reaction)を引き起こす。抗原抗体反応の舞台は体液なので体液性免疫という。体液性免疫は、体液内で分裂増殖し、細胞表面に様々な抗原を持つ細菌に対する免疫においてよく働く。またウイルスに対する免疫では、ウイルスが細胞に侵入する前で体液にある状態で働く。このウイルスに対する抗体を特に中和抗体(neutralizing antibody)という。一般にウイルスに対するワクチンはこの中和抗体を作らせることを誘導することで、ウイルスに対する免疫を獲得させる。細胞性免疫は、ウイルスに感染された自らの細胞や、自らの細胞が変化し制御なく増殖しはじめたがん細胞、臓器移植の際の他人の臓器に対する拒絶反応などで働く。つまり、細胞性免疫の相手は、体液中に浮遊している病原微生物ではなく、(自らの)細胞であることが多い。
これらの細胞に対しては、抗体などの「やり」では対処ができず、細胞まるごとを排除する。ヘルパーT細胞から、そのウイルスや、正常細胞にはなくがん細胞に変化した時に特異的に発現するタンパク質の情報を得たキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)が、そのウイルス感染細胞、がん細胞、他人の移植細胞を排除する。キラーT細胞(細胞傷害性T細胞)や自然免疫に働くNK細胞は、攻撃する細胞に対して、パーフォリンという物質を分泌することで穴をあけ、グランザイムという物質を細胞内に送りこみ破壊する。また細胞が細胞表面に持っている細胞死スイッチ(Fas)を押すことで、細胞死を促す。