コロナウイルスとインフルエンザウイルスの増殖方式比較と今後期待される研究の可能性

2020年2月24日(月・祝) 朝倉幹晴(船橋市議・駿台予備学校生物科講師)

明日2月25日(火)に船橋市議会で、船橋市の新型コロナウイルス対策やRT-PCR法での遺伝子検査の可能性について質疑します。新型コロナウイルス対策を理解しながら進めていき、まだ時間がかかるとはいえ、今後の予防や治療の可能性を考えていくためには、コロナウイルスの動きそのものを知る必要があります。
また、不明・未解明な点が多い中ですが、SARSコロナウイルスに関する知見と、少ないですが出されている新型コロナウイルスの論文から、描画をしました。情報が少ない中で描いていますので、完全には正確ではない部分がある点はご容赦ください。また何かあればご指摘ください。

比較のため、よく解明され予防・治療のポイントもわかっているインフルエンザウイルスとの類似点・相違点を比較します。

まず、インフルエンザウイルスの増殖です。
図全体で色を以下のようにしました。(色の重なりが多すぎる場合、完全にはそうなっていない部分もあります。)

茶色ー脂質(細胞膜やウイルスの膜(エンベロープ)
オレンジーRNA(ウイルス遺伝子)
緑系ータンパク質

1、吸着 ウイルスの膜エンベロープから突き出ている2種のタンパク質HAとNAのうち、HAでヒト気道上皮細胞の細胞膜にあるシアル酸(糖の一種)に結合する。細胞側でウイルス表面の突起と結合するものをウイルスレセプターという。
2、侵入 細胞膜がくびれこみ、ウイルス全体を包み込む。これをendocytosisという。単細胞生物であるアメーバや白血球が植物や異物をこの形で取り込むも同じ形である。つまり普通の細胞もこのような機能を持っている。
3、脱殻 細胞膜とウイルスのエンベロープが融合し、遺伝子RNAが細胞質に出される。(正確にはRNAを包む構造がありこれも壊れる)
4、複製 核内に移動し、RNAが複製される。
5、翻訳 RNAの情報をもとに小胞体表面のリボソームでウイルスタンパク質(HAやNAなど)が作られ、ゴルジ体で整えられる(糖鎖付加などがされる)(正確にいうと、インフルエンザRNAをRNA依存性RNAポリメラーゼでmRNAにし、それをもとにタンパク質が合成される)
6、移動・配置 小胞体・ゴルジ体を経て、その膜に埋め込まれたHA・NAが分泌小胞で細胞膜に輸送され、細胞膜に配置される。
7、出芽、6の準備がととのい、HA、NAが配置された細胞膜に、ウイルスRNAが移動し、飛び出ようとする。つまり、ウイルスのエンベロープという膜は感染したヒト細胞の細胞膜を奪ったものである。
8最後に細胞から脱出する時、突起NAで細胞との結合を切る。(船の「いかり」を落とし船が出港するイメージ)
(ヒト細胞自体は壊されていないことにご注目ください。)

ワクチンはHAをブロックし、1を阻害するもの。タミフル・リレンザなどの感染後の治療薬は8を阻害し、ウイルスがそれ以上細胞外に出ないようにし(感染した細胞はそのままでヒトの免疫系にまかせる)、それ以上の感染の拡大を防ぐものである。

1、ヒトに感染するコロナウイルスは主にenvelop(膜)と遺伝子RNAと、S、M、E、Nという4つのタンパク質を持つ。SMEは膜に存在し、NはRNAに結合する。太陽のコロナ(corona)に似ていることから命名のもととなったSタンパク質がヒト細胞(肺・気道・小腸上皮細胞など)の細胞表面にあるACE2(アンジオテンシン転換酵素2)をウイルスレセプターとして吸着する。

2、3、侵入・脱殻 インフルエンザウイルスとほぼ同じ

4からはインフルエンザウイルスと違うところが多いので比較しながら見てください)

4、核内には移動せず、細胞質内(核以外の場所)でウイルスRNAが複製される。
(厳密にいうとこの複製と翻訳の仕組みがインフルエンザウイルスとは若干異なるが省略)

5、翻訳、N,S、E、Mなどウイルスタンパク質がリボソームで翻訳され、小胞体の膜などに配置される。
6、出芽、小胞体、ゴルジ体、あるいはその中間に位置するinternal compartmentの膜上にS、E、Mなどが並んだ部分に、Nと結合した複製されたRNAが侵入し出芽する。インフルエンザウイルスの出芽が細胞膜表面であるのに対し、コロナウイルスの出芽は細胞内。
7、細胞が破壊され、細胞内で出芽の上完全なウイルスになったものが細胞外に出て、次の細胞を目指す。

今、ワクチンなど、予防の目標とされているのはSタンパク質です。ただインフルエンザの治療薬のタミフル・リレンザのように細胞からの脱出を防ぐプロセスはないので、そのアプローチの治療は難しい。
今、緊急使用が検討されているアビガンは4のRNA複製を阻害するものです。(あくまでも緊急使用です。副作用もあることは留意しなければなりません)

ワクチンや他の予防・治療法は未開発です。したがって、私たちは予防に心がけるとともに、感染した場合はヒトの免疫系の力でウイルスの増殖を抑えることが基本となります。
(なお、2月22日に厚生労働省が緊急使用をする方向性を打ち出したインフルエンザ治療薬「アビガン」は、インフルエンザの過程4のRNA合成阻害薬であり、同様の作用が、新型コロナウイルスにも有効との考えに基づくものと思われます。なお使用にあたっては、副作用に留意しなければなりません)