船橋市立医療センターで使用が増えている、非小細胞肺がん・腎細胞がん・悪性黒色腫適応の抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤)オプジーボ(nivolumab)の作用のしくみについて

2017年2月26日      船橋市議(無党派)・駿台予備学校生物科講師

2017年2月17日に開会された船橋市議会2017年3月議会(平成29年第1回定例会)において、市長より議案第14号「平成28年度船橋市病院事業会計補正予算」が提案され審議にかけられています。これは、船橋市立医療センターに関わる予算の増額補正であり、その主な内容は、適応が悪性黒色腫のみから、非小細胞肺がん・腎細胞がんに拡大されたことで、2016年1月より使用が急増した抗がん剤(免疫チェックポイント抑制剤)オプジーボ(nivolumab)の使用増によるものです。

私は、駿台予備学校で医学部受験生に生物学を教えてきた関係で、病気の原因、薬の作用のしくみなどについて、図版などを使って説明してきました。その成果は、2012年12月に
拙著(共著)「病気とくすりの基礎組織」(講談社サイエンティフィック)として出版していますが、最近の状況については、拙著にも記していないので、本公式サイトで説明していきたい。

「病気とくすりの基礎知識」(講談社サイエンティフィック)

1、がん細胞と免疫細胞(キラーT細胞)のせめぎあい
(以下図を使って説明します。図をクリックすると大きくなります。)

★図では黒を通常状態、「赤」でがん細胞が活性化しようとする患者にとって危険な動きの系列、「青」でヒトの免疫監視機構が、がん細胞を抑えつけようとする患者にとって安全に近づく動きを示しました。色のイメージもご理解の補助にご活用ください。

私たちの血液やリンパ液の中には白血球の一種であるリンパ球があり、体内の異物を排除する能力があり、常に血液・リンパ液中を流れています。リンパ球の一種であるキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)は、ウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃排除できます。これを「免疫監視機構」といいます。日常生活で「免疫能力が高い」「免疫力をあげる」ということの実態の1つは、この細胞の能力が高い(能力を高める)ことです。
(なお免疫にかかる細胞にはB細胞、ヘルパーT細胞、NK細胞もありますが、本説明では省略します)

正常細胞も、正常細胞が変異したがん細胞も、細胞表面にMHCクラスⅠという「皿」を持っています。この「皿」の上に細胞内で作られ少し分解されたタンパク質を出す性質があります。正常細胞は通常の細胞が持っている正常なタンパク質のみを「皿」の上に出します。体内の血液・リンパ液中をパトロールしている、キラーT細胞は、自らの「皿」であるTCRで、細胞側の「皿」MHCクラスⅠの上に乗っているタンパク質を認識します。(この時CD8という腕を結合の補助として使います)。
正常細胞が出す正常タンパク(①図●)を認識してもキラーT細胞が何もしません。自分の正常細胞に対しては攻撃しないのです。
しかし、がん細胞は、がん特有のタンパク質(②図赤●)を「皿」の上に出すので、それをはさみこんだキラーT細胞は、「これはがん細胞だ。排除しなければいけない」と認識し、パーフォリン・グランザイムというがん細胞を「キラー」(細胞傷害性)の名の通り攻撃排除します。

しかし、がん細胞の中には、やがて攻撃に対する防御を始めるものが出現するものが現れることがあります。実はキラーT細胞表面には、DP1という「細胞機能を抑制する」スイッチのような分子があります。免疫を抑制するポイントとなるので「免疫チェックポイント」といいます。ここのようにがん細胞のDPL1が結合し、「抑制」スイッチを押してしまうと、キラーT細胞は「眠らされてしまい」、がん細胞を攻撃しなくなります。

そこで研究者は、このがん細胞のDPL1がDP1と結合するしくみを阻害すれば、「キラーT細胞が眠らなくなり(眠りから覚め)」、再びがん細胞を攻撃排除してくれると考えたのです。そこでDP1に結合する抗体を作り結合を阻害しました。免疫チェックポイントを阻害するので「免疫チェックポイント阻害剤」といいます。これがオブジーボの作用の基本的なしくみです。

●これまでの代表的な抗がん剤イレッサのしくみ
がん細胞は、もともと細胞分裂をしなかった(適度な細胞分裂しかしなかった)正常細胞が、遺伝子変異により過剰な分裂を細胞分裂を始めたものです。抗がん剤のしくみの代表的な1つに過剰になった流れのどこかに薬で抑制をかけることで、(正常細胞には戻らなくても)過剰な増殖を防ぐことができるという仕組みがあります。たとえばイレッサはEGFRというアンテナの細胞内側(チロシンキナーゼ)が過剰に活性化(図の赤)された部位に結合し沈静化しようとするものです。
一方、免疫チェックポイント抑制剤は、むしろ免疫系を活発化することでがん細胞を排除・減少(がん病巣を縮小あるいは拡大阻止)しようとするものです。

以上はあくまでも、一般論としてご理解いただれば幸いです。実際の効果は個々人によって異なることがありますし、抗がん剤や他の治療法の選択肢も様々ですので、各患者・家族、医療者が十分な理解と話し合いのもと治療を進められることが求められます。



朝倉幹晴(あさくらみきはる)


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