2021年大学入試共通テスト「生物」第1問(配点14点)問題・解答・解説

【解説】

問1

本文に「柔毛表面の細胞は、グルコースを輸送するタンパク質を発現しており、グルコースを小腸管内の濃度にかかわらず取り込む。」とある。もし、エネルギーを使わない受動輸送ならば、高濃度側→低濃度側の「拡散」はできても、「低濃度側→高濃度側」への輸送ができない。したがって「濃度にかかわらず取り込む」ことにはならない。エネルギーを使う能動輸送ならば、「低濃度側→高濃度側」への輸送が可能で、濃度にかかわらず取り込みことができる。よって輸送は能動輸送。
呼吸の際は代謝に酸素を「使う」。「代謝されて生じる」のは有機物(炭素化合物)の分解産物の一種である二酸化炭素である。よっては二酸化炭素。よって表の選択肢は(3点)

<発展学習>
問1は問題としては以上のように簡単に解ける。しかし今後の共通テストや各大学入試で詳しく聞かれた時のために、小腸上皮細胞におけるグルコースの能動輸送のしくみのついて正確に理解しておこう。
図では高濃度の場合より上に(低濃度の場合より下に)表記している。

まず、小腸上皮細胞は細胞内のATPのエネルギーを使ったナトリウムポンプ(血液に面する細胞膜に存在)の働きにより、濃度差に逆らって、Na+を血液側に送り出す。
その作用により細胞内のNa+濃度は低く保たれる。

すると消化管管腔に入った食物の中のNa+濃度のほうが高くなるため、濃度勾配にしたがった輸送でNa+は消化管管腔(食物)側から小腸上皮細胞に移動する。

その際、Na+は「Na共役型グルコース輸送体」(SGLT)を通り、Na+とともにグルコースが輸送される。このグルコースの輸送は濃度差に逆らっても可能である。
このように小腸上皮細胞のグルコース濃度は高く保たれるため、受動輸送で、GLUT(グルコース輸送体)を通じて、グルコースが血液側に送り出される。

のSGLT自体はATPのエネルギーを使っていないが、グルコースを濃度差に逆らって輸送できる。のナトリウムポンプが作り出したNa+の濃度差がその原動力となっている。エネルギーを使うのはナトリウムポンプだけであるが、それに連動したSGLT、GLUTの力で、グルコースが管腔→上皮細胞→血液へと送り出される見事なしくみである。)

問2

1、集団がある程度大きい。
2、交配がランダムに行われる。
3、突然変異が起きない。
4、個体の移出・移入がない。
5、遺伝子型による生存に有利・不利の差がなく自然選択が働かない。
の5条件を満たす集団(メンデル集団)では、集団内の対立遺伝子の頻度は、世代を経ても変わらない。これをハーディ・ワインベルグの法則という。
遺伝子頻度A:a=p:q(p+q=1)の集団で考えると、その集団のなかでの遺伝子型(AA、Aa、aa)に頻度は以下のようになる。


本設問では「L無」が劣性ホモaaになるので、
q2=0.16。q=0.4。よってp+q=1なので、p=0.6
したがってAa(ヘテロ接合)の遺伝子型頻度は
2pq=2×0.6×0.4=0.48。よって(4点)

なおAAはp=0.6×0.6=0.36となる。

ハーディ・ワインベルグの法則は数学的に美しく証明でき、短期的な集団ではなりたつ。しかし長期的な生物の歴史の中では1~5のどれかの条件が成り立たなくなるので、遺伝子頻度が変化し、種の分化がおきる。ハーディ・ワインベルグの法則は、それが成り立たなかった時の遺伝子頻度の変化、進化の可能性を裏返しに示していると見る見方もある。

 

問3

真核生物における遺伝子発現に関する記述」を選ぶ設問である。

乳糖の代謝に関係する複数の遺伝子が、オペロンという共通して転写の制御を受ける単位を構成している。
→記述自体に間違いはない。ただ、オペロンを転写の基本単位としているのは原核生物である。よって正解ではない。

DNAポリメラーゼがプロモーターに結合することにより、転写が開始される。
RNAポリメラーゼの間違い。×
一つの遺伝子からは、一種類のポリペプチドのみが合成される。
→真核生物の場合、選択的スプライシングにより一つの遺伝子から複数のポリペプチドが合成されることがある。×

タンパク質合成は、核内で起きる。
→mRNA前駆体への転写とスプライシングは核内であるが、タンパク質合成は細胞質のリボソームで行われる。×

細胞の種類が違うと、発現する調節遺伝子の種類も異なる。
→細胞の種類が違うと異なる遺伝子が発現することにより、細胞の分化がおきる。これを選択的遺伝子発現という。〇

よって正解は(3点)

問4

現生のヒト(Homo sapiens)は20万年前アフリカで出現し、6万年前に「出アフリカ」をしてアジア・ヨーロッパ・アメリカ大陸に広がった。
(チンパンジーと分岐した最初のヒトの生息地は、チンパンジーがすみ続けてきたアフリカである。)

実験1の表のように現在のアフリカ(コンゴ・ナイジェリア)のヒトでは「Cを含む配列」、つまりラクターゼの転写を促進する調節タンパクYと結合できず、ラクターゼの働きが持続しない「L無」の遺伝子のみを持つ。実験3で、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンの類人猿も「Cを含む配列」のみを持つのでヒトの祖先系も「Cを含む配列」のみを持つとわかったとの記述がある。「Cを含む配列」ではない「Tを含む配列」を持っているのは表ではヨーロッパのみであり、その場合も「Cを含む配列」も並存している。
したがって、アフリカで発生したHomo sapiensは「Cを含む配列」であり、「出アフリカ」してヨーロッパに進出した子孫において、「Tを含む配列」が突然変異で出現し、乳製品をよく食事する生活の中で自然選択が働いて「Tを含む配列」の頻度が上昇していったと考えられる。アジアには「Tを含む配列」が生じていないことから、「出アフリカ」した集団の中でヨーロッパに住んだ集団にだけ、この変異の頻度が増したと考えられる。

L無はアジアで生存上有利だったが、アフリカでは不利だった。
→もし、L無がアフリカで不利だったならば、自然選択でアフリカにも「Tを含む配列」の頻度が上昇するはずだが、0である。×

L無対立遺伝子は、ヨーロッパで最初に出現し、その後のヒトの移動に伴ってアフリカにも伝わった。
→移動はアフリカからヨーロッパに向かったのであって逆ではない(知識)。もして仮に上記の文章が正しいとすれば、アフリカでも「Tを含む配列」の頻度が上昇するはずだが0である。×
ヨーロッパではL有が生存上有利だったので、ほぼ全ての人がL有対立遺伝子をもっている。
→「ほぼ全ての人」ではない。最も多いスエ―デンでも68%である。

ヒトでは、L無対立遺伝子に突然変異が起きて、L有対立遺伝子が生じた。
→表から、出アフリカして、ヨーロッパに向かった集団の中で「L有」が生じたと推定できる。〇。よって答は  (4点)

どの地域でも、L無のほうがL有よりも頻度が高い。
→スエ―デンにおいては、L有のほうが頻度が高い。×