生理学(人体)の基礎の基礎その1~血液と心臓~

私は大学卒業後、1989年より駿台予備学校生物科講師として大学受験生に生物学を教えてきました。特に市谷校舎(医学部受験専門校舎)を受けもったこともあり、人体(生理学)については、深く教えるようにしてきました。その後、1999年に船橋市議となり、船橋市立医療センターの医療内容や市(保健所)の健康福祉政策を調査したり提言・質疑を行う関係で、具体的な生活と医療・生理学の接点についても議論してきました。
その視点から、学校教育で十分に教えられてこなかったことも多い人体・生理学をここに簡単に解説します。ご参考にください。

参考 学校教育における人体(生理学)の扱いの現状

国民全員が受ける義務教育、また多く人が受ける高校・大学の教育で、人体・生理学に関する教育は、(理系・生物系で受験し、医療系の進路に進む場合を除いて)十分ではありません。人体・生理学に関する知識が不十分であると、自らの健康保持(お子さんを生んだ場合はお子さんの健康)に関しても日常の管理が行うにくいだけでなく、いざ病院に関わった時も、医療情報を正確に調べた上での意思決定などが十分にできないことがあります。
人体(生理学)を高校で詳しく学ぶ科目として「(高校)生物」がありますが、理系進学の一部の生徒だけが選択している状態です。より幅広いものとして、中学「理科」、高校「保健体育」と「生物基礎」があります。「保健体育」は健康保持のきっかけとなる科目ではありますが、主要科目に入れられず時間数も少なく十分に教えられていないことがあります。 2012年度から導入された「生物基礎」は、人体(生理学)の比重を高め、国としても、中高生における健康教育を強めたい意思が現れています。

本ページで扱う生理学の「基礎の基礎」の内容

人体・生理学というのは、医療系大学で1年をかけて学ぶものです。また「高校生物」や「生物基礎」でも数十ページの内容です。そのすべてを説明しきることは困難なので、以下の項目を簡潔に説明します。なおそれぞれの項目でも掘り下げるとたいへんなページ数となるとの、それぞれのポイントの部分のみ説明します。以下7項目に分けで発信します。なお「7 細胞の基本とがん」は生理学(人体)というより、細胞生物学や遺伝子に関連する部分ですが、現代医療にとって欠かせないものとして書きます。 なお、人体は個人差がありますが、60kgぐらいの人を想定した説明をします。また健康である様々な数値範囲にも幅がありますが、本ページでは、話を単純にするため、約〇という1つの数値で表現します。

その1「血液と心臓」

その2「免疫」

その3「神経・脳・筋肉」

その4「眼と耳」

その5「肝臓と腎臓」

その6「生殖」

その7 「細胞の基本とがん」

 

●人体(生理学)基礎の基礎その1「血液と心臓」

 

1、血液

人体の中で固形成分(タンパク質・脂質など)が約40%、水分が約60%である。固形成分として代表例は結合組織のコラーゲン(三重らせんタンパク)や骨のリン酸カルシウムなどである。水分60%のうち40%(人体全体を100%とした場合)は細胞内液(ICF,intracellular fluid)に存在し、20%が細胞外液(ECF extracellular fluid)である。細胞内液と細胞外液の水分は細胞膜のアクアポリンというタンパクの孔構造や、リン脂質のすきまから出入りしているが、総量を考えた時は安定的にこの数値が維持されていると考えてよい。細胞外液は体液(body fluid,humor)とも言われるが、リンパ管にあるリンパ液(lymph)や組織の細胞間にある組織液(tissue fluid)など血管外にある液を間質液(ISF,interstitial fluid)という。血管(BV、blood vessel)内の液で血球など細胞成分を除いた液を血漿(血しょう、plasma)という。血しょう・リンパ液・組織液は循環の中で相互に出入りしているので組成は近いと考えてよい。血液がリンパ液・組織液と決定的に異なるのは血球(blood cell)という細胞成分が多く、特に肺から末端組織に酸素を運搬する赤血球(RBC,red blood cell,erythrocyte)と血液凝固に関わる血小板(blood platelet)は血液のみに含まれる。白血球(WBC,white blood cell,leucocyte)は、赤血球でも血小板でもない様々な細胞の総称で、免疫や食作用に関わるが、その一部は血管から出て組織液やリンパ液にも移行できる。これら血球の中の水分は細胞内液であり、図では血漿の上側に区画に書いてある。特にリンパ管に移行できる白血球をリンパ球(Ly,lymohcytes)というが、リンパ球はリンパ管と血管に相互移行できるので血液内にも存在する。
量的には人体の体重を100%で考えると、体液(細胞外液)が20%、間質液(リンパ液・組織液)が15%、血しょうが5%である。血液における血球:血しょうの重量比は45:55なので、人体における血球は4%となる。血液は体重の約8%(私の説明上の計算上は5+4=9%となるが、実際は概略計算なのでずれていて約8%と考えてほしい)でである。体重50kgの人の血液は4kgとなる。(65kgならば5kg)。

●血球と血しょうの役割
血球と血しょうの役割を区分して表にすると以下のようになる。

この血液が人体の各所に運ばれることが健康の基礎となる。

2、心臓その1~心臓と血液循環~

心臓では、1分間に70mL(cc)の血液が左心室から全身に送り出される。1分間の心臓の拍動数(心拍数)は70回なので、1分間で70mL×70回=4900mL(4.9L=約5L)の血液が心臓から全身に向かっていく。血液総量は上記に述べたように約5Lなので、1分間に全血液が1回転していることになる。
5Lの血液は、ある瞬間に調べると以下のように分布している。血液の役割は赤血球で全身の臓器に酸素を送ることであるので、血液の分布と臓器の酸素消費量はほぼ一致する。すると全身で「脳」「肝臓・消化管」(近傍で血液循環が連関している)「骨格筋」「腎臓」が多いことがわかる。

心臓の各部屋の位置関係と血液循環は以下の通りである。

 

まず、生理学(人体)を学ぶ上で理解しておきたいのは、人体の解剖図・説明図は、医師が対面する患者を診る視点で描くので、左右が逆転していることである。上図でも右側に左心房・左心室、左側に右心房・右心室が描かれている。
心臓には4室があるが、上側に位置する心房は血液を受け入れ、下側にある心室は送り出す部屋である。心房→心室と血液が移動する部分には「房室弁」があり、心室→心房への逆流を防いでいる。また左心室→大動脈、右心室→肺動脈の出口にも大動脈弁・肺動脈弁があり逆流を防いでいる。
心臓からの血液循環は心臓から出て全身を回る大循環(体循環)と、心臓と肺の間を往復する小循環(肺循環)があり、直列につながっており、約1分間で一周する。
血液循環を理解するのは、以下の3点で理解するとよい。
1、左心室から全身への体循環が始まる。
2、心室から出て心房に戻る
3、左から出た場合は右に戻り、右から出た場合は左に戻る。
この3原則を理解しておくと、上記の下図の循環の順番を描くことができる。
左心室から全身に体循環が出発した時点では、肺で積み込んだO2(酸素)が多く、CO2(二酸化炭素)が少ない血液となっている。このような血液を動脈血(どうみゃくけつ)といい、上図では赤→で描いた。全身の組織(細胞)でO2をおろし、組織(細胞)で出されたCO2を積み込む。このような血液を静脈血(じょうみゃくけつ)といい、上図では青→で描いた。静脈血が右心房→右心室を経過して肺に入ると、肺でCO2をおろし、O2を積みこみ、また動脈血に変わって、左心房に向かう。(なお「O2が多い(少ない)」「CO2が多い(少ない)」というのは、O2どうし、CO2どうしの比較であり、O2に比べてCO2が多い(あるいは逆)という意味ではない)
 大循環(体循環)においては大動脈に動脈血が流れ、大静脈に静脈血が流れておりわかりやすい。一方、小循環(肺循環)においては、肺動脈を静脈血が流れ、肺静脈を動脈血が流れ、一見、用語が逆転しているように見える。しかし「動脈」「静脈」は心臓に対する血流の方向性(心臓から出る方向の動脈、心臓に戻る方向の静脈)であり、動脈血・静脈血が血液中のO2・CO2の溶存量に注目した言葉で定義が異なるので、それを理解すれば理解できる。

3、心臓その2~冠循環と心疾患~

本ページは、「生理学の基礎の基礎」であるが、基本的な生活習慣病との関係も簡単に述べておきたい。(健康な状態のしくみを生理学、疾患につながるしくみを病理学というので、病理学の基礎の基礎の基礎に一部言及するということである)
上記心臓循環の中にも一言入れてあるが、心臓からの循環の一部に「冠循環(かんじゅんかん)」というものがあり、心臓を動かす筋肉にO2を供給するための循環である。左心室に近い大動脈の根元から冠動脈が分岐し、心臓の筋肉にO2を与えた上で、冠静脈になり、右心房に近い大静脈の根元で合流する。
この特に冠動脈中の血管の内部に血液中の余分なコレステロールなどが沈着したものがプラークであり、それが破綻する(破れる)とそこに血栓ができ、冠動脈がつまって血流が滞り、O2不足状態を生じ、心臓の筋肉が動かなくなる。これが心疾患の多くを占める虚血性心疾患(急性心筋梗塞など)であり、これを放置すると命に危険がある。AEDにより一時的に心臓のポンプ機能を回復させたり、閉塞の治療のため、冠動脈内にステントという内部を空洞にした円筒をはめ込んで冠動脈を内から支えるなどの治療が必要なことがある。

4、心臓その3~ペースメーカー~

心臓は1分間に約70回(つまり約1秒で1回)拍動する。1分間の心臓の拍動数を心拍数というが、運動時や精神的にドキドキする時は、交感神経の働きで心拍数が大きくなり、逆に副交感神経の働きで心拍数は減少など時々に応じた変化も可能である。ただ、基本的に、約70の心拍数を維持できるのは、心臓内部に自動的に心拍数を維持するしくみ「自動能」があるからである。自動能をつかさどっているのは刺激伝導系という筋肉などの細胞群である。

上大静脈に近い右心房壁にある洞結節はペースメーカーとも呼ばれ、心拍の起点となる。ここで毎秒約1回の活動電位を発生し、その興奮は上図→のように右心房・左心房を同時に収縮させる。
この活動電位は次に心房中隔(右心房と左心房の間の壁)にある房室結節を興奮させる。心房と心室は電気的に絶縁されているが、洞房結節の興奮は、心房→心室を貫くHis束(ヒスそく)を通って心室中隔(右心室と左心室の間の壁)の上部に伝わり、その後、下の→のように右心室と左心室の収縮を起こす。洞房結節・HIs束を経ることで、心房と心室の収縮時間が少しずれ、心房が収縮し、房室弁を経て血液を心室に送り出し、その後、心室が収縮するという交互の収縮で、血液受け入れと送り出しをうまく制御できる。

医療の治療では、心臓の拍動制御ができにくくなった患者の体内に「ペースメーカー」を埋め込むことがある。この場合のペースメーカーとは、人体自身のもともと備わっているはずの「洞結節」(ペースメーカー)を代用する医療機器のことである。

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