2023年大学入試共通テスト「生物」第1問「遺伝子と系統」、問題、解答、解説(計17点)

【解説】
問1

原核生物の転写調節・転写の関連ある遺伝子群のまとまりをオペロン(operon)という。

原核生物である大腸菌で、ラクトース代謝に関係する遺伝子群を発現することができるラクトースオペロン(lac operon)で説明する。

大腸菌はグルコース代謝を基本とする。グルコースが不足し、ラクトースのみがあるときにのみこのラクトース代謝関係の遺伝子群を発現させたい。

1、ラクトースがないとき(左図)
これがグルコースが豊富な場所でラクトース代謝の必要がない大腸菌の基本の状態である。ラクトースがない時は、ラクトース代謝関係の遺伝子群は働くことができないので、遺伝子は発現しないほうがよい。調節遺伝子が転写・翻訳されてできたリプレッサーがオペレーターに結合し、転写をするRNAポリメラーゼが、(DNAにおける結合場所である)プロモーターに結合することを妨げ、転写を抑制している。

、(グルコースがなく)ラクトースがあるとき(右図)
  この時は遺伝子発現が必要となる。。リプレッサーに、ラクトースから由来するラクトース代産物と結合し、オペレーターに結合できなくなる。その結果、プロモーターにRNAポリメラーゼが結合できるようになり、1つのmRNAが転写される。そして、その1つのmRNAから、図ではZ,Y,Aと表現された複数の遺伝子に指定された複数のタンパク質(Z.P.A)が合成(翻訳)され、このタンパク質群の共同で、ラクトースを代謝利用できるようになる。

オペロンを構成する個々の遺伝子の転写は、それぞれ異なる調節タンパク質によって制御される。→×(同じ1つの調節タンパク質)
オペロンを構成する個々の遺伝子は、それぞれ異なる種類のRNAポリメラーゼによって転写される。→×(同じ1つのRNAポリメラーゼ)
リプレッサーは、RNAポリメラーゼに結合して遺伝子の転写を抑制する。→×(オペレーターに結合する)
転写には、核内にある基本転写因子が必要である。
×(原核生物なので核膜に包まれた核はない。基本転写因子は核膜につつまれた核のある真核生物の核内で働く。)
調節タンパク質は、オペレーターに結合して遺伝子の転写を制御する。→

よって(4点)

 

問2

図1より、A、Bを含むオペロン、C、Dを含むオペロンは硫酸十分条件で発言し、E、Fを含むオペロンは硫酸欠乏条件で発現することがわかる。
(a) 遺伝子Aと遺伝子Bは、硫酸イオン濃度による制御を受けない。→×
(b)遺伝子Cと遺伝子Dは、主に硫酸十分条件で働く。→
(c)遺伝子Eと遺伝子Fは、メチオニンやシステインの少ないα/β複合体の各サブユニットのアミノ酸配列を指定する。→(EとFは硫酸欠乏条件で発現するので、本文より、硫黄を含むアミノ酸システイン・メチオニンの少ないアミノ酸配列を指定するとわかる。)
(d)シアノバクテリアは、硫酸欠乏条件では光合成を行わない。→×

よって、(b,c) (4点)

<参考>アミノ酸20種類

問3

の「転写調節領域」は真核生物の遺伝子発現に関与する領域で、原核生物にはない(原核生物はその役割を担う場所はオペレーターである)。よって、適当でないのは(4点)

<参考>真核生物の遺伝子発現調整

問4
以下の最新の植物界の系統樹を知っておくのが望ましい。


最大のポイントは横軸のクロロフィルの種類による分類で
クロロフィルaのみ ラン藻(原核生物)、紅藻
クロロフィルaとc  渦べん毛藻、ケイ藻、褐藻
クロロフィルaとb  ミドリムシ植物、緑藻、車軸藻、植物(コケ、シダ、種子)

昔はコケ・シダ・種子を「陸上植物」と表現していたこともあったが、他が〇藻と表現されることから単に「植物」との表記でコケ・シダ・種子を示すようになってきた。本設問でもそうである。(光合成を行う生物全体を示す時には「植物界」と表現すればよい。)

本設問で「集光装置」とされているのは図では「補助色素」と表現している。補助色素(集光装置)は、褐藻はフコキサンチン、紅藻ではフィコビリン(フィコシアノビリン)であり、それを知識として抑えていれば本設問は解きやすい。ただ、それを抑えてなくても、系統樹から「車軸藻」に近いのが、ともにクロロフィルa・bを持つ「植物」(ア)、その次に近いのが「緑藻」(イ)。そして、エとオは系統樹が近いので同じ集光装置を持った「褐藻」と「ケイ藻」。両グループから離れているのが独自の集光装置「フィコシアノビリンータンパク質複合体」の紅藻(ウ)とわかる。つまり「フコキサンチン・フィコシアノビリン」の知識がなくても、系統樹の位置関係さえ読めれば推定できる。(5点)。なお、同じクロロフィルa、bグループの中の類縁関係を逆としてしまったにも部分点2点が与えられている。)