2023年大学入試共通テスト「生物」第2問「色覚と嗅覚」、問題、解答、解説(計18点)

2023年8月 予備校講師・船橋市議 朝倉幹晴

2023年大学入試共通テスト「生物」第2問「色覚と嗅覚」の解答、解説(計18点)を作成しましたので、学習や入試対策にご活用ください。問題の最後の下にある「2」をクリックすると解答・解説のページに飛びます。(入試問題は白黒ですが、せっかくの画面上ですのでイメージ強化のため一部カラー化しました。

2023年大学入試共通テスト「生物」第2問「色覚と嗅覚」(配点18点)

次の文章(A、B)を読み、後の問い(問1~4)に答えよ。
A.ヒトでは、3種類の錐体細胞が色覚を担っている。各錐体細胞には光に反応する物質(視物質)が1種類ずつ存在し、3種類の視物質はそれぞれ異なる波長の光に反応する。これら3種類の視物質それぞれをつくる三つの遺伝子のうち、一つは常染色体に存在する。残りの二つはX染色体上に並んで存在し、(a)遺伝子重複によって生じたと考えられている。他方、多くの哺乳類では、この遺伝子重複が起こっていないため、視物質をつくる遺伝子がX染色体上には一つしかなく、2種類の視物質からなる二色型色覚になっている。(b)ノドジマオマキザルという霊長類の一種では、X染色体における遺伝子の重複は起こっていないのもかかわらず、二色型色覚の個体(以下、二色型)と三色型色覚の個体(以下、三色型)とが共存している。ノドジロオマキザルでは、X染色体上の一つの遺伝子座に複数の対立遺伝子があり、それぞれの対立遺伝子は互いに異なる色に対応するため、X染色体の遺伝子座がヘテロ接合体になっている個体は、三色型になる。なお、ノドジロオマキザルは、ヒトと同じ性決定様式を持つ。

問1 
下線部(a)について、次の記述(a)~(c)のうち、適当なものはどれか。それを過不足なく含むものを、後ののうちから一つ選べ。(4点)
(a)重複によって生じた遺伝子の片方に突然変異が起こることで、もう一方の遺伝子が合成するタンパク質とは異なるアミノ酸配列のタンパク質が合成されるようになることがある。
(b)重複によって生じた遺伝子の片方の転写調節領域に突然変異が起こることで、その遺伝子はもう一方の遺伝子とは異なる組織で発現するようになることがある。
(c)重複によって生じた遺伝子の片方に突然変異が起こることでその遺伝子の働きが失われても、個体の生存にとって不利にならないことがある。

問2 下線部bに関連して、動物の色覚にはその生態が関与している可能性がある。ノドジロオマキザルは森に棲み(すみ)、視覚を使って食物となる昆虫や果実を見つける。図1は明るさの違う場所での昆虫の発見効率を、二色型と三色型との間で比較した結果である。ここで、食物の発見効率が個体の生存に関連するとしたとき、X染色体の遺伝子座における遺伝子型を踏まえて、図1と図2から導かれる推論として適当なものを、のうちから二つ選べ。ただし、解答の順序は問わない。なお、食物の発見効率は性によらないものとし、果実の発見効率は明るさによらないものとする。新たな突然変異や遺伝子重複は考えないこととする。
(3点×2=6点)


果実が存在し、昆虫は存在しない場合、三色型が生存に不利になるだろう。
昆虫が存在し、果実は存在しない場合、二色型が生存に有利になるだろう。
暗い場所のみが存在し、果実は赤黄色のみが存在する場合、雌と雄のそれぞれに二色型と三色型が共存するだろう。
明るい場所のみが存在し、果実は赤黄色のみが存在する場合、世代を経ると三色型が増え、最終的に全ての個体が三色型になるだろう。
明るい場所のみが存在し、果実は赤黄色と緑色が混在する場合、世代を経ても二色型と三色型の共存が維持されるだろう。
明るい場所のみが存在し、果実は緑色のみが存在する場合、世代を経ると三色型の頻度は増加し、二色型の頻度は減少するだろう。

B 

ヒトのゲノムには、重複によって生じた数百種類の、(c)匂い(におい)の受容体(嗅覚(きゅうかく)受容体)の遺伝子があり、ヒトの感覚受容に役立っている。ヒトでは、空気中の匂い物質が鼻腔(びくう)の奥に到達し、嗅細胞(きゅうさいぼう)の繊毛に存在する嗅覚受容体に結合すると、電位が発生する。嗅細胞が受容した匂い物質の情報は、(d)脳の一次中枢(嗅球(きゅうきゅう))で分類されたのち大脳へと伝わり、匂いの感覚が生じる。図3は、ヒトの嗅覚の仕組みを模式的に示したものである。通常、1個の嗅細胞では1種類の嗅覚受容体のみが発現しており、同じ種類の嗅覚受容体を発現する嗅細胞の情報は、嗅球の1か所のみを興奮させる。嗅覚受容体は、何種類もの匂い物質と結合できるが、それぞれの結合の強さは匂い物質ごとに異なる。

問3
下線部(c)に関連して、ヒトは、ゲノムにある嗅覚受容体の遺伝子の数よりも、はるかに多くの種類の匂いを識別することができる。その仕組みを調べるため、嗅覚受容体Aを発現させた培養細胞Aと、嗅覚受容体Bを発現させた培養細胞Bとを用い、匂い物質C~Gの様々な濃度に対する興奮の大きさを調べたところ、表1および表2の結果が得られた。これらの結果から導かれる嗅細胞に関する推論として適当でないものを、後ののうちから一つ選べ。(4点)

嗅細胞によっては、興奮しない匂い物質がある。
嗅細胞が興奮する匂い物質の最低濃度は、匂い物質の種類によって異なることがある。
匂い物質の種類と濃度によっては、興奮する嗅細胞の組合せが異なる。
匂い物質の濃度が高ければ高いほど、嗅細胞は、より多くの種類の匂い物質に対して異なる興奮の大きさを示す。
匂い物質の種類が異なると、同じ濃度でも、嗅細胞の興奮の大きさが異なることがある。

問4 
下線部dに関連して、嗅球で匂いの情報が処理される仕組みに関する次の考察文中のアに入る数値として最も適当なものを、のうちから一つ選べ。
匂いの情報は、嗅球の興奮する位置と興奮の大きさの組合せとして表現されると考えられる。例えば、嗅細胞が10種類だけであるとする。このとき、それぞれの嗅細胞の情報は嗅球の異なる1か所ずつを興奮させるので、仮に嗅球の各箇所の興奮の大きさが最大値の0、30、65、100%の4段階しかない場合でも、興奮すると興奮する大きさの組合せは約通りとなる。このような仕組みが嗅球の数百か所で働くことで、ヒトは非常に多くの匂いを識別することができる。(4点)


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