2023年大学入試共通テスト「生物」第3問「葉緑体」、問題、解答、解説(計12点)


【解説】
問1

植物には、特定の波長(色)の光を受容し、特定の応答を行う光受容体がある。
赤色光受容体 フィトクロム(光発芽種子の発芽、光周性実験における光中断効果)
 青色光受容体 フォトトロピン(光屈性、気孔を開く)、クリプトクロム(茎の伸長抑制)

フィトクロムの作用は以下のようなしくみによる。

不活性型のフィトクロームは細胞質に存在するが、赤色光(660nm)が当たると、立体構造が変化し、核に移行し遺伝子を発現させる「活性型」となる。しかし、「活性型」に遠赤色光(730nm)があたると不活性型に戻る。
赤色光(red)吸収型フィロクロム(Phytochrome)をPr型といい、遠赤色光(far red)吸収型フィトロームをPfr型という。
「赤色光で活性型に変化」と聞くと、活性型フィトロムをPr型と勘違いしやすいが、活性型フィトクロムはPfr型である。
・Pr型は「これから赤色光を吸収できる型」であり、まだ赤色光を吸収していないから不活性型である。
・Pfr型は「これから遠赤色光を吸収できる型」であり、既に赤色光を吸収して活性型なったものである。
これを逆に勘違いしないように注意しよう。

植物ホルモンについては以下のまとめを参考にしてほしい。下の⇔にあるように種子発芽は、ジベレリンで促進、アブシシン酸で抑制される。したがって種子発芽時には、ジベレリン合成は誘導し、アブシシン酸の働きは抑制される。

日なたは葉陰と比較して、遠赤色光に対する赤色光の割合がア(高い)。このことから、植物によっては、日なたでPfr型フィトクロムがイ’(増加)にすることで、種子の発芽が促進される。この発芽の調節は、Pfr型フィトクロムのイ(増加)により、ジベレリンの合成が誘導されアブシシン酸の働きがウ(抑制)されることによる。よって

問2

まず、注意したいのは、本設問は「問1」で問われたようなフィトクロームの相互転換による種子発芽の促進・抑制の話ではない。
もしフィトクロームの相互転換の話ならば、660nmと730nmの2波長に焦点があてられるが、本設問では全波長に関する図が出されている。
この設問は葉緑体がどの光を吸収し光合成に使うかに関して問われている。

 



光合成では青色光と赤色光をよく使用し、緑や黄はあまり使用しない。葉が緑に見えるのは、葉が使用しない緑波長が反射や透過でヒトの眼に届くからである。(逆説的なことに、植物・自然保護の象徴とされている「緑」は、植物があまり使用しない色である)
本設問選択肢のグラフは「吸収の度合い」でなく、その逆の「吸収されずに透過した光」の率が縦軸となっているため、緑・黄色(500~600nm)が高く、青(400nm付近)・赤(700nm付近)が低くなっているはずである。したがってグラフは
になる。

葉陰に24時間置いた処理(処理1)直後と日なたに3時間置いた(処理2)直後を比較する。

すると、細胞内での葉緑体の配置が変化していることがわかる。特に細胞上面では、処理1(葉陰)では上面全体に分布し、処理2(日なた)では正面全体でなく辺縁部のみに分布していることがわかる。


光のあたる前面全体に分布するほど、光は吸収され透過量は少なくなるはずなので、処理2よりも処理1のほうが透過率グラフは下になる。したがって、

強光では葉緑体が、まるで光を避けるように辺縁部に移動する現象(弱光では光のあたる前面全体に分布する)現象を「葉緑体の(光)定位運動」という。以下の動画で確認してみてほしい。
●葉緑体、光定位運動(動画)

問3
実験2から、光環境の差をフォトトロピンで受容していることがわかる。
<参考 光受容体の基礎>

葉緑体の位置の違いに関係なく野生型・変異体ともに光合成速度が低下したことから、強い太陽光は、葉緑体に損害を与える可能性がある。→(実験3)
強光は人間にとっては紫外線を受けることで健康被害につながる恐れがある。光合成で光を必要とする葉緑体にとっても、強光は活性酸素発生などで構造に損傷を生じる原因となる。これを「光阻害」という。葉緑体自身がそれを避けるために強光を回避しようと辺縁部に移動する。

よく晴れた日が続くときに日なたで変異体Qと変異体Rを生育させると、変異体Qの方が変異体Rよりも成長速度が大きい。→× Qは逃避ができないので、「よく晴れた日が続く」場合には、葉緑体の損傷が著しく光合成速度も低下する。
野生型は、日なたでは葉緑体を細胞の側面に分布させることで、強い太陽光による葉緑体の傷害を避けている。→
葉陰以外の場所でも青色の光が弱い環境では、野生型の葉緑体は細胞上面と細胞表面に移動する。
 葉緑体の定位運動を引き起こす光受容体は青色光受容体のフォトトロピンのため、青色が弱いと回避行動が起こらず上面(底面)全体に移動する。

よって適当でないものは