2021年共通テスト(第2日程)「生物」第2問「光合成と発芽」(配点22点)問題・解答・解説

【解説】
問1

正しい選択肢を選ぶ問題ではなく「誤っているもの」を選ぶ問題でなので注意してほしい。問題文にも太字で書いてあるが、間違えないように「誤っているもの」を〇で囲むとよい。

ある地域に生息する同種の個体のまとまりを個体群(population)という。英語では人口と同じpopulationという用語である点が興味深い。なお多種類の生物の集団を生物群集(biotic community)といい、それをとりまく非生物的環境(abiotic environment)とあわせて生態系(ecosystem)という。
生物の個体数が増えることを個体群の成長といい、その場合、単位面積・体積あたりの個体数(個体群密度)も増加する。
個体群密度の増加による、個体群の性質の変化を密度効果(density effect)といい、次のようなものがあげられる。
1、小型化
2、出生率低下・死亡率増加
3、逃走・闘争本能発現
4、相変異(phase variation)

高密度下では、種内の個体の間で、動物の場合は食料や生活空間、植物の場合は光や土壌中の栄養分をめぐる種内競争が激しくなる。
1、小型化は、植物の場合、密度に反比例した小型化や、(光や土壌中の栄養分の不足による)一部の個体の枯死という形で起きる。農業的に見ると、同じ面積の土地(畑)に、作物の種子を「疎」に撒いた場合、個体数が少なくても1個体が大型化し、作物の「種子」を「密」に撒いた場合、個体数が増えても1個体が小型化し、結果としての面積当たりの収穫量は変わらない。
(ただし「疎」すぎると収穫量が減る。作物が伸ばし合った葉が、地表面に太陽を届かせないぐらいに広がりあえる密度が最低必要である。)

これを最終収量一定の法則という。

図で、撒いた後の初期(12日・21日)は、撒いた種子の密度に比例した単位面積当たり重量になっているが、「疎」な場合に1個体ごとの成長量が大きくなり、3・4か月後(84日・119日)では、撒いた種子の密度に関係なく「単位面積あたりの個体群の重量」が一定になる。(密度が高すぎると、種間競争が激しすぎて、途中で全個体が枯死してしまう場合もある。)
また動物の場合、密集しすぎると生存が困難になるため、出生率を低下させることでそれ以上密度を上昇させないこともある。植物の場合、密集しすぎた時に、一部個体が枯死する可能性が高くなる(死亡率が上昇する)ことで、個体群の過度な密集が避けられる。
3、逃走・闘争本能発現
レミング(ノルウエータビネズミ)が密集すると、集団移動をして、個体群密度を減らす、あるいは個体どうしの闘争が活発になり、個体数の減少や逃走による分散を促すなどもある。
4、相変異(そうへんい)
昆虫の中には高密度では、個体の形態が変わり移動性を増し、分散することで、個体群密度を減らす性質がある。形態や行動まで変わるこの変化を相変異という。
バッタの相変異が起こる。
純群落の中で、一部の個体が自然に枯れる。

作物の初期の密度が異なっても、最終の収量は一定になる。

中規模の攪乱(かくらん)によって植物の多様性が高まる。
攪乱(かくらん)とは、台風、洪水、火山噴火、(自然発生的な)山火事などの自然現象、あるいは、森林伐採・開発などヒトが引き起こす行為によって、生態系やその中の生物群集・個体群に影響が及ぶことをいう。
自然現象による「中規模の攪乱」では、たとえば、台風によって森林の一部の樹木が倒木することで、その空間(ギャップ)に、林床では生育できなかった陽性植物が発芽成長するなどして植物の多様性が増すことがある。よってこのは文章そのものは正しい。しかし、設問が求めている「種内の相互作用によって引き起こされる現象」条件には合わない。よって、が「誤っているものを選ぶ」答になる。

問2

植物の種子の発芽は以下の流れでおきる。(この図の説明で使用するは、後で説明する設問選択肢とは異なるのでご注意ください。)


発芽条件(通常は、水・O2・適温の3条件、光発芽種子の場合は+赤色光の4条件)が整うと、胚は植物ホルモン「ジベレリン」を合成し分泌する。

ジベレリンは種皮の内側(胚乳の一番外側)の糊粉層(こふんそう)に働きかけ、その細胞内でアミラーゼ合成遺伝子を発現させ、アミラーゼを分泌する。

アミラーゼが胚乳のデンプンを分解し糖にする。

その糖を呼吸(代謝)に利用し、胚が成長・発芽を開始する。

したがって本設問選択肢

アミラーゼは、デンプンを分解する能力をもつ。
デンプンが分解されて生じた糖は、胚に栄養分として供給される。

糊粉層(こふんそう)は、ジベレリンを合成する能力をもつ。

は事実としては正しいと知識としてはわかる。しかし、本設問は「実験1~3の結果から導かれる考察」を選ぶ問題である。生物の実験考察問題は、「知識」で正しいものを選ぶ問題ではなく、あくまで示された実験から導かれるものを答える問題である。この基本はよく理解しておいてほしい。

実験1、種子を発芽する条件に置くと、デンプンを分解する活性がみられた。
実験2、胚を取り除いた種子を用いて、実験1と同様の実験を行うと、デンプンを分解する活性はみられなかった。

実験3、胚を取り除いた種子にジベレリンを添加して、実験1と同様の実験を行うと、デンプンを分解する活性が種子にみられた。

実験1では通常状態が確認された(対照実験)。実験2では、胚の必要性が確認された。実験3では、ジベレリンが胚の存在の代替となることが確認された。
よって、実験から導かれる考察は(デンプンの分解における胚の役割は、ジベレリンの添加で代替できる。)である。

問3

下図に示すように、それぞれの高さにおける光の減少の程度を示すものは接線の傾きである。

 


この←が水平に近いほど、その高さにおいては急激に光の強さの減少がおきていること、すなわち葉の密度が高くて光をよく吸収していることを示している。したがって0.8の葉の密度が最も高い。

問4

光の強さと、植物の二酸化炭素吸収量(排出量)との関係を示した光ー光合成曲線を描くと以下のようになる。

光合成で、光エネルギーを吸収し有機物(グルコース)を作る反応
6CO2(吸収)+12H2O+光エネルギー→(C6H12O6)+6O2+6H2O

呼吸でグルコースを分解し、生命活動のエネルギーを得る反応
C6H12O6+6O2+6H2O→6CO2排出)+12H2O+エネルギー(最大38ATP・熱)

は逆反応である。

CO2吸収速度を示す縦軸において、0が中間にあり、0より下の場合(小さい場合)はCO2吸収が-、つまりCO2排出を示す。

まず図の赤線に注目してほしい。横軸の左端は光の強さが0、つまり暗所を示すが、その際は呼吸のみ行うのでCOが排出される。この値が呼吸速度となる。
光が徐々に強くなってきて、ちょうど呼吸で排出するCO2量(呼吸で消費するグルコースできる量)と同量のCO2吸収量の光合成が行われる(同量のグルコースを合成する光合成が行われる)と、その植物は生命活動の必要なグルコースの確保が補償される。この点を(光)補償点という。光補償点の場合よりも光が強くなると光合成量が呼吸量を上回り、その余剰のグルコースを使い植物は成長などをできるようになる。
さらに光が強くなった場合でも、植物は無限に光合成量を増加できるわけではない。温度やCO2濃度の他の要因の不足によってCO2吸収速度はある位置で頭打ちになり、それより光を強くしてもグラフは水平になりCO2吸収量は増加しない。この点を光飽和点という。

植物のタイプによって、グラフの値は変わってくる。赤線が、日のあたる場所に生育する陽生植物や陽葉とすると、日があたりにくい場所、たとえば森林の林床でも生育する陰生植物や陰葉は図の青線で示したようになり、以下のようになる。
・葉などが薄く、全体的に小型で、生命維持のための呼吸量が小さい
・呼吸量と釣り合う光合成量の値も小さくてよく補償点も低い
・大量の光合成はできないので光飽和点も低い。

次に量的な関係を示す用語を確認しよう。
植物が光合成する速度を「光合成速度」という。光合成で作られたグルコースのうち「呼吸」で消費された分を引いたものが、実際に増えたグルコース量となる。光合成速度から呼吸速度を差し引いたものを「みかけの光合成速度」という。
みかけの光合成速度=光合成速度ー呼吸速度

となる。この「みかけの光合成速度」分のグルコースを、植物は成長に使うことができる。
人間でたとえると
貯金=収入ー生活費
で、貯金から、旅行や趣味の費用を出すことができる。

昼間の時間帯だけで考える時は、
みかけの光合成速度=光合成速度ー呼吸速度
だけでよいが、昼・夜の1日サイクル考えると以下のようになる。
昼の時間は「みかけの光合成速度」分のグルコース貯蔵ができる。しかし夜は、昼に作った貯蔵を呼吸で消費するので、
1日経たグルコース増加量=みかけの光合成速度×昼時間ー呼吸速度ー夜時間
という計算になる。

設問の選択肢の中の高さから図1で、光の強さ(相対値)を出し、次に図2で、その光の強さでの二酸化炭素吸収速度を求めてみる。
群落内の高さが0の位置(地表)の葉の二酸化炭素の吸収速度は0である。
群落内の高さが0.1の位置の葉の一日をとおしての二酸化炭素の吸収量は負となる。
群落内の高さが0.3の位置の葉の二酸化炭素の吸収速度は、群落内の高さが1の位置の葉の二酸化炭素の吸収速度の0.7倍程度である。

群落内の高さが0.5の位置の葉の二酸化炭素の吸収速度は飽和している。

図に各色の線で描きこんでみると以下のようになる。


で説明する。選択肢が示す高さを図1の縦軸で選び、それに相当する光の良さを横軸で選ぶ。そして図2でその光の強さ(横軸)に相当するCO2吸収速度の値を縦軸で選ぶ。→のように見ていき、点線→で図1→図2を結んでいくと、選択肢が示しているCO2吸収速度が縦軸でわかる。 は点線→を省略してある。(この→の書き込みは、慣れない方が理解しやすいように書き込んだが、これが頭の中でできる人は書き込まなくてもよい。)

図2から、ぞれぞれの選択肢のCO2吸収速度(量)は、はマイナス(-)。(つまり排出)、は0、は0.3の位置が2目盛り、1の位置が8目盛り(図の縦の曲線でくくった部分)、は4目盛りとわかる。

群落内の高さが0の位置(地表)の葉の二酸化炭素の吸収速度は0(→-)である。×
群落内の高さが0.3の位置の葉の二酸化炭素の吸収速度は、群落内の高さが1の位置の葉の二酸化炭素の吸収速度の0.7倍程度(2目盛り/8目盛り で0.25倍である。×

群落内の高さが0.5の位置の葉の二酸化炭素の吸収速度は飽和している(→図2でグラフが水平の位置ではないので飽和していない)。×

群落内の高さが0.1の位置の葉の一日をとおしての二酸化炭素の吸収量は負となる。

図ではちょうど補償点なので0であるが、文内に「一日をとおしてのとある。夜は光合成できずCO2排出のみ(CO2吸収は負)であることを考えれば、「一日をとおしての」CO2吸収量は負である。(また図の注釈に「注:横軸は太陽の光が一番強いときの直射光の強さを100とした相対値を示す。」とあるので、昼でも補償点に達するのはその時間だけで、明け方は夕方はCO2吸収量は負であると考えられる。)

問5

植物には、特定の波長(色)の光を受容し、特定の応答を行う光受容体がある。
赤色光受容体 フィトクロム(光発芽種子の発芽、光周性実験における光中断効果)
 青色光受容体 フォトトロピン(光屈性、気孔を開く)、クリプトクロム(茎の伸長抑制)

フィトクロムの作用は以下のようなしくみによる。

不活性型のフィトクロームは細胞質に存在するが、赤色光(660nm)が当たると、立体構造が変化し、核に移行し遺伝子を発現させる「活性型」となる。しかし、「活性型」に遠赤色光(730nm)があたると不活性型に戻る。
赤色光(red)吸収型フィロクロム(Phytochrome)をPr型といい、遠赤色光(far red)吸収型フィトロームをPfr型という。
「赤色光で活性型に変化」と聞くと、活性型フィトロムをPr型と勘違いしやすいが、活性型フィトクロムはPfr型である。
・Pr型は「これから赤色光を吸収できる型」であり、まだ赤色光を吸収していないのだから不活性型である。
・Pfr型は「これから遠赤色光を吸収できる型」であり、既に赤色光を吸収して活性型なったものである。
これを逆に勘違いしないように注意しよう。


下層には赤色光は届かず、遠赤色光は届くので、遠赤色光優位(赤色光に対する遠赤色光の比率が高い)となる。
するとフィトクロムは遠赤色光を吸収し、不活性型(赤色光吸収型)となる。したがって、森林の下層では、赤色光を発芽に必要とする光発芽種子は発芽しない。下層ではたとえ発芽しても光が届かないと枯死してしまう可能性が高い。なんらかの環境変化があって、光が届くなるようにまるまで休眠し続けることで、無駄な発芽・枯死を防ぐことができる。

群落の下層では、赤色光に対する遠赤色光の比率がア(高く)、植物の中のフィトクロムはイ(赤色光吸収型)である
よって、

問6
小問の問題文に「建物の陰と植物の陰とでは、光発芽種子の発芽率は異なる」とあるが、「建物の陰」が生まれたのは、ホモサピエンス登場後であり、陸上植物の進化の歴史の大部分は「陰」は他の植物によるものだった。したがって、問5のしくみで避けているのは

(ほかの植物個体との潜在的な競争が存在する環境)である。

合成に緑色の光を利用できない環境×→通常ありえないし、本設問の図で問われている内容ではない。
昼間に呼吸ができない環境×→通常ありえない。
花を咲かすことができない環境×→通常ありえないし、本設問の図で問われている内容ではない。
被食にさらされる環境×→これは光環境に関係なく全ての植物が常にさらされている。このしくみで防ぐこともできない。