2021年大学入試共通テスト「生物」(第2日程)第4問「腎臓のはたらき」(配点15点)問題・解答・解説

本設問は腎臓の働きに関する初歩の認識に加えて、発展編(髄質の関与、対向流理論など)をふまえたほうが理解しやすい。
初歩の説明では、体液全体の浸透圧バランス(濃度)調整を把握するため、水とNa(NaCl)の役割が背反的であると説明したほうが単純でわかりやすい(特にバソプレシンと鉱質コルチコイドの理解)ので、私はそう説明している。
しかし、発展を理解するためには、腎臓のネフロン・集合管においては水とNa(NaCl)の働きは背反的でなく、連動していると考えたほうがよい。微細な世界では連動しながらも、体液全体の浸透圧バランス(濃度)調整を考える時には背反的ととらえたほうがわかりやすいので、前半と後半の説明は、その違いがあると考えてほしい。

【腎臓に関する初歩の認識】

腎臓は、尿素などの窒素性排出物を排出するとともに、体液の浸透圧(濃度)調整に関わる。
腎臓は上図のように皮質・髄質、そして尿をぼうこうに運ぶ輸尿管につながる腎うからなる。皮質にはネフロン(腎単位)と呼ばれる基礎単位が、右腎に100万、左腎に100万ある(ネフロンの一部の深部は髄質側にも差し掛かる)。ネフロンでは腎動脈から由来する血液はネフロン内で毛細血管のかたまりである糸球体を通過する。糸球体において、血しょう(血液の液体成分)の一部が、周りを取り囲むボーマンのうにろ過される。このボーマンのうはその後、細尿管(尿細管)→集合管→腎う→輸尿管→ぼうこう→尿道にいたる尿を体外に排出する管とつながっている。糸球体を経た血液は、細尿管(尿細管)や集合管をとりまく毛細血管を経て、腎静脈にいたる。
この過程で、尿排出にいたる管と血管の間で、何段階かで物質のやりとりが行われる。以下の説明では、糸球体・毛細血管側を赤、尿にいたる管を黒で表現する。

ろ過糸球体→ボーマンのう)
水・糖(グルコース)・アミノ酸・無機塩(Na+含む)・尿素など、糸球体・ボーマンの基底膜の孔よりも小さな物質は、種類に関わらずろ過される。これはエネルギーを使わない受動輸送である。エネルギーを使わず、「孔」よりも小さい物質だけを通す「コーヒーフィルター」と同じ働きでろ過という。なお基底膜の孔より大きい(正確には電荷の影響もある)タンパク質や血球はろ過されず、毛細血管側に残る。このようにして一旦ボーマンのう側に出された液体を原尿という。タンパク質を除く血しょう成分は、基本的にそのままの濃度で原尿に移行する。

再吸収(細尿管→毛細血管

でいったんボーマンのう側に排出され腎細管を通っている糖(グルコース)・アミノ酸のほとんどと、水や無機塩類(Na+など)の多くは、尿に逃がさず体内で使うため、濃度勾配に逆らってでも毛細血管側に再吸収する。基本的にはATPのエネルギーを使った能動輸送である。(一部の物質は、他の物質の能動輸送が作り出した環境を活用して受動輸送される)
なお、老廃物である尿素も一部再吸収される。

追加分泌毛細血管→細尿管

(これは「生物基礎」の範囲ではなく「生物」の範囲なので、「生物基礎」のみの受験者は知らなくてよい)
でのろ過時間は短いため、老廃物の中には排出しきれず毛細血管に残っているものもある。そのようなものを毛細血管側から腎細管に追加で排出することがある。と同じ部位で起きるが輸送の向きが逆である。このような物質として有名なのがPAH(パラアミノ馬尿酸)があり、腎機能の検査に応用できる。

水・Na+・尿素の再吸収(集合管毛細血管腎臓髄質の間質
水の再吸収は(細尿管)でも行うが、複数のネフロンからの細尿管の流れが集合した管である集合管で多量に行う。細尿管が各家庭内の排水管とすると、集合管は各家の排水管が集合した街の道路の下の下水管のような存在である。なおここで吸収したものは、すぐに毛細血管に入らず、腎臓髄質の間質にとどまるものもある。老廃物である尿素も一部再吸収される(尿素の再吸収は一部、細尿管でもおきる)。
体が水不足(Na+過剰)な場合、パソプレシンがここに働き、水の再吸収を促進する。
体がNa+不足(水過剰)の時には主に鉱質コルチコイドが働き、Na+の再吸収量を増やす。(なお鉱質コルチコイドはでも働く。)
(注、この両ホルモンの作用がなくても、生理的に一定量の水・Na+再吸収は常におきている。この両ホルモンは日々の体内の水・Na+変化に応じで、主に集合管で、再吸収総量と比べると、「微調整」をしている。しかし、この「微調整」が健康保持に不可欠である。)

以上のプロセスで再吸収されなかったものが、尿となる。成分としては水が主成分で尿素を多く、Na+を少量含み、糖尿病でなければグルコースは含まれない。

人体の浸透圧(体液の濃度)を決める要素が様々あって簡単ではない。ただ、初歩の理解としては「水とNa+(塩分)のバランス」で大筋が決まり、どちらかが不足する時に、それを尿に逃がさず体内にとどめるように再吸収を促進すると考えてよい。したがってNa+過剰の時は相対的に水不足と考えてよくバソプレシンが働きやすく、水過剰の時は相対的にNa+不足と考えてよく、鉱質コルチコイドが働くと考えてよい。

 

問1

ろ過において「タンパク質を除く血しょう成分は、基本的にそのままの濃度で原尿に移行する。」ので、原尿は血中濃度と同じグルコース濃度となる。また、再吸収は能動輸送であり、ある量を超えたグルコースはその再吸収能力を超えて尿に排出されてしまう。それが糖尿病で尿に糖が排出されてしまう原因である。よって

【腎臓に関する発展的認識】


問題文の図に若干加筆して、発展的な認識を説明しよう。
細尿管は以下3つの部分で構成されている。
・近位細尿管ー腎小体からすぐに接続している(近い位置に)部位で皮質にある。
・ヘンレループー近位細尿管から一旦、髄質内層まで向かい(下向脚)、次に再び皮質方向に戻る管(上行脚)とつながるループ。
・遠位細尿管ー腎小体・近位細尿管に近い位置の皮質で集合管につながる管

そして図の→からわかるように主に以下の働きをしている。
・近位細尿管ーグルコース・アミノ酸など多くの再吸収がここで行われる。後半で調整されるNa+であっても全体の67%の再吸収はここである
・ヘンレループーNaCl(正確にはNa+のCl-の再吸収は異なる部分もあるがほぼ連動するのでこの図ではNaClと書いた)の再吸収での高濃度や尿素の高濃度を活用しながら、水は再吸収する。
・遠位細尿管ー近位細尿管・ヘンレループで再吸収が不十分だったものをフォローし再吸収

●ヘンレループにおける対向流系での水再吸収
原尿は、ヘンレループで、皮質→髄質→皮質と移動するうちに水の再吸収が促進される。その原動力は図で上行脚でのNaClの能動輸送による再吸収と、集合管での尿素の再吸収である。で再吸収されたNaClは、(後述)のNaCl、またの尿素と合わせて、髄質内部の高い浸透圧(濃度)を構成し、外層と比較した時に、下(内層)に向かうほど高浸透圧(高濃度)となる濃度勾配を構成する。すると近位細尿管から(水の透過性がある)下行脚を流れる原尿は進むにつれて周りの髄質間質が高浸透圧なので、水が高浸透圧側の髄質に移動し、そこにある毛細血管(この図では省略してあるが最初の説明図では描いてある)に再吸収される。上行脚に入ると原尿は進むにつれて周りが低浸透圧となるので、NaClは受動輸送で髄質側に輸送される。なお、上行脚のループは水の透過性はなく水の再吸収は上行脚では起きない。このように浸透圧差がある髄質外層・内層の間質中を原尿が下行脚→上行脚と「対向」する流れの中で水が再吸収されるしくみを対向流系という。

ここではNaClが再吸収され、髄質間質を高浸透圧にすると、その間質側に水が再吸収される。NaCl(Na+)移動の方向へ水も移動するので、このような微細な空間ではNaCl(Na+)と水の動きは連動していると考えよう。

問2

「Xの標的分子がNa+(図ではNaClで示している)を能動輸送するタンパク質Yであるとするとと書いてある。標的分子とは結合して働く分子である。Yの働きを止めたり(、XとYとの結合を阻害したり()、能動輸送のエネルギーであるATPの供給を枯渇させる()と効果がなくなると予測される。
が間違いである。DNA合成は細胞増殖する細胞では細胞分裂の準備として必要であるが、すでに分化した細胞がその働きを行うのでDNA合成は必要ではない。よって、本実験はXの作用を確かめる実験にはならない。(DNAの転写・翻訳は必要な場合はある)

問3

能動輸送のためにはATPのエネルギーが必要で、ミトコンドリアが発達しているはずなのでは2層の細胞からなり、薄く物質透過性が高い内皮細胞()。はゴルジ体が発達しているので、ホルモンなどを分泌する細胞()。
よって、

問3

図を見て本文をそのまま読んでいけば、アクチンフィラメントのモータータンパク質がミオシンということさえわかれば解けるはずである。

メアリ:バソプレシンは、集合管の上皮細胞の細胞膜におけるアクアポリンの量を変えることで、水の再吸収量を制御しているのね。
アリス:バソプレシンはどうやってアクアポリンの量を変えているのかしら。
メアリ:こんな実験があるよ。ラットの集合管上皮細胞におけるアクアポリンの分布を調べたら、図2のようにア(細胞内部)に分布していたんだけど、この上皮細胞にバソプレシンを作用させると、図3のようにイ(細胞表層)動したそうよ。
ルイジ:アクアポリンはどうやって細胞内を移動するのかな。
メアリ:このアクアポリンの移動は、アクチンフィラメントを分解する薬剤では阻害されたけれど、微小管を分解する薬剤では何も効果なかったんだって。
→アクチンフィラメントを分解する薬剤で阻害されるので、アクチンフィラメント上を動くモータータンパク質であるミオシンである。(微小管を分解する薬剤では阻害されないので、微小管上のモータータンパクのダイニンではない。)
アリス:つまり、バソプレシンは、モータータンパク質であるウ(ミオシン)に働きかけて、アクアポリンのア(細胞内部)からイ(細胞表層)への移動を促進し、集合管における水の透過性をエ(高く)しているのね。
   →アクアポリンが細胞膜に配置されると水の透過性を促進し水を吸収する

よって

●細胞骨格(モータータンパク質)のまとめ


最後の本小問で聞かれたバソプレシンとアクアポリンの作用の関係をまとめよう。
バソプレシンは体が水不足の時、腎臓集合管での水再吸収を促進し尿を減らす。利尿を減らすので抗利尿ホルモンともいう。バソプレシンは脳下垂体後葉から血液中に分泌されるホルモンであるが、バソプレシンが分泌されないとき(分泌量が少ないとき)と、分泌される時の、集合管での作用の差は以下の図のように切り替えられる。


バソプレシンが分泌されると、上図のように、上皮細胞の血管側面の細胞膜にあるパソプレシン受容体が、バソプレシンを受け止める。するとその刺激により、細胞内のアクアポリンを持つ小胞が、集合管管腔側の細胞膜に移動し融合し、集合管管腔側の細胞膜にアクアポリンが配置されることになり水再吸収を促進する。逆にバソプレシンがなくなると、このアクアポリンは再び小胞として細胞内に収納され、上図のように、アクアポリンが細胞膜にないため、水再吸収は促進されなくなる。