2022年大学入試共通テスト「生物」第3問「発生」、問題、解答、解説(計19点)

2022年7月 予備校講師・船橋市議 朝倉幹晴

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2022年大学入試共通テスト「生物」第3問「発生」(計19点)

第3問 次の文章を読み、後の問い(問1~5)に答えよ。

 

マウスの前肢と後肢やニワトリの翼と脚など、四足(四肢)動物の肢は、肢芽と呼ばれるふくらみから形成される。肢芽は、胚の前後軸に沿った特定の部位に移動してきた側板由来の細胞が、表皮に覆われて形成される。形成された肢芽は伸長し、外胚葉と中胚葉の相互作用によって、それぞれの部位に特有の肢を形成する。このことを学んだミハルとヒデヨさんは、この仕組みについて議論した。

ミハル:肢芽がそもそもからだのどこに形成されるかは、どの(aホックス(Hox)遺伝子がどの体節で働くかによって決まっているそうだよ。
ヒデヨ:だから、同じ鳥類でも、Hox遺伝子の発現の場所が異なることで翼が生じる場所が変わるから、首が長いものと短いものとがいるんだね。
ミハル:Hox遺伝子の発現する場所が変化しなくても、Hox遺伝子によって直接的または間接的に制御される遺伝子の発現や働きを変えることでも、肢芽が本来とは別の場所に形成されたり、その肢芽が翼や脚を形成したりしそうだよね。
ヒデヨ:それは面白そうだね。そういう論文があるか、図書館で調べてみよう。

ミハルさんとヒデヨさんは、図書館に行って、ニワトリ胚の肢芽で外胚葉と中胚葉の相互作用を変化させた実験1~3を行った論文を見つけた。

実験1 肢芽が途中まで伸長した段階で、肢芽の先端の表皮を除去したところ、肢芽の伸長は停止した。しかし、表皮を除去した肢芽に、肢芽の先端の表皮から分泌されるタンパク質Wを染み込ませた微小なビーズを埋め込んだところ、肢芽は正常に伸長した。
実験2 本来は肢芽を形成しないわき腹の表皮の下に、タンパク質Wを染み込ませた微小なビーズを埋め込んだところ、わき腹に新たな肢芽が形成された。新たに形成された肢芽は、翼になる肢芽の近くにあると翼を、脚になる肢芽の近くにあると脚を形成した。
実験3 翼になる予定の前方の肢芽と脚になる予定の後方の肢芽との間で発現に違いのあるタンパク質を探したところ、前方の肢芽の側板由来の細胞から調節タンパク質Xが、後方の肢芽の側板由来の細胞から調節タンパク質Yが、それぞれ見つかった。実験2と同様にわき腹の中間に形成させた新たな肢芽で、調節タンパク質Xまたは調節タンパク質Yを発現させたところ、肢芽はそれぞれ翼または脚を形成した。

ヒデヨ:論文を読むと、(b)外胚葉と中胚葉の相互作用が変化することで2対の翼や2対の脚を持つニワトリができるのだから、形態形成の過程は想像以上に2対の脚を持つニワトリができるのだから、形態形成の過程は想像以上に柔軟だということが分かるね。そういえば、この相互作用が邪魔されて2対の後肢が生えるカエルが、自然界では見つかっているそうだよ。
ミハル:でも、よく考えたら、実験3だけでは、正常発生でからだの前方の肢芽が翼を形成する仕組みに、調節タンパク質Xが本当に必要かどうか分からないよね。
ヒデコ:それを証明するためには、調節タンパク質Xの遺伝子を、ニワトリのからだのの肢芽で、その部位でことを確かめればいいんじゃないかな。
ミハル:なるほどね。次は、(c)肢芽ができるときに、どの辺りの細胞が分裂して増えるか調べる方法を考えてみようよ。
ヒデヨ:(d)正常発生で、わき腹で肢芽が形成されないようにしている仕組みにも興味があるね。

問1 下線部(a)について、次の記述のうち、正しい記述はどれか。その組合せとして最も適当なものを、のうちから一つ選べ。(4点)

核に移動してDNAに結合するタンパク質の遺伝子である。
連鎖している遺伝子群である。
母性効果遺伝子(母性因子)である。
バージェス動物群はまだ持っていなかったと考えられる遺伝子である。

問2 下線部()について、次の記述のうち、二人の会話と実験1~3の結果とから導かれる考察はどれか。それを過不足なく含むものを、のうちから一つ選べ。(3点)
正常発生において、からだのどこに肢芽を形成するかを最初に決めているのは、Hox遺伝子を発現する中胚葉である。
肢芽の形成と伸長を支えているのは、外胚葉である。
からだの前方の肢芽が翼を形成することを決めているのは、からだの前方の外胚葉である。

問3 次の文は、上の会話文の一部を再掲したものである。文中のア~エに入る語句の組合せとして最も適当なものを、のうちから一つ選べ。(4点)

それを証明するためには、調節タンパク質Xの遺伝子を、ニワトリのからだのの肢芽で、その部位でことを確かめればいいんじゃないかな。

問4 下線部()に関連して、ミハルさんは、生体を構成する分子に目印をつけたものを一定時間取り込ませることによって、その時間内に分裂した細胞に目印を蓄積させ、分裂した細胞の場所を調べる方法を考えた。目印をつける分子は、細胞が増殖せずに活発に活動しているだけで蓄積してしまう分子ではなく、必ず細胞分裂に伴って取り込まれる分子でないといけない。目印をつけるべき分子として最も適当なものを、のうちから一つ選べ。(4点)

メチオニン
ウラシルを含むRNAのヌクレオチド
チミンを含むDNAのヌクレオチド
アセチルCoA

問5 下線部(d)に関連して、ヒデヨさんは、わき腹になる領域の将来体節になる細胞(以下、予定体節細胞)が肢芽の形成を抑えていることを明らかにした論文を見つけた。そのなかで行われた実験とその結果として適当でないものを、のうちから一つ選べ。(4点)

わき腹になる領域の予定体節細胞を死滅させたところ、肢芽になる領域が盛んに細胞分裂する様子がみられた。
わき腹になる領域の予定体節細胞を死滅させたところ、肢芽になる領域でタンパク質Wを発現する細胞数が減少した。
わき腹になる領域の予定体節細胞を除去し、肢芽になる領域の予定体節細胞に置き換えたところ、発現するタンパク質Wの質が増加した。
肢芽になる領域の予定体節細胞を除去し、わき腹になる領域の予定体節細胞に置き換えたところ、生じた肢芽が小さかった。

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