2022年大学入試共通テスト「生物」第2問、問題、解答、解説(計22点)

2022年7月4日 予備校講師・船橋市議 朝倉幹晴

2022年大学入試共通テスト「生物」第2問解答の解答、解説(計22点)を作成しました。学習や入試対策にご活用ください。

第2問 次の文章(A・B)を読み、後の問い(問1~6)に答えよ。(計22点)

A キク科の草本Rには、A型株とB型株とがある。両者は遺伝的な性質や形態が異なり、互いに交雑することがない。A型株は病原菌Pに感染することがあるが、B型株は病原菌Pに対する抵抗性を持ち、病原菌Pには感染しない。
アオバさんとミノリさんは、草本RのA型株とB型株とを高密度で混ぜて栽培した実験1に関する資料を見つけ、このことについて話し合った。

実験1 温室内の2箇所の栽培区画のそれぞれに、草本RのA型株とB型株の芽生えを144個体ずつ混ぜて植えた。片方の区画を感染区とし、感染区では病原菌PをA型株に感染させた。両区の個体を同じ環境条件で育成し、十分に成長させた後、健全区と感染区においてA型株とB型株の個体数と個体の乾燥重量をそれぞれ測定し、図1のように頻度分布としてまとめた。

アオバ:図1を見ると、個体によって乾燥重量が違うね。乾燥重量が大きい個体は小さい個体よりも高い位置に多くの葉を配置して、光をたくさん浴びることができるということだよね。
ミノリ:そうだね。つまり、光は植物の生存に必須の資源なので、個体が重いほど生存に有利になるということが言えるね。
アオバ:だけど、健全区のA型株ではB型株よりも重い個体が多いのに、個体数の差はほとんどないよ。
ミノリ:実験1では1年しか栽培していないからね。個体数が変わらなくても、(a)個体の大きさが違うので、生産される種子数は変わってくるはずだよ。

問1 下線部(a)に関連して、実験1の健全区において、A型株とB型株が生産した種子数の総計は、それぞれ約2000個と約200個であった。個体の乾燥重量が同じであれば、A型株とB型株とが生産する種子数は互いに等しいとするとき、草本Rの個体の乾燥重量と個体当たりの種子生産数との関係を表す近似曲線として最も適当なものを、図2中ののうちから一つ選べ。(4点)

二人はさらに文献を調べ、実験1が行われた歴史的背景に関する資料1を見つけ、話し合った。

資料1 1960年代のオーストラリア南東部では、草本Rが外来種として侵入し、深刻な農業被害が発生していた。当時、多くの場所で農作物の脅威となったのはA型株であった。そこで、1971年に病原菌Pを海外から移入してA型株に感染させ、草本Rの防除を図った。しかし、結果として、それまで少数派であったB型株が多くの場所で繁茂し、農業被害を起こし始めた。

アオバ:外来の病原菌を移入する際には、慎重な検討が必要だね。
ミノリ:B型株が繁茂した理由を調べるために、実験1が行われたんだね。
アオバ:()1971年を境にA型株とB型株に何が起こったのか、図1をもとに考えてみようよ。

問2 下線部(b)に関連して、図1の結果と資料1から導かれる。病原菌の移入前後のオーストラリアにおける草本RのA型株とB型株の状況に関する考察として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。(4点)

病原菌Pの移入前には、B型株はA型株が繁茂しない日照条件が悪い農地でのみ生存していたため、個体数の増加が抑えられていた。
病原菌Pの移入前には、B型株はA型株との非生物学的環境をめぐる競争によって、個体数の増加が抑えられていた。
病原菌Pの移入前には、B型株は同系株どうしの生育場所をめぐる競争によって、個体数の増加が抑えられていた。
病原菌Pの移入後には、B型株はA型株と異なる生態的地位を占めるようになり、A型株とB型株の両方の個体数が増加した。
病原菌Pの移入後には、B型株は病原菌と相利共生の関係になり、A型株に対する競争力を高め、個体数が増加した。
病原菌Pの移入後には、A型株の多くの個体が病原菌に対する抵抗性を獲得し、B型株へと変化することで、B型株の個体数が増加した。

 

B 栽培種のキクも、病原菌に感染するいとで枯れたり成長が抑制されたりすることがある。そこで、トランスジェニック植物の作製技術を用いて、キクに病原菌に対する抵抗性を付与する研究が進められている。その実験方法の一例として、手順1~3がある。

手順1 薬剤Kの耐性遺伝子Xを組み込んだプラスミドを準備する。薬剤Kを与えると、遺伝子Xが導入されていない植物の細胞は増殖できないが、遺伝子Xが導入された植物の細胞は増殖することができる。(このプラスミドに病原菌に対する抵抗性を付与する遺伝子YのDNAを組み込み、図3のプラスミドを作製する。なお、作製したプラスミドにおいて、遺伝子Xと遺伝子Yはいずれも転写調節領域とプロモーターに連結されており、それぞれの遺伝子は導入された植物細胞で発現する。

手順2 図3のプラスミドをアグロバク手リウムに導入する。このアグロバクテリウムを、輪切りにしたキクの茎の細胞に感染させる。その後、茎から多数の新たな芽(不定芽)を形成させる。これらの不定芽には、遺伝子Xと遺伝子Yの両方が導入されたものと、どちらも導入されていないものとがある。
手順3 (d薬剤Kを含む培地で、手順2で得られた不定芽を培養する。その後、不定芽から植物体を再生させ、トランスジェニック植物を作製する。作製したトランスジェニック植物で(e)遺伝子Yが発現していることを確認する。

問3 下線部Cについて、プラスミドに遺伝子YのDNAを組み込む際に必要な処理や操作に関する次の文中のア・イに入る語句の組合せとして最も適当なものを、後ののうちから一つ選べ。
遺伝子YのDNAの両端とプラスミドのそれぞれをで切断後、を用いて両者をつなぐ。(3点)

問4 下線部について、トランスジェニック植物の作製過程で、この操作を行う理由として最も適当なものを、から一つ選べ。(4点)
遺伝子Yが導入された細胞で、遺伝子Yの働きを適度に弱めるため。
遺伝子Yが導入された細胞の分化を抑制し、導入されていない細胞の分化を促進するため。
遺伝子Yが導入されていない細胞が、増殖しないようにするため。
遺伝子Yが導入されていない細胞が、未分化な状態を維持するため。
遺伝子Yが導入された細胞とされていない細胞を同程度に増殖させるため。

問5 下線部(e)について、図4はキクの染色体に組み込まれた遺伝子Yを模式的に示したものである。トランスジェニック植物における遺伝子Yの転写に関する後の文章中のに入る語句の組合せとして最も適当なものを、後ののうちから一つ選べ。(3点)

遺伝子Yはによって転写される。遺伝子Yが転写される際にアンチセンス鎖(鋳型鎖)となるのは、図4に示す2本鎖のうち、の鎖である。

問6 手順1~3により作製したトランスジェニック植物を自家受粉させて多数の種子を回収し、発芽させ、育てた。このとき得られた個体のうち、病原菌に対する抵抗性を持つ個体の割合として最も適当なものを、次ののうちから一つ選べ。ただし、トランスジェニック植物を作製したキクは二倍体であり、遺伝子Yはキクの細胞で1本の染色体の1箇所に組み込まれたものとする。(4点)

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