2022年大学入試共通テスト「生物」第2問、問題、解答、解説(計22点)


【解説】

問1

共通テストのグラフは正確な目盛りが打っていないことが多い。したがって正確な計算ではなく、概数で選択肢が選べる問題となっている。つまり計算の正確性より概数把握が重視されている。そのことを意識しながら解く。以下解答の発想例であり、図中ア→オの順に考えとグラフの解釈を進めていくと求められる。(他の発想での求め方もある)

 

問2


A型株とB型株は同じキク科の草本Rの株なので、形態(草丈・生産構造)は近いと考えられる。したがって乾燥重量が大ききれば、草丈も高く、より高い位置で光(非生物的環境)を受け止めることができ光合成競争に有利と考えられる健全区ではA型株のほうが乾燥重量が大きく草丈も高く、前問のように種子生産量も多いので、B型株は光をめぐる競争に負けて、感想重量が小さい(草丈が低い)もののみとなっている。しかし、病原菌PによってA型株の草丈の高いものがいなくなると、今度はB型株が光合成競争に勝ち、草丈の高い個体も生育できるようになる。よって、

病原菌Pの移入前には、B型株はA型株が繁茂しない日照条件が悪い農地でのみ生存していたため、個体数の増加が抑えられていた。×
→前問(図1)で、A型株とB型株混植してもそれぞれ生育できているので、「B型株はA型株が繁茂しない日照条件が悪い農地でのみ生存」とは考えにくい。

病原菌Pの移入前には、B型株はA型株との非生物学的環境をめぐる競争によって、個体数の増加が抑えられていた。(4点)
病原菌Pの移入前には、B型株は同系株どうしの生育場所をめぐる競争によって、個体数の増加が抑えられていた。×
→競争は同系株どうしでなく、A型株とB型株の間でおきている。

病原菌Pの移入後には、B型株はA型株と異なる生態的地位を占めるようになり、A型株とB型株の両方の個体数が増加した。×
→同じキク科の草本A型株とB型株が環境によって短期間に生態的地位が変わることはない。
病原菌Pの移入後には、B型株は病原菌と相利共生の関係になり、A型株に対する競争力を高め、個体数が増加した。×
  →問題文中にその記述はない。
病原菌Pの移入後には、A型株の多くの個体が病原菌に対する抵抗性を獲得し、B型株へと変化することで、B型株の個体数が増加した。×
 →問題文中にその記述はない。

問3

図のように切断する酵素は制限酵素連結する酵素はDNAリガーゼである。よって、(3点)
DNAヘリカーゼ(helicase)は二重らせん(double helix)を一本鎖にほどく酵素でDNA複製の時働く。

問4

植物細胞には、ある確率でプラスミドが組み込まれる。つまり植物細胞の中に目的遺伝子を持つプラスミドが「組み込まれない細胞」と、「組み込まれた細胞」の2種類が混在する。プラスミドの中に薬剤K耐性遺伝子を組み込んでおき、薬剤K培地で育てれば、実験に使いたい「組み込まれた細胞」だけを増殖させ、「組み込まれない細胞」は増殖させないことができる。よって(4点)

問5

英語でも日本語でも文章は左→右の方向に読む。したがって、分子生物学の論文や図の表記でもその順に表記したほうがわかりやすいので、ほとんどの図はそうなっている。
遺伝子発現の方向は「転写調節領域への転写調節タンパク質の結合→プロモーターへのRNAポリメラーゼ結合→その下流の遺伝子を転写する」であり、この順に「左→右」に描く図が多い。
ところが本設問の図は(受験生を混乱させるためわざと)、通常に表記と左右が逆となっている。
そんな時はあわてず、問題用紙自体を180°回転させて、いつもの見慣れた順に直して考えるとよい。ただし、その場合、設問で問われている「上の鎖」「下の鎖」が逆転するので、180°回転させる前に「上」「下」を明記しておく。
入試の時は、問題用紙を180°回転させればよいが、本説明では、以下、図を180°回転させて描き直した。そして、この2本鎖DNAがほどかれた場合、下側が3´→5´の鋳型鎖となり、ここをRNAポリメラーゼが移動することで、5´→3´の方向のmRNA前駆体が転写されていく。図に明記したように、非鋳型鎖は最初の図で上の鎖である。よって、 (3点)。DNAポリメラーゼはDNA複製の際の酵素である。

<転写・翻訳の基礎の確認>

細胞における情報伝達と遺伝子発現の流れを確認しておこう。図を上から順にみてほしい。

他の細胞からの体液(血液など)を通じて細胞表面に到達した刺激物質をリガンドと総称する。ホルモンなどがその一例である。それが細胞膜表面の
受容体に受け止められと、細胞室内(核外)にシグナル伝達という連続反応が起き、その情報を受け継いだ調節タンパク質が核内に移行し、遺伝子上流の転写調節領域(設問図のア)に結合する。すると核内にもともと存在していた基本転写因子との協調により、その近傍にDNAからmRNAの転写を始める「RNA polymerase」が結合する。基本転写因子やRNA polymeraseが結合するDNA部分をpromotor(設問図のイ、転写開始点直前であることからわかる)という。
RNA polymeraseはDNA二重らせんをほどき、片側(鋳型鎖)の3´→5´方向(図では青い→方向)に進みながら、それと相補的な塩基配列を持つmRNA前駆体を5´→3´方向に合成していく。この過程を転写という。この時、DNAの反対側の鎖(非鋳型鎖)はだたほどかれるだけであり、こちらの鎖ではmRNA前駆体合成は行っていない。
転写されたmRNA前駆体に不要な部分(intron)を除去し、必要な部分(exon)だけをつなぎ合わせるsplicingが行われ、短いmRNAとなる。
(なおこのDNA・mRNAには鎖に全て塩基配列があるが、図では簡略のため、9塩基のみを示した。)
mRNAは細胞質に移動し、リボソームがmRNAの5´側から少し進んだ翻訳開始点(本設問図のウ)(AUG)からその塩基配列情報を読み取り、3塩基ごとにそれに相補的な塩基を持つtRNAを引き寄せる。tRNAは特定のアミノ酸を運び、そのアミノ酸どうしがペプチド結合しタンパク質が合成される。これを翻訳という。なおmRNAの5´→3´方向の順に合成されるアミノ酸配列では
N末端(アミノ基末端)→C末端(カルボキシ基末端)となり、これがタンパク質合成の順番の向きになる。

問6

抵抗性遺伝子は対立遺伝子のうち1つでも存在すれば、抵抗性を示すので、抵抗性遺伝子が顕性となり、組換えがされていない非抵抗性遺伝子が潜性となる。抵抗性遺伝子をR(resistanceの頭文字)、非抵抗性遺伝子をrとすると、細胞は1本の染色体のみに抵抗性遺伝子を組み込むので、遺伝子型はRrとなる。これを自家受精させる前の減数分裂のでは卵細胞・精細胞の遺伝子型の出現比はR:r=1:1となる。