2022年大学入試共通テスト「生物」第3問「発生」、問題、解答、解説(計19点)

解説
問1

ショウジョウバエでの、翅が4枚になるウルトラバイソラックス変異や触角が脚に置き換わるアンテナペディア変異などの研究から、各体節の特徴を決める遺伝子(ホメオティック遺伝子)があることがわかってきた。この遺伝子から発現するタンパク質は、すべてホメオドメインと呼ばれる60アミノ酸からなる共通の配列を持つ。これはDNA結合部分であり、このタンパク質は核に移行し、核の遺伝子発現を調節していることが推定された。この遺伝子群は同じ染色体に連鎖し、頭部ー尾部の各体節での発現場所順に一列に並んでいることがわかった。

これと類似する遺伝子群をマウス・ヒトなどの脊椎動物も持っていることがわかった。多くの動物に存在する各体節の特徴を決める遺伝子群をHox遺伝子と総称することになった。
脊椎動物でも、各体節での発現場所順に一列に並んでいる点は同じであるが、遺伝子群が重複し、複数(マウスでは4つ)の染色体上に並んでいることがわかった。

同じような並びがり、新口動物(脊椎動物など)と旧口動物(昆虫など)の共通祖先の更に祖先にあたる刺胞動物のと共通祖先あたりから保持していることがわかってきた。

 

核に移動してDNAに結合するタンパク質の遺伝子である。
連鎖している遺伝子群である。
母性効果遺伝子(母性因子)である。×

母性効果遺伝子(母性因子)とはショウジョウバエにおけるビコイド・ナノスのように未受精卵の細胞質の中に形成され存在し、受精後、初期発生において発生に影響を及ぼす遺伝子のことである。Hox遺伝子は更に発生が進み、体節の区分ができた時期に、核にある遺伝子が発現するものなので母性効果遺伝子(母性因子)ではない。

バージェス動物群はまだ持っていなかったと考えられる遺伝子である。×

 

刺胞動物も持っていることから、新口動物・旧口動物の多彩な動物の分岐の出発点の時期のバージェス動物群も持っていたと推定される。

よって、答は、

参考 <動物の分類の基礎>

以下の図で動物の分類の基礎を確認しよう。

単細胞の原生動物と、多細胞だが胚葉を持たない海綿動物から分岐し、内胚葉・外胚葉の二胚葉の区分を持つようになった動物がクラゲなどの刺胞動物(それに近縁の有櫛動物)である。
さらに中胚葉ができ、三胚葉性の動物となったものは、運動性・左右相称・消化管を持つことが多い。発生段階で消化管を貫通させて形成する時、最初に原腸を陥入させる場所である原口が口になり、反対側の貫通完了点側に肛門を作るのが、(肛門の形成よりも口の形成が旧い)旧口動物である。逆に、最初に原腸を陥入させる場所である原口が肛門になり、反対側の貫通完了点側に口ができる場合、(肛門より口の形成のほうが新しい)新口動物となる。
旧口動物は、「脱皮動物」である節足動物(昆虫、エビ、カニなど)・線形動物(線虫など)と、トロコフォア幼生を持つ(祖先は持っていたと進化的に類推できる)「冠輪動物」である輪形動物(ワムシなど)・軟体動物(貝・イカ・タコなど)・環形動物(ミミズ・ゴカイなど)・扁形動物(プラナリアなど)に分けられる。
新口動物は、棘皮動物(ウニ・ヒトデ・ナマコなど)と、幼生や終生脊索を持ち続ける原索動物(ホヤ・ナメクジウオなど)、脊椎動物に分けられる。

 

 

問2

共通テストでは本設問も含めて、「実験から導かれる考察を答えよ」という設問が多い。その際は、未実験の部分について知識として知っている部分があってもそれを正解に選んではいけない。その点には留意はしながら、二次試験対策も含めて考えると、やはり各分野の知識は適切に持っていたほうが問題は解きやすい。
両生類・ハ虫類・哺乳類・鳥類など四肢動物の肢芽の発生と、ニワトリの翼芽(前肢芽)の発生は以下のようになる。

皮膚が真皮(中胚葉)の表面に表皮(外胚葉)が配置する構造になっているのと同様に翼芽も含む肢芽も中胚葉を外胚葉が覆う構造となっている。翼芽の外胚葉の先端部は特に「頂提」よ呼ばれ、「頂堤」が分泌するFGF(線維芽細胞成長因子)などの物質が存在すると中胚葉部分が成長して伸び、その中に骨も含む翼となる。

実験からわかることを解釈していこう。

実験1 肢芽が途中まで伸長した段階で、肢芽の先端の表皮を除去したところ、肢芽の伸長は停止した。しかし、表皮を除去した肢芽に、肢芽の先端の表皮から分泌されるタンパク質Wを染み込ませた微小なビーズを埋め込んだところ、肢芽は正常に伸長した。
先端表皮から分泌されるタンパク質Wが中胚葉の伸長に必要である。

実験2 本来は肢芽を形成しないわき腹の表皮の下に、タンパク質Wを染み込ませた微小なビーズを埋め込んだところ、わき腹に新たな肢芽が形成された。新たに形成された肢芽は、翼になる肢芽の近くにあると翼を、脚になる肢芽の近くにあると脚を形成した。
Wは通常肢芽にならない場所(わき腹)でも中胚葉を伸長させる作用がある。ただ中胚葉が脚か翼のどちらに分化するかは位置で決まる。
実験3 翼になる予定の前方の肢芽と脚になる予定の後方の肢芽との間で発現に違いのあるタンパク質を探したところ、前方の肢芽の側板由来の細胞から調節タンパク質Xが、後方の肢芽の側板由来の細胞から調節タンパク質Yが、それぞれ見つかった。実験2と同様にわき腹の中間に形成させた新たな肢芽で、調節タンパク質Xまたは調節タンパク質Yを発現させたところ、肢芽はそれぞれ翼または脚を形成した。
中胚葉(側板由来)の細胞で調節タンパク質Xが発現するとき翼、Yが発現するとき脚が形成される。

解答の選択肢を考えてみる
正常発生において、からだのどこに肢芽を形成するかを最初に決めているのは、Hox遺伝子を発現する中胚葉である。
本文に「肢芽がそもそもからだのどこに形成されるかは、どの(aホックス(Hox)遺伝子がどの体節で働くかによって決まっているそうだよ。」とある。体節は中胚葉なのでHox遺伝子は中胚葉で発現している。
肢芽の形成と伸長を支えているのは、外胚葉である。
実験1・2より、外胚葉からのWが必要だとわかる。
からだの前方の肢芽が翼を形成することを決めているのは、からだの前方の外胚葉である。
×外胚葉のWは中胚葉の伸長を促しているだけで、翼になるか脚になるかは中胚葉側が決めている。

よって答は、

問3

実験3は次のように2文で別のことを述べている。

実験3
1(正常発生の観察)翼になる予定の前方の肢芽と脚になる予定の後方の肢芽との間で発現に違いのあるタンパク質を探したところ、前方の肢芽の側板由来の細胞から調節タンパク質Xが、後方の肢芽の側板由来の細胞から調節タンパク質Yが、それぞれ見つかった。
(正常発生ではない実験)実験2と同様にわき腹の中間に形成させた新たな肢芽で、調節タンパク質Xまたは調節タンパク質Yを発現させたところ、肢芽はそれぞれ翼または脚を形成した。

2だけ考えると、Xが翼、Yが脚を形成させている証明になっているようにも思えるが、ミハルの会話を丁寧に読んでいると以下のように解釈できる。

ミハル:でも、よく考えたら、実験3だけでは、正常発生でからだの前方の肢芽が翼を形成する仕組みに、調節タンパク質Xが本当に必要かどうか分からないよね。

ミハルは正常発生のことを問うており、実験3の2は正常発生でない位置での肢芽ではXが翼、Yが脚を誘導するが、それが正常発生の翼の位置でXが必要かの証明にはなっていないということに気づく。

そこで、正常発生の位置でXを働かせないと翼ができないことを確かめれば、正常発生の翼の発生ではXが必要だということが証明できる。

ヒデコ:それを証明するためには、調節タンパク質Xの遺伝子を、ニワトリのからだのア(前方)の肢芽でイ(働かないようにして)、その部位でウ(翼)エ(できない)ことを確かめればいいんじゃないかな。

よって答は、

問4

細胞分裂、つまりDNAの複製を伴う過程で取り込まれる分子はDNAなので、答は、

問5

わき腹になる領域の将来体節になる細胞(以下、予定体節細胞)が肢芽の形成を抑えていることを明らかにした論文を見つけた。そのなかで行われた実験とその結果として適当でないものを、のうちから一つ選べ。(4点)

 

わき腹になる領域の予定体節細胞を死滅させたところ、肢芽になる領域が盛んに細胞分裂する様子がみられた。→、「わき腹になる領域の予定体節細胞が肢芽の形成を抑えている」ことを「わき腹になる領域の予定体節細胞を死滅すると、肢芽の形成が促進される」ことで確かめている。
わき腹になる領域の予定体節細胞を死滅させたところ、肢芽になる領域でタンパク質Wを発現する細胞数が減少した。→×「わき腹になる領域の予定体節細胞を死滅すると、肢芽の形成が促進される」ので、それを外胚葉から分泌され中胚葉の分裂を促すWを発現する細胞は増えるはずである。
わき腹になる領域の予定体節細胞を除去し、肢芽になる領域の予定体節細胞に置き換えたところ、発現するタンパク質Wの質が増加した。→わき腹になる領域の予定体節細胞による抑制がなくなるので、Wは増加する。
肢芽になる領域の予定体節細胞を除去し、わき腹になる領域の予定体節細胞に置き換えたところ、生じた肢芽が小さかった。→わき腹になる領域の予定体節細胞が更に増えるので、その抑制作用により肢芽は小さくなる。

よって答は、