2018年大学入試センター生物第3問(生物の環境応答)解答・解説・追加説明
2018年1月14日(日)に行われた大学入試センター試験「生物」第3問(18点配点)の解答・解説です。センター「生物」受験者は、
そのまま国公立・私大入試で生物も受験することが多い事情を考え、解説部分では、センター試験で選択肢から正解を選ぶレベルのみに
とどまらず、国公立二次試験(私大試験)に対応できる説明も少し加えました。どうぞご活用ください。
なお試験問題の内容を変えない範囲で少し表現を変え、また小問に緑字で得点を明記しました。また試験問題は白黒印刷ですが、せっかくの画面上ですので一部カラーにいたしました。
解説
A問1と問3は流れが重なる部分があるので合わせて解説します。
答 問1⑤ 問3③
解説
まずは、神経系で情報が伝わる流れを確認しておこう。
神経細胞(ニューロン)は、核のある細胞体とそこから伸び枝わかれし、他の細胞から信号をうけとる樹状突起、細長く伸びた軸索から構成され、軸索は次のニューロンの近くまで伸びている。ニューロンの軸索と次のニューロンの細胞体や樹状突起のすきまをシナプスという。
信号は軸索を中心としたニューロンでは電流(活動電流)で伝わる。これを伝導(conduction)という。一方、シナプスにおいては、軸索末端から次のニューロン細胞体・樹状突起に向けて神経伝達物質を出す形で信号を伝えていく。これを伝達(transmission)という。
シナプス(軸索末端と次の樹状突起・細胞体)の部分を拡大した図が、上の右図である。この図の①→⑦で伝導→伝達→伝導の流れを確認しておこう。なおシナプスを中心にした表現ではシナプスの前のニューロンをシナプス前細胞、そして軸索末端の細胞膜をシナプス前膜、そしてシナプスの後の細胞をシナプス後細胞、そしてその細胞膜をシナプス後膜という。
①シナプス前細胞の軸索末端に活動電流が伝導されてくる。
②活動電流が伝導されてくると、その刺激で軸索末端付近の細胞膜に存在するカルシウムチャネルが開き、Ca2+が軸索末端細胞内に流入する。(電流によって開くチャネルなので電位依存性イオンチャネルという。)
③Ca2+が流入すると、シナプス内でアセチルコリンなどの神経伝達物質を蓄えていたシナプス小胞が、シナプス前膜まで移動・融合する。
④アセチルコリンなど神経伝達物質がシナプス間隙に放出され、シナプス後膜まで移動する。
⑤神経伝達物質はシナプス後膜にある受容体(アセチルコリン受容体など)に結合する。
⑥その受容体は神経伝達物質など物質に結合すると開くリガンド依存性イオンチャネルでもある。アセチルコリン受容体は
ナトリウムチャネルであり、Na+がシナプス後細胞に流入する。
⑦すると、シナプス後細胞にも活動電流が発生し、軸索を伝導させていく。
神経伝達物質には様々なものがあるが、大学受験では、交感神経におけるノルアドレナリン以外はほぼアセチルコリンと考えておいてよい。神経間はほとんどアセチルコリンであり、神経と筋肉の接合部でもアセチルコリンである。なお上記図では、神経間で説明したが、神経と筋肉の接合部でも①~⑦は同じである。⑦以降に違いがあるのでそれはのちに説明する。
下図のようにアセチルコリン受容体は普段はNa+を通さないように閉じているが、アセチルコリンが結合すると立体構造が変化し、Na+を通すようになる。
(なお本設問では軸索での活動電流発生のしくみ(静止電位から活動電位への変化)は問われていない。それを解説しようとすると更に説明が長く、図版も必要となるのでまたの機会にし、今回は説明を省略する。)
次に筋肉の構造を見ていこう。骨格筋で説明する。
骨格筋は、筋繊維とよばれる細胞が束にまったもので、両端が腱で骨とつながっている。
筋繊維(筋細胞)内には筋原繊維という繊維が複数存在し、それは筋小胞体(図の青)で取り囲まれて
おり、また細胞質にはミトコンドリアも存在する。筋細胞膜表面には内部につながるT管という管の開口部
がある。
神経細胞の軸索末端から出されたアセチルコリンは筋細胞膜表面のアセチルコリン受容体に結合し、Na+の
流入をきっかけに筋細胞膜に活動電流が発生し、T管開口部から内部につながっているT管へ刺激が伝わっていく。
T管に伝わった活動電流は、筋小胞体からのCa2+放出を促すことにつながる。
筋小胞体からCa2+が放出されると筋原繊維の重なりが変化する。筋原繊維はミオシンフィラメントとアクチンフィラメントが
一部重なりあって存在している。Ca2+の刺激により、ミオシンフィラメントがアクチンフィラメントをたぐりよせるようにさらに両者の重なりが多くなり、骨格筋は収縮する。
ミオシンフィラメントは太く顕微鏡ではその部分は光を通しにくく暗く見えるので「暗帯」と呼ばれる。アクチンフィラメントは細いので、
アクチンフィラメントのみの部分は光を通しやすく「明帯」と呼ばれる。アクチンフィラメントの中央にはZ膜という膜があり、Z膜とZ膜の間を筋節(サルコメア)という。上図のように収縮をしてもミオシンフィラメントそのものの長さである「暗帯」の長さは変わらないが、重なり部分が多くなるため、アクチンフィラメントのみの部分である「明帯」は短くなる。筋節も短くなる。
新たな神経からの刺激、活動電流が来ない場合、Ca2+は筋小胞体に回収され、重なりは元の状態に戻る(弛緩する)。
筋小胞体からのCa2+放出により、ミオシンフィラメントがアクチンフィラメントがたぐりよせ重なりを増やして筋肉を収縮させるしくみを以下の図で更に詳しく見ておこう。
ミオシンフィラメントはタンパク質であるミオシン分子の束であり、フィラメントの両端には、ミオシン分子が少しフィラメントの軸から離れた部分に突出した「ミオシン頭部」という部分が位置する。ミオシン頭部はATPを分解しそのエネルギーを使って首をふるようにしてアクチンをたぐり寄せるATPアーゼ(ATP分解酵素)としての活性を持つ。
ミオシン頭部自体は常にそのATPアーゼ活性を持っているが、アクチンフィラメント側がそれに反応できないと収縮は起きない。アクチンフィラメントにはトロポニン・トロポミオシンというたんぱく質が結合している。Ca2+がないとアクチンフィラメントにあるミオシン頭部結合部位が、トロポミオシンによってふさがれている。Ca2+が増え、それがトロポニンに結合すると、アクチンフィラメントの中のミオシン頭部結合部位をふさいでいたトロポミオシンの位置がずれてミオシン頭部と結合できるようになり、アクチンフィラメントがたぐりよせられる。
以上の説明をご覧いただいた後で、もう一度問1・問3を読み、正解が選べることを確認してみてください。
答④(b(L2<L1)、d(L3>L2))
解説
カエルなどで筋肉を神経つきで取り出した標本を神経筋標本という。それを筋肉運動を測定記録するために
一定の速度で回転するキモグラフにセットする。音叉で時間を並で記録するとともに、筋肉の収縮、電気刺激のタイミングを記録する。
この形で記録すると、筋肉が収縮した時に山のように値が高い位置になる図を描くことができる。「筋肉を収縮させる」というのは、運動や緊張など「積極的行動」のイメージなので、それが高い位置となるグラフが教科書では説明に用いられる。グラフの縦軸は「収縮の強さ」となる。1秒間に2回など刺激の頻度が少ないと筋肉は一旦弛緩した後、再び最初と同じように収縮し、山は重ならない。これを単収縮という。1秒間に15階など刺激の頻度を多くすると、筋肉は少し弛緩仕掛けた所で次の刺激がきることを繰り返し、収縮が重なりあうので「ぎざぎざの山」となる不完全強縮となる。更に刺激の頻度を高める(1秒間に30回など)と、筋肉はずっと強い収縮状態を持続する(完全)強縮となる。以上が教科書でよく説明されている図である。
さて本設問は、実験1が単収縮、実験2が80ミリ秒後は、1回目の収縮の弛緩期の途中に次の刺激が来るので不完全強縮となる。不完全強縮は単収縮より(重なった)収縮の強さは大きくなる。実験3は160ミリ秒後では、1回目の単収縮が終了した後なので、再び同じ強さの単収縮が起きる。教科書でよく扱う収縮の強さでグラフ化すると以下のようになる。
しかし、本設問では縦軸が「筋肉の長さ」であり、収縮すると「山」ではなく
「谷」となっているので、いつものグラフと上下の動きが逆であることを気をつけてほしい。教科書で扱う内容であるが、グラフの視点や軸を値の撮り方を逆転や修正などして聞かれる問題が生物の入試ではあるので、単純にいつも慣れた図のイメージだけで深く考えずに答を出すことを避けてほしい。本設問では教科書の図が「山」であるのに対して「谷」となっている形でヒントを提供してくれているのでそれに気づくようにしよう。
答 4①(アブシシン酸)5⑥(ジベレリン)6⑦サイトカイニン
4・5は下の植物ホルモンのまとめて理解してほしい。
オーキシンとサイトカイニンは植物細胞から未分化の細胞隗(カルス)作らせ、その後植物を分化させる組織培養の時に培地に加えられる植物ホルモンである。オーキシン比率が大きいと根が、サイトカイニン比率が大きいと茎葉が分化しやすい。
アグロバクテリウムは以下のようにして増殖する。
土壌中の植物の根に接近し、T-DNAを根の細胞内に送り込む。TーDNAにはオーキシン・サイトカイニン・オピンという遺伝子があり、
オーキシン・サイトカイニン遺伝子を送り込まれた根の細胞は、両植物ホルモンを合成し、組織培養と同様に未分化の細胞隗を作る。
更にアグロバクテリウムの栄養分となるオピンを植物の根の細胞に合成させ、アグロバクテリウム自信が増殖できるようにする。アグロバクテリウムが遺伝子を植物の根の細胞に送りこむことによって、アグロバクテリウムに都合のよい増殖や物質合成を促すので「遺伝的植民地化」と表現する場合もある。
植物の遺伝子組み換え技術の一つに、このアグロバクテリウムを使ったアグロバクテリウム法がある。T-DNAに送り込みたい遺伝子を組み込ませ、遺伝子組み換えをさせる方法である。
よって6は⑦(サイトカイニン)
答②
解説 生物では「(遺伝子の働きの)抑制解除」という言葉がよく出てくる。
「抑制」の「解除」なので、結果的には「促進」と同じとなると考えてよい。
昔「天才バカボン」というマンガがあって「バカボンのパパ」が「賛成の反対」
「反対の賛成」と叫ぶ場面があったが、結局それは「反対」なのか「賛成」なのかわかりにくい。
生物学の遺伝子の相互作用では「抑制」関係が何重にもなっていることもあるので、文だけで考えていると混乱しやすい。
そこで文だけで理解するのが苦手な人には、数学の+(プラス)−(マイナス)を使った思考や図式化をおすすめする。
抑制的になることをー(マイナス)で表記してみる。「抑制解除」は「抑制(-)の解除(−)」なので数学的には
−(マイナス)×−(マイナス)で+(促進)となる。
本設問では上の枠で赤字で表現した部分が抑制関係なのでそれを以下のように図式化し、抑制を−(マイナス)で表現し
それをかけあわせた細菌が+(増殖)となるのかー(抑制)となるのか確認してみよう。
遺伝子の相互作用では促進を→、抑制をー|で表記す
遺伝子が欠損した部分はそれによる抑制効果もないし、その遺伝子に対して抑制効果のある手前の遺伝子の作用も関係がない。そこで遺伝子が欠損した部分は大きく×で表現し、-|の部分だけ−を表記してみる。
すると突然変異体xyは突然変異体xと同じ関係になるので答は②(突然変異体xと同程度)となる。