2024年 #大学入試 #共通テスト #生物基礎 第1問A(11点) 問題・解答・解説
生物は古くは「動物」「植物」に分類されてきた。しかし、その後、「動物」「植物」の違いは、生物全体の分類の主要な分岐点ではなく、原核生物と真核生物が細胞構造が異なることもあり、生物の大きな分岐点であることがわかってきた。この進化や分類の詳しい話は「生物基礎」の範囲外で「生物」の範囲なので、深く知りたい方は以下を見てほしい。
2024年大学入試共通テスト「生物」第6問問題・解答・解説
真核生物は、核膜に包まれた核やミトコンドリア・葉緑体などの細胞小器官を持つ細胞(真核細胞)で構成される生物であり、植物・動物・菌類・原生生物(ゾウリムシなど単細胞の真核生物、その他海藻など)が含まれる。真核細胞の電子顕微鏡像は以下通りである。
核膜に包まれた核を持ち、その中にDNAを収納し、またミトコンドリア・葉緑体などの細胞小器官を多種類含む。動物も植物も同じ真核生物に含まれるので、細胞小器官も多くが共通であるが、一部違いものがある。中心体は動物細胞のみ、細胞壁・液胞・葉緑体は植物細胞のみに含まれる。
核膜に包まれた核を持ち、その中にDNAを収納し、またミトコンドリア・葉緑体などの細胞小器官を多種類含む。
原核細胞の原子顕微鏡像は以下のとおりである。
核膜に包まれた核はなく、DNAは細胞質中に存在する。基本的に共通に持つ構造は、細胞膜・細胞壁とタンパク質合成の場であるリボソームだけであり、それに加えて、べん毛や、(光合成をする)ラン藻では、光合成の場となるチラコイドという膜を持つ。ミトコンドリアや葉緑体は存在しない。
また拡大図だと同じ大きさに見えるが、酵母など真核細胞は10μm以上が多いのに対し、原核細胞は数μmなので大きさが違う。
真核生物にあるミトコンドリア・葉緑体自体が、かつては、原始好気性細菌・原始ラン藻という独立した原核細胞だったものが、約20億年前に大型原核細胞に取り込まれるなどの「細胞共生」の過程を経て真核生物が形成されてきたので、真核細胞の中のミトコンドリアと原核生物の細菌の大きさがほぼ同じ大きさである。
原核細胞は基本的に単細胞で(生物基礎の範囲では)「細菌」と「ラン藻」の2グループのみであると捉えてよい。なお酵母は「酵母菌」という言い方もするので「細菌」の仲間と勘違いしやすいが、カビ・キノコと同じ菌類のグループであり真核生物なので間違えないようにしよう(センター試験の時代から「ひっかけ問題」でたびたび出題されている)。
原核生物も真核生物も、生物としての基本的な代謝方法は同じである。エネルギー源としてATPを使うこと()、化学反応を促進する酵素を使うこと()、有機物を分解してATPなどを生成する異化のしくみ()を持つことなどである。また細胞の外側を細胞膜が包んでいる点も同じである()。真核細胞はミトコンドリア葉緑体を持ち、原核生物は持たないことが異なる。よって、。
問2
ゲノムのDNAに含まれる、アデニンとグアニンの数は等しい。×
DNA二重らせん内で塩基対を形成し、数が等しくなるのは、AとT(アデニンとチミン)、GとC(グアニンとシトシン)である。来年は合格して「大学の緑のキャンパス(green campus)で青春を謳歌しよう」(at GC)と抑えるとよい。
ゲノムのDNAには、RNAに転写されず、タンパク質に翻訳もされない領域が存在する。〇
DNAの中には、RNAに転写され、リボソームでタンパク質に翻訳される(あるいはそのことに関与する)領域「遺伝子関連領域」もある一方、転写も翻訳のしない「非遺伝子領域」も存在する。またRNAには転写されるがタンパク質には翻訳されない領域もある。特に真核生物では「非遺伝子領域」の比率が大きい。
同一個体における皮膚の細胞とすい臓の細胞とでは、中に含まれるゲノムの情報が異なる。×
同じ個体の細胞のゲノム(遺伝子構成)は基本的に同じ。発現させる遺伝子の種類(発現させない遺伝子の種類)が異なるので、組織によって、細胞の性質が異なる「分化」がおきる。(なおB細胞など免疫細胞のみは、抗体など生成のため、一部の遺伝子を廃棄するので、その部分のみ異なる。)
単細胞生物が分裂により2個体になったとき、それぞれの個体に含まれる遺伝子の種類は互いに異なる。×
細胞の分裂では、事前に様々な遺伝子を含むすべてのDNAを複製し、2つの細胞に分配する。
細胞が持つ遺伝子は、卵と精子が形成されるときに種類が半分になり、受精によってふたたび全種類がそろう。×
卵・精子などで有性生殖を行う個体では、卵・精子の中に、その生物が持つ全種類の1セットの遺伝子(をのせた染色体)(ゲノム)を持つ。むしろ受精後の個体の細胞が2セット持っている。卵・精子形成の過程で2セットを1セットにする減数分裂が行われるが、1セット(卵・精子)でも2セット(受精後の個体)でも全種類の遺伝子を持っている。
ヒトでは卵・精子の中にある23本の染色体(DNAが束になったヒモ)の中に全種類の遺伝子が含まれており、受精後の細胞では、それが46本の染色体となる。
よって、
問3
肺炎双球菌には、病原性を持たないR型菌と、病原性を持つS型菌がある。加熱殺菌したS型菌だけをマウスに注射すると発病しなかったが、加熱殺菌したS型菌をR型菌と混ぜてから注射すると発病した。発病したマウスの体内からはS型菌が見つかった。また、S型菌をすりつぶして得た抽出液をR型菌に加えて培養すると、一部のR型菌はS型菌に変わった。これらの現象は、S型菌の遺伝物質を取り込んだ一部のR型菌でS型菌への形質転換が起こり、それが病原性を保ったまま増殖することで引き起こされる。
そこで、この遺伝物質の本体を確かめるために、S型菌の抽出液に次の処理(a)~(c)のいずれかを行った後、それぞれをR型菌に加えて培養する実験を行った。培養後にS型菌が見つかった処理はどれか。それを過不足なく含むものを、後ののうちから一つ選べ。(4点)
(a)タンパク質を分解する酵素で処理した。
(b)RNAを分解する酵素で処理した。
(c)DNAを分解する酵素で処理した。
これは、遺伝子の本体はDNAかタンパク質か(RNAか)がわかっていなかった時代に、グリフィス・アベリーという研究者が順に行った実験である。その結果「遺伝子の本体は(タンパク質やRNAでなく)DNAである。」という説が確立されていく大きなきっかけとなった。
図示すると以下のようになる。
グリフィスの4番目の実験で、S型菌そのものは加熱殺菌されているにも関わらず、S型菌がマウス体内から発見されたのは、R型菌がS型菌に形質転換したためであり、加熱に対してタンパク質は弱く、DNAは強いということから、DNAが形質転換させる能力のある遺伝子であると予測できる結果が出た。
続いて、アベリーは、グリフィスの4番目実験を結果を確かめた(追試という)上で、抽出液を物理的にDNA分画とタンパク質分画に分け、DNA分画に形質転換能力があることを確かめた。ただ、DNA分画に残存するタンパク質やRNAが形質転換をする可能性を否定するため、更にDNA分解酵素(DNAアーゼ)・RNA分解酵素(RNAアーゼ)・タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で処理し、DNAが消失するDNA分解酵素(DNAアーゼ)処理後は形質転換が起こらないが、DNAが残存するRNA分解酵素(RNAアーゼ)・タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で処理の場合、形質転換がおきることを確かめた。これによって、DNAこそが(形質転換させる能力を持つ)遺伝子であることがより明確になった。