2020年、大学入試センター生物第1問問題・解答・解説(配点18点)
【解答(計18点)】問1(3点)問2(4点) 問3(3点) 問4(4点) 問5(4点)
【解説】
1(問1)(3点)解説
原核生物の転写調節・転写の関連ある遺伝子群のまとまりをオペロン(operon)という。
(イントロン(intron)は真核生物において転写されたmRNA前駆体から、核内でスプライシング(sprising)して除去される翻訳には関係しない部分を示す。2で後述。)
オペロンの働き方の例を原核生物である大腸菌で、ラクトース代謝に関係する遺伝子群を発現することができるラクトースオペロン(lac operon)で説明する。
大腸菌はグルコース代謝を基本とする。グルコースが不足し、ラクトースのみがあるときにのみこのラクトース代謝関係の遺伝子群を発現させたい。
1、ラクトースがないとき(左図)
これがグルコースが豊富な場所でラクトース代謝の必要がない大腸菌の基本の状態である。ラクトースがない時は、ラクトース代謝関係の遺伝子群は働くことができないので、遺伝子は発現しないほうがよい。調節遺伝子が転写・翻訳されてできらリプレッサーがオペレーターに結合し、転写をするRNAポリメラーゼが、(DNAにおける結合場所である)プロモーターに結合することを妨げ、転写を抑制している。
2、(グルコースがなく)ラクトースがあるとき(右図)
この時は遺伝子発現が必要となる。。リプレッサーに、ラクトースから由来するラクトース代産物と結合し、オペレーターに結合できなくなる。その結果、プロモーターにRNAポリメラーゼが結合できるようになり、mRNAが転写されやがて翻訳されラクトースを代謝利用できるようになる。
(プライマーとは、DNAやRNAの短い断片でDNA複製やPCR法で鋳型鎖DNAと結合し、DNAポリメラーゼが結合できる二本鎖部分を作る)
2(問2)(4点)解説
×
上図にあるようにRNAポリメラーゼとラクトースに由来する物質(ラクトース代謝産物)が結合することはない。
〇。上図の右図を示す。
×
ラクトース代謝産物と結合するかしないかの差はあるが、リプレッサーは常に作られているので「作られない」とうことはない。
よって2(問2)の答は(4点)
3(問3)(3点)解説
真核生物では、DNAは球状タンパク質のヒストンに巻き付いたヌクレオソーム構造を作り、それが折りたたまれクロマチン繊維となり更に折りたたまれて染色体を構成する。
(DNAポリメラーゼはDNA合成酵素のこと)
真核生物の遺伝子発現は以下の図のような流れとなる。
細胞外(たとえば血液や組織液など)から細胞表面に刺激物質(リガンドという図で細胞外の赤玉)が来るとそれを細胞膜表面の受容体が受け止め、細胞内にその刺激を伝える(シグナル伝達)。その最終産物が核内に移行し、調節タンパク(図のピンク玉)となり、DNAの遺伝子上流の転写調節領域に結合する。すると核内にあった基本転写因子(図の緑玉)とその直後にRNAポリメラーゼ(図の青)がDNAのプロモーターという領域に張り付き、RNAポリメラーゼはその下流のDNAをmRNA前駆体に転写する。真核生物には原核生物でオペレーター(抑制物質リプレッサーが結合する領域)と言われる部位がないことに注意しよう。(真核生物における転写抑制は、転写調節領域に結合する調節タンパク質の中に転写を抑制するタンパク質もあり、その形で抑制される。原核生物のようにプロモーターのすぐ上流にオペレーターがある形ではない)。
mRNA前駆体にはエクソン(エキソン)・イントロンと呼ばれる部分が交互に並んでいるが、核内においてイントロンの部分は切除されエクソン部分どうしがつなぎ合わされる。この過程をスプライシングという。スプライシングが完了したmRNAは核膜孔から細胞質に出され、リボソーム上にてタンパク質に翻訳される。よって3の答は(3点)。
4(問4)(4点)解説
通常の生物体の組織で細胞分裂をしている組織でも、培養細胞においても、個々の細胞は細胞分裂を同じ時期にするのではなく五月雨式に徐々に細胞分裂をしている。最初100個の細胞のうち、1時間以内に細胞分裂完了する細胞が5個、残り95個はまだその細胞分裂完了する1時間前にも達していないとすると、1時間後には細胞は105個となる。そして更に1時間後にはまた5個が細胞分裂を完了し110個になるように細胞数は徐々に増加する。100→105→110→・・・・・→200のように細胞数は増加していくが、細胞数が2倍になる時間が、1回の細胞分裂(細胞分裂完了から次の細胞分裂完了)にかかる時間(細胞周期)とみなしてよい。図1で点が細胞密度がはっきりわかる横線の交点上にある点を見つけてみる。
赤丸と青丸の位置があるが、青丸の位置では細胞分裂の速度が鈍化している可能性がある。これは培養の培地の栄養分が不足したり、細胞が密集してくると細胞の分裂を妨げる仕組み(接触阻止)による影響と考えられる。ただし、設問に「50時間後」となっているので、赤丸の位置(50時間前後)での比較が適切であり、青丸の位置)100時間前後)は考えなくてもよいと考えればよい。赤丸の位置を考えると、細胞周期は20時間と考えてよい。
更に細胞周期は、染色体が出現し両極に移動し最終的に2つの細胞に分かれる分裂期と、分裂期と分裂期の間で核がはっきりと見える間期(M期)に分けられる。間期はG1期(DNA合成準備期)、S期(DNA合成期)、G2期(分裂準備期)に分けられる。細胞周期で各時期にかかる時間の比率は、五月雨式に分裂している組織の中で各時期の細胞の個数の比率に近似してよい。
実験1の記述に「凝縮した染色体をもつ細胞が10%見られた」とあるので、分裂期にかかる時間は細胞周期の10%である。
分裂期にかかる時間は20時間の10%なので2時間。4の答は(4点)。
5(問5)(4点)解説
S期(DNA複製を行う時期)(つまりキ)はDNAが徐々に五月雨式に複製して増加する時期なのでDNA量が2~4のばらつきのあるBの時期である。それが完了した後のG1期と分裂完了までのM期(つまりク(は、DNA量が増加した状態が保たれるので、Cの時期である。G1期(分裂を完了して次のDNA合成に入るまでの時期)(つまりケ)では、DNA量がG2期、M期に比べて半減するのでAの時期である。よって答は(4点)。