共通テスト「生物」第2回試行調査第2問B(植物生理・15点配点)問題・解答・正答率・解説
【解説】
まず、光周性と植物の花芽形成に関し、確認しよう。
【光周性と花芽形成のしくみ】
連続暗期の長さが花芽形成の決定要因となるため、長日植物は「短暗」植物、短日植物は「長暗」植物として考え、最後に「短暗」→長日、「長暗」→短日と読みかえればよい。
植物の花芽形成において、日長や明暗リズムでなく連続暗期の長さが重要だとわ確認できる実験とその結果をみてみよう。本当は、このような実験の結果、「限界暗期」という原理がわかってきたのだが、初歩の理解のため、限界暗期10時間の長日(「短暗」)・短日(「長暗」)植物で考えよう。
A実験(8時間暗期)という10時間の限界暗期よりも「短暗」の条件で、長日(「短暗」)植物は〇、短日(「長暗」)植物は×となる。B実験(16時間暗期)という「長暗」条件では逆に、長日(「短暗」)植物はX、短日(「長暗」)植物は〇となる。しかしこの2つの実験だけでは、「明期の長さ」「明期と暗期の比率」が原因であったという可能性もある。
次にC実験で、暗期の真ん中で短時間光照射をする光中断を行ってみる(光中断は赤色光が有効で、その受容にはフィトクロムという色素タンパク質が関与している)。すると明期の全体の長さはAからほとんど変化していないのに、結果はAと逆になる。これで、「明期の長さ」が原因という説は否定された。暗期も全体の長さはほとんど変化していないが「連続暗期」(中断されるとリセットされて次の暗期に引き継がれない)という観点で捉えると、8時間の「短暗」条件となる。すると長日(「短暗」)植物が〇、短日(「長暗」)植物が×という結果を説明できる。ちなみにDのように明期の真ん中に短時間の暗期を入れる実験をした場合は、Bと同じ結果だったので、明期が無関係だったことが更に確認できる。
最後に明期:暗期の比率(リズム)が重要であったという説の検証のために、「A明期:暗期=16時間:8時間=2:1」「B暗期:明期=8時間:16時間=1:2」の比率と同じ比率を繰り返す実験を12時間周期2回にして行ってみる。
Aと同様な比率「明期:暗期(:明期:暗期)=8時間:4時間(:8時間:4時間)=2:1(:2:1)」としたEは
Aとは逆の結果になった。したがってリズム(比率)の説も否定される。
Bと同様な比率「明期:暗期(:明期:暗期)=4時間:8時間(:4時間:8時間)=1:2(:1:2)」としたFは、長日(「短暗」)植物〇、短日(「長暗」)植物×となった。
すべて長日(「短暗」)植物〇、短日(「長暗」)植物×となったB~Fはすべて「連続暗期」は8時間か4時間で限界暗期10時間より短い「短暗」条件であることが共通しており、あらためて連続暗期の長さが重要と確認できる。
(なお、わかりやすいように長日植物、短日植物の限界暗期をともに10時間とした実験を設定したが、実際は、限界暗期はそれぞれの植物種固有でバラバラであり、長日植物と短日植物の限界暗期が一致することも非常にまれでである。)
様々な植物の明暗条件と開花までの日数を確かめてグラフに示すと以下のようになる。
どのタイプの植物でも開花までの日数は少ない場合でも30日程度かかっている。実花芽形成に適切な暗期条件を葉が感知すると、フロリゲンを合成しそれが師管を通じて移動し、実際に葉に分化する予定の「葉芽」となる運命を転換させ「花芽」にさせる。それにも一定の日数を要する。更に「花芽」が蕾(つぼみ)となり開花するまでも日数がかかる。「限界暗期」を越えた当日や翌日に花芽を作るのでなく、もちろん開花するものではない。
この図で開花までの日数が無限大になっているところは開花しないと考えてよいので、30日で開花しているのが開花できる条件と考えてよい。長日植物が長日(「短暗」)条件で、短日植物が短日(「長暗」)条件で、中性植物がいつでも開花していることが確認できる。(なお中性植物も短日植物も4時間以下では開花していないのは単純に光合成量が不足して生存できないか開花に必要な有機物が合成できないという理由である。)
ここで日本の季節変化の実際の日長条件(暗期条件)変化とそれぞれのタイプの植物関係を整理しておこう。
【フロリゲン(花芽ホルモン)】
花芽の形成のしくみは、接ぎ木や、環状除皮(師管を含む部分を剥ぎ取る)の実験からわかってきた。接ぎ木(師管を接続)をすると、接ぎ木の一部分の葉だけでもよい日長条件(暗期条件)にすると接ぎ木・母木全体で花芽が形成される。一方、環状除皮すると、それより根元部の葉をよい日長条件(暗期条件)においても花芽が形成されない。したがって、日長条件(暗期条件)を葉で感知し、葉で合成された物質(フロリゲン・花成ホルモン)が、師管を通じて茎頂部に移動し花芽を形成させる。2000年代になってはじめて、フロリゲンのその遺伝子のしくみが明らかになった。
シロイヌナズナでは次のようなしくみである。葉が花芽形成に必要な日長条件(暗期条件)を感受すると、調節タンパクであるCOタンパク質が合成され、FT遺伝子を活性化し、FTタンパク質を作る。このFTタンパク質がフロリゲン(花芽ホルモン)の実態である。FTタンパク質(フロリゲン)は師管を通じて茎頂に移動し、茎頂で合成されるFDタンパク質と合わさって、AP1遺伝子が活性化され花芽が形成される。イネではフロリゲンは「Hd3a」である。
【問5】解説
6月1日に種子を撒いた場合には、夏至を過ぎ短日(「長暗」)条件に変化する6月→11月を経ても花芽をつけない。一方、どちらの条件でも3月→6月の場合、長日(「短暗」)条件に移動する過程で花芽を形成している。したがって、「短暗」植物、つまり長日植物である。
次に限界暗期を考えてみる。自然光条件の花壇aでは、植えた時期に関係なく、4月15日に花芽をつけている。
一方、野外灯がある花壇bでは、3月10日に花芽をつけている。野外灯が暗期を短くした分だけ、自然条件より、早めに「短暗」条件になったと考えられる。野外灯がある場合、暗条件となるのは19時である。
図で3月10日と4月15日を見てみる。
3月10日では「日の出」はおよそ6:00、「野外灯消灯」19:00で、明期は19ー6=13時間、暗期は24ー13=11時間となる。
4月15日では「日の出」はおよそ5:00、「日の入り」はおよそ18:15分で、明記は13時間15分。暗期は10時間45分となる。
ただし、3月10日、4月15日の目盛りの位置は明確にわからず、一方、それを読み取った日の出、日の入りの時刻も位置がはっきり特定できず、見方によっては15分~30分程度の解釈のずれは十分生じてしまう図である。そしてその解釈のずれが設問で問うている「限界暗期11時間」という区切りのぎりぎりの数値になっていて、悩ましく思える問題となっている。
共通テストの出題図は、目盛りが大刻みで正確な目盛り読みがしにくい図が多い。出題者が、目盛りの正確な読みを受験生に対し要求しているならば、もっと正確な小刻みな目盛りの図を出題するはずである。しかし、あえて大刻みの目盛りの図で出題しているのは、出題者の要求は「目盛りの正確な読み」ではない別のところ(生物学的な考え方)にあるはずであると考える。
限界暗期が適切な条件になった日から実際に花芽が形成されるまでに一定の日数がかかる。それは上で説明したような、「FT遺伝子発現→FTタンパク質合成→師管移動→茎頂でのFDタンパク質との相互作用→AP1遺伝子発現→花芽形成」という流れを学んでいればわかる。仮に2週間程度を要すると考えたら、実際に限界暗期以下となったのは2週間前となる。
その見方で先の図の位置を2週間前にずらしてみると、下図の赤のように、限界暗期は11時間以上、10時間45分以上となり、あわせて11時間以上とみなすことができる。
したがって(長日植物であり、限界暗期は11時間より長い)となる。
【問6】解説
6月1日の撒いた種子は、花芽を形成できるぐらいまで成長するのに1か月を要したにしても7月には、花芽を形成できる植物体まで成長しているはずである。自然光で春分の日(3月下旬)に近い3月下旬か4月上旬によい限界暗期に到達していると考えられるので、少なくとも同じ、暗期条件となる秋分の日(9月下旬)やその近く(9月中旬)までは、花芽形成に適切な「短暗」条件であり続ける。にもかかわらず、花芽形成が翌年の4月15日まで行われないことは、冬越し(低温の時期を経験する)の春化処理が花芽形成に必要だとわかる。よって(低温を一定期間以上経験していることが花芽形成の前提となる。)
【問6】解説
長日植物は、長いとはいえない夏を的確に把握(夏が来る前に「短暗」となることで把握)して、利用し繁殖することを必要とするので、熱帯多雨林や雨緑樹林ではない。よってのどれかとなる。冒頭に「日当たりのよいとこをを好み、日陰では育たない」「自家受粉できない」性質とあるので、陽性植物で、他の花からの花粉の受粉を必要とするため、一定数の群落を形成しないと生育できない。したがって、植物相が攪乱で生じた短期間の状態で繁殖するのには不利そうである。常緑広葉樹である照葉樹林の林床では台風による倒木など短期間の攪乱でしか生育できないので、落葉広葉樹である夏緑樹林の林床ならば、冬から春先のまだ樹木が葉をつけない時期を利用すれば生育できる。よって夏緑樹林の林床で春先に花芽を付け生育し、次の春まで待つ植物を「春植物」といい、英語では、その小さく可憐で地上での生育期間も短いことからspring ephemeral(春の妖精)と呼ばれる。(ちなみに、私のいる千葉県船橋市から誕生した梨の妖精は「ふなっしー」と呼ばれる。)
春先に開花結実し翌春まで地下に地下茎などで眠るなどの生活をする。むかし、そこからデンプンをとったことで片栗粉の語源となっているカタクリ(現在の市販の片栗粉は多くはジャガイモデンプン)、ユキワリイチゲなどが有名である。
【問8解説】
以下は生態系における様々な量とその関係を示した図である。
成長量は現存量の変化なので以下のようになる。
X 398ー3=395
Y 410ー15=395
Z 560ー180=380
成長量=純生産量ー(枯死量+被食量)
を変形すると
純生産量=成長量+枯死量+被食量
これでX、Y、Zの純生産量を計算すると
Xの純生産量=395+0+0=395
Yの純生産量=395+ある量(虫喰い)+ある量(子葉)=395より大きい
Zの純生産量=380+0+0=380
Yの純生産量は計算はできないが、395より大きいことはわかるので、X、Zより大きいとわかる。よって、純生産量は(植物Y)
(この設問でも、正確な数値把握は求められていない。求めるとしたら子葉や虫喰いの量が正確にmgではかられ記述されるはずである。正確な数字ではなく、考え方を問う共通テストの特徴がここでも出ている)
純生産量=総生産量ー呼吸量
を変形すると
総生産量=純生産量+呼吸量
呼吸量のデータはどこにもないので、総生産量は(この情報からだけでは判断できない)