2020年大学入試センター「生物」第3問B(9点分)(植物ホルモン)問題・解答・解説
【解説】
【問4・5】
植物・動物(細胞)・細菌などへの刺激とそれに対する応答は何段階かの流れになっており、その相互の関係がどうなっているかを、複数の実験で確かめることがある。生物の入試問題ではよく聞かれる流れであり、センター試験にも出題され、共通テストにも引き継がれる可能性が高い。
したがって、まず、一般論から図で整理しよう。この実験考察系が弱い方はとくにしっかり理解してください。(すでに理解している方には若干くどく感じるかもしれませんが、基礎を再確認ください。)
刺激A(物質・あるいは物理的刺激など)が「ア細胞」(器官ア)に到達すると、細胞表面の受容体がそれを受け止め、細胞内にその情報をシグナル伝達し、ア細胞内で遺伝子Bの発現が上昇する。発現上昇を「↑」で表記すると分かりやすい。(設問によっては下降・減少することもある。その場合は「↓」で示す。)するとア細胞は、その遺伝子Bが指定したタンパク質Bの生産を増加させ、B濃度が増える(B↑)。そのBを今度、イ細胞(器官イ)が受容体で受け止め、その情報をシグナル伝達し、イ細胞内で遺伝子Cの発現が上昇する。するとイ細胞が合成するタンパク質Cが増加したり、反応Cが増加したりする。真ん中の図は、細胞を□、細胞内の遺伝子を□の中に、細胞と細胞の間を移動するタンパク質を→の上に書いて簡略化したものである。細胞内と細胞外をはっきり区別しておいたほうが、生物の入試の実験考察に対応しやすいために、くどいが表記した。同じBでも□内は遺伝子、→の上は細胞外に分泌されるタンパク質を示すことに留意してほしい。
ただ、しだいに慣れてきて、遺伝子発現とタンパク質分泌は連動することをしっかり認識すれば、単に「A→B→C」と書くだけでよくなる。皆さんの理解の度合いにあわせて3つの図を使ってほしい。
ではこの流れにしたがって本設問の流れを確認してみよう。野生型で確認すると、環境ストレスを受け止める最初の細胞(器官)やアブシシン酸を受け止める次の細胞(器官)名などは書かれていないし、最後の遺伝子Xの発現は、それがタンパク質の分泌につながるかは書いていないが、ほぼ上記の一般図に近い形で図示できることが確認できる。
では、次に、2つの実験と野生型・変異型C・Dにおける反応を図示してみよう。そのためには、実験5においては対照実験の「環境ストレスなし」に比べて「環境ストレスあり」では、どのように変化しているかを確認する。実験6においては対照実験の「アブシシン酸噴霧なし」に比べて、「アブシシン酸噴霧あり」がどのように変化しているかを確認する。
実験5では、野生型と変異体Cが環境ストレスに対してアブシシン酸量が増加し、変異体Dは増加しないことがわかり、増加を〇、増加しないを×で示す。
実験6では、野生型と変異体Dがアブシシン酸刺激に対し、遺伝子Xの発現量が増加し、変異体Cは増加しないことがわかり、増加を〇、増加しないを×で示す。(学問的には〇×よりも+-の表記のほうが一般的であるが、受験生が限られた時間内で入試問題を解くときには、より直観的に間違えなく区別できたほうがよいので〇×での説明にした)
この〇×を使いながら、実験5・6の流れを解釈すると以下のようになる。実験5は流れの前半のみ、実験6は流れの後半のみを実験していることに留意してほしい。(実験5の図で( )としているのは細胞内のアブシシン酸合成遺伝子量発現が増加の有無は問題には明記されていないという意味での( )である。実際はアブシシン酸増加の有無は合成遺伝子発現の有無に連動している。)
この図から、実験5を確認した問4は(変異体Cでは正常で、変異体Dでは異常である)(3点)
実験6で乾燥耐性に直接関与する遺伝子Xの発現を確認した問5は(変異体Cでは乾燥耐性は回復しないが、変異体Dの乾燥耐性は回復する)(3点)
と確認できる。
最後にこの2つの実験結果を合体させると以下のようになる。
これは、実は食後糖増加に伴う、すい臓ランゲルハンス島(すい島)B細胞の、インスリン分泌と、そのインスリン分泌を受け止めておこなれる筋肉・肝臓の糖吸収、並びにそれがうまく機能しない2つのタイプの糖尿病の流れに似ている。実は糖尿病は多様で、以下の図のように簡略化できない部分も多いが、初歩の理解としてあえて簡略化する。
成人後の生活習慣病に多い2型糖尿病の原因の1つに、インスリンが分泌されていても、インスリンに対する感受性が弱く、肝臓・筋肉細胞が十分に糖を吸収しないことがある。小児先天性糖尿病に多い1型糖尿病は、すい臓ランゲルハンス島機能低下に伴う「インスリン分泌不足」が原因である。1型の場合は外部から食事の時にインスリンを注射することで肝臓や筋肉にインスリンを取り込ませる。(くどいようですが、これは2型と1型の違いを強調した説明です。実際には2型の場合には1型的なインスリン不足が関与している場合もあります。)
本設問は、2つの連続刺激がともに次の段階を促進するので、ある意味では単純であった。しかし、以下の流れにように、1段階目の刺激が2段階目を抑制することもある。
その場合、刺激Aを与えた場合(〇)はCは抑制(×)となり、刺激Aを加えない(×)と、Cは促進される(〇)。このように反応過程で〇×の逆転が起きていることを見抜くことを求める問題も多いので、実験条件と結果をよく見て、情報伝達の順に〇×を図のように明記して理解していくことが必要である。促進系だけの時は「A→B→C」のように「→」で示すが、抑制系の時には、図の赤字のようにBがCを抑制することを表記する。この表記に慣れると遺伝子間の相互作用の理解がしやすくなる。
【問6】
植物ホルモンに関する知識問題です。まず植物ホルモンの働きをまとめましょう。
→の拮抗関係がよく聞かれます。まず赤字部分の拮抗関係をおさえましょう。次に個別のホルモンの働きとしては青字の部分がよく聞かれます。点線で結んだ、エチレンーアブシシン酸、ジベレリンーブラシノステロイドは働きが近かったり連関していることが多いことを示します。
種子発芽はジベレリンです。種子発芽の流れは以下のようになります。
アブシシン酸は種子の発芽を抑制するのに対し、ジベレリンは種子の発芽を促進する。例えば、オオムギ種子が吸水すると、ア(胚)で合成されたジベレリンはイ(糊粉層)にはたらきかけてアミラーゼの合成を誘導し、ウ(胚乳)に貯蔵されているデンプンを分解する。