2021年、大学入試共通テスト「生物基礎」第3問A「バイオーム」(配点9点)問題・解答・解説

【解説】

●世界のバイオーム(biome、生物群系)の基礎知識

地域の植生とそこに生息する動物などを含めた生物のまとまりをバイオーム(植物群系)といい、世界の陸上には、10程度のバイオームが成立している。年間降水量と年平均気温によって、ほぼどのバイオームになるかが決まる。年間降水量を縦軸、年平均気温を横軸にした図は以下のようになる。


この図においては以下のように色分けしている。
緑ー常緑樹林茶ー落葉樹林、青ー荒原(森林も草原も成立しない)、薄緑ー草原

この10程度のバイオームを、2つの旅行をしたつもりのイメージ+2つのその他で捉えてみるとわかりやすい。
●「赤道⇒北極」コースの旅
「赤道⇒南極」コースで考えてもよいが、南半球には陸地が少ないうえ、北半球に住む私達からはイメージが難しいので「赤道⇒北極」コースとした。「比較的雨が降る地域で移動」を前提(ただし最終地のツンドラの降水量は多くない)にすると、赤道側から、熱帯多雨林(インドネシアなど)亜熱帯多雨林(沖縄など)照葉樹林(関東以南など)夏緑樹林(東北など)針葉樹(シベリアなど)→ツンドラ(北極圏)

「砂漠脱出」コースの旅
砂漠の真ん中に残され、草原へと脱出するコースの旅を考える。草原がどちらかになるかは砂漠が熱帯と温帯のどちらに隣接しているかによる。
 砂漠サバンナ(熱帯草原)・ステップ(温帯草原)

●その他
熱帯であるが、降水量が熱帯・亜熱帯多雨林よりは少なく、砂漠よりの多い場所に位置する雨緑樹林。
  地中海など独自のバイオームである硬葉樹林

この順に詳述しよう。

●「赤道⇒北極」コースの旅

熱帯多雨林
森林内は高さごとに幾層もの植物から構成される階層構造が発達する。つる植物や土壌以外のもの(たとえば高木の幹・枝)に根を付着させて生育する着生(ちゃくせい)生物も多い。高温で土壌中のシロアリや土壌微生物の働きが活発なため、有機物が残らず土壌は薄い。高木にはフタバガキ科などが多い。

亜熱帯多雨林
熱帯よりも少し緯度が高い地域に形成される。独立して捉えず、熱帯多雨林に含めて考えたり、一体で考えることもある(本設問も)ので、問題ごとに柔軟に対応すること。

の海岸部や河口部にはマングローブ林という常緑樹林が生息することがある。落ち葉や隠れ場所が多くなるため、多様な小動物の生育する豊かな生態系となる。)

照葉樹林
日本の九州~関東など、温帯の中でも比較的気温が高い暖温帯に形成される。クチクラ層が発達した光沢のある葉を持つ。シイ・カシ・クス・タブ・ツバキなどが代表樹種である。

夏緑樹林
東北~北海道南部など。冬に落葉する落葉広葉樹林。ブナ・ミズナラ・カエデなどが代表樹種。春に再び葉をつけるまでの間の早春に、林床に開花・結実するカタクリなどの春植物がみられる。

針葉樹林
北海道北部~シベリアなど。針のような葉にしたことで耐寒性を増したので常緑であることが多い。コメツガ・シラビソ・トウヒ・モニなど。ただしカラマツは落葉する(「枯れ松」とおさえとよい)

ツンドラ(寒地荒原)

北極圏など。樹木は生育できず、草本や地衣類・コケ類が生育する。動物ではトナカイなどの大型哺乳類が生育する。

●「砂漠脱出」コースの旅

砂漠(乾荒原)
植物自体が少ない中で、葉をトゲに変化させ表面積を少なくし、葉緑体は茎に移動させ茎で光合成するとともにそこに水分を保持できる肉厚の構造にしたサボテン(多肉植物)や、わずかな降雨を利用して発芽しまた種子で長期休眠できる植物が生息している。

サバンナ(熱帯草原)

イネ科の草本が中心であるが、木本も点在する。シマウマ・ヌーなどの植物食性の動物とそれを捕食する動物食性の動物などが生息する。

ステップ(温帯草原)

イネ科の草本が中心で、木本はほとんどない。昆虫ではバッタ類が多い。このステップを改良した場所が、世界のイネ科作物の生産地である「穀倉地帯」となってきた。

●その他

雨緑樹林

熱帯であるが、降水量が熱帯・亜熱帯多雨林よりは少なく、砂漠よりの多い場所に位置する。インド・タイなどの多くが雨緑樹林である。1年のうちに、雨季と乾季があり、乾季には落葉する落葉広葉樹林である。チークが代表樹種。
(落葉樹林は「夏緑樹林」「雨緑樹林」である。「●緑樹林」という表現は●以外の季節は落葉することを示していると考えればよい。)

硬葉樹林
地中海沿岸・アメリカ西海岸(ロサンゼルスも含むカリフォルニア州)などで、オリーブ・ゲッケイジュ・コルクガシなどが代表樹種である。
厚いクチクラ層を持つ硬くて小さな葉を1年中つけている常緑広葉樹林である。。夏は乾燥し、冬には雨が多く、図に示すとステップ・夏緑樹林・照葉樹林の境界にあるような気候に位置する。

 

問1(以下の番号は上記のバイオームの説明番号でなく、設問の選択肢番号であるので注意してください。)

点線Pより上側では、森林が発達しやすい。正解。

点線Pより上側では、雨季と乾季がある。×
   雨季と乾季がはっきりしているのは「雨緑樹林」など一部のみである。
点線Pより上側では、常緑樹が優占しやすい。×
落葉樹林である「夏緑樹林」「雨緑樹林」も点線Pの上にある。
点線Pより下側では、樹木は生育できない。×
点線Pの下のサバンナには木本(樹木)も点在する。
点線Pより下側では、サボテンやコケのなかましか生育できない。×
イネ科草本が多いステップとサバンナがある。

問2

 地球温暖化が進行したときの降水量の変化が小さければ、気象観測点の周辺において、を主体とするバイオームから、を主体とするバイオームに変化すると考えられる。

降水量の変化が小さい」を前提にしているので、選択肢にあげられたX・Yともy軸方向(上下方向・総水量変化)には動かず、x軸方向(左右方向・気温変化)のみに動くと考えてよい。温暖化で気温が上がる変化、つまり右方向への移動なので、Xは夏緑樹林(落葉広葉樹林)→照葉樹林(常緑広葉樹林)に移行する可能性があるつまり正解はとなる。
一方、Yが雨緑樹林まで移動するには気温差が大きすぎる。

問3

は知識であるが、は知識ではなく、グラフを読んで考える問題である。グラフを問題文の指示通りに夏緑樹林と硬葉樹林を比較する。図2の降水量は「夏」についてのみ聞かれているので「冬」は無視し、図3の気温は「冬」についてのみ聞かれているので「夏」は無視して比較することが大切である。文章がQが主語となっているので、夏緑樹林(仙台・青森)に比べて、ローマ・ロスアンジェルスの降水量と気温が、多いのか少ないのか(高いのか低いのか)という視点で比べる。

 

バイオームQはエ(硬葉樹林)であり、オリーブやゲッケイジュなどの樹木が優占する。このバイオームの分布域では、夏に降水量がオ(少ない)ことが特徴である。また、冬は比較的気温が高いため、ことも気候的な特徴である。

カは「降雪が見られず湿潤である」か「降雨が蒸発しやすく乾燥する」から選ぶわけであるが、ここは青森・仙台は降雪が多く、冬の平均気温が0°付近であることが、冬の落葉の要因の一つであるとわかれば、ローマやロサンゼルスの10℃付近では降雪が起こらないことが類推できることから、「降雪が見られず湿潤である」が夏緑樹林とは異なる硬葉樹林の特徴であると選ぶことができる。よって
(一方10℃程度では「降雨が蒸発しやすく乾燥」することはないし、図2で冬の降水量が少なくはない、つまり乾燥していないことから間違いとわかる。)