2019年大学入試センター試験「生物」第1問(生命現象と物質)(必答・配点18点)問題・解答・解説

第1問

生命現象と物質に関する次の文章(A・B)を読み、下の問い(問1~5)に答えよ。(計18点)

A 葉緑体では、光エネルギーを用いて光合成が行われ、二酸化炭素から有機的に変換される。実験1~3は、光合成のしくみを明らかにするために行われた研究である。

実験1 ある植物の緑葉をすりつぶして得られた葉緑体片を含む溶液に、シュウ酸鉄(ⅲ)を加えた。この溶液を図1のように、密閉できる容器に入れて空気を取り除き、光を照射したところ、シュウ酸鉄(Ⅲ)はシュウ酸鉄(Ⅱ)に還元され、酸素が発生した。同じ条件で、シュウ酸鉄(Ⅲ)を加えない場合は、酸素は発生しなかった。

(実際の入試問題は白黒ですが、イメージ強化のためカラーにしました)

 

実験2 ある緑藻に、ほとんどの酸素原子を同位体の酸素18Oに置き換えた水と、通常の二酸化炭素を与え、光を照射したところ、与えた水と同じ割合で18Oを含む酸素が発生した。一方、通常の水と、ほとんどの酸素原子を18Oに置き換えた二酸化炭素を与えて光を照射したところ、発生した酸素に18Oは含まれていなかった。

実験3 ある緑藻に放射性同位体の炭素原子14Cを含む二酸化炭素を与え、温度を一定に保ったまま光を短時間照射したところ、14Cは炭素3個からなる化合物に取り込まれた。同じ条件で、光を照射しない場合は、14Cはどの化合物にも取り込まれなかった。

問1

実験1~3の結果から導かれる結論や考察として適当でないものを、次の①~⑥のうちから二つ選べ。ただし、解答の順序は問わない。(3点×2)

① 実験1では、空気が取り除かれているので、発生した酸素は二酸化炭素に由来しないと考えられる。

② 実験1では、酸素発生の際には還元されやすい物質が必要であると考えられる。

③ 実験2から、発生した酸素は、水に由来することがわかる。

④ 実験2から、二酸化炭素が有機物合成に使われることが分かる。

⑤ 実験3から、二酸化炭素が固定される反応経路の一部が分かる。

⑥ 実験3から14Cが炭素3個からなる化合物に取り込まれる反応は、温度変化によって影響を受けることが分かる。

 

問2 光合成に関する次の文章中のア~ウに入る語の組合わせとして最も適当なものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

                                                 3(3点)

光合成は、葉緑体内のにおける光が直接関係する過程と、葉緑体内のにおける光が直接関係しない過程に分けられる。光合成にどのような波長の光が有効かは、植物にいろいろな波長の光を照射して光合成速度を調べることで分かる。光の波長と光合成速度の関係を示したものをという。

B 細胞膜は、細胞質を外界から隔てる役割を果たしている。また、単なる仕切りではなく物質の出入りの調節も行っている。細胞膜や細胞小器官の膜をまとめてa生体膜といい、b物質の輸送や細胞どうしの接着などに関与する様々なタンパク質が配置されている。

問3 下線部aに関連して、次のa~dのうち、内外2枚の生体膜で囲まれた細胞小器官の組合わせとして最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。(3点)

a 核  b 液胞  c ゴルジ体  d 葉緑体

①ab  ②ac   ③ad   ④bc   ⑤bd   ⑥cd

問4 下線部bに関連する記述として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。(3点)

① チャネルによる物質の輸送は能動輸送である。

② ナトリウムポンプは、ナトリウムイオンを細胞外へ放出し、カルシウムイオンを細胞内に取り込む。

③ ナトリウムイオンは、ナトリウムチャネルを通過する。

④ ナトリウムポンプは、物質の輸送にADPのエネルギーを利用する。

⑤ アクアポリンは、水分子の輸送に関わるポンプである。

問5 生体膜は半透膜に近い性質をもつ。半透膜では、膜を隔てて食塩水と蒸留水がある場合、食塩水側に水が移動する。ヒトの血液から取り出した赤血球を、濃度の異なる食塩水e~hに浸し、一定時間後に観察したところ、赤血球は次のような状態を示した。食塩水e~hの食塩濃度の値の大小関係を正しく表しているものを、次の①~⑧のうちから一つ選べ。    6(3点)

食塩水e 破裂していた。 食塩水f 変化していなかった。

食塩水g  収縮していた。食塩水h 膨張していた。

 

①e>f>g>h  ②e>h>f>g  ③f>e>h>g ④f>g>h>e ⑤g>f>h>e  ⑥g>f>e>h ⑦h>f>e>g ⑧h>g>f>e

答  ④⑥(3点×2) 3③(3点

  4③(3点) 5③(3点) 6⑤(3点) (計18点)

解説

問1(1・2)(3点×2)

実験1~3の結果から導かれる結論や考察として適当でないものを、二つ選ぶ」問題。

たとえば選択肢⑥「Cが炭素3個からなる化合物に取り込まれる反応は、温度変化によって影響を受ける」は事実(知識)としては正しいが、実験3ではその論点(温度変化の影響)の実験をしていないので、「実験結果から導かれる結論や考察」ではない

① 実験1では、空気が取り除かれているので、発生した酸素は二酸化炭素に由来しないと考えられる。⇒〇

② 実験1では、酸素発生の際には還元されやすい物質が必要であると考えられる。

〇(還元されやすいシュウ酸鉄(Ⅲ)がないと反応が起こらない)

③ 実験2から、発生した酸素は、水に由来することがわかる。

〇(18Oに置き換えた水の場合、18Oを含む酸素が発生し、通常の水(Oは通常の16O)の場合は18Oを含まない酸素が発生したから)

④ 実験2から、二酸化炭素が有機物合成に使われることが分かる。

×(二酸化炭素が炭素3個からなる化合物に一旦、取り込まれたことはわかる。しかし、最終的に生成された有機物に14Cが取り込まれていることを確認する実験は行われていないので、有機物合成に使われたかまではわからない。)

⑤ 実験3から、二酸化炭素が固定される反応経路の一部が分かる。

〇(二酸化炭素が炭素3個からなる化合物に一旦、取り込まれる反応過程がわかる。固定とは気体が反応して液体・固体中の化合物に取り込まれること)

⑥ 実験3から14Cが炭素3個からなる化合物に取り込まれる反応は、温度変化によって影響を受けることが分かる。

×(事実(知識)としては正しい。しかし、温度変化と反応速度の関係の実験は行われていないのでわからない。)

よって④⑥

 

★実験1~3の実際。

 

 

問2

光合成の反応は葉緑体のチラコイドでの光が直接関係する反応段階と、その次のストロマにおける光が直接関係しない反応段階で行われる。

(電子の流れを正確に説明することを省略した簡潔な図)

チラコイド(積み重なった部分を特にグラナという)膜に存在する光化学系Ⅱに光が受け止められる。すると水が分解されO2が放出される。この時分離したHのうち電子(e-)がチラコイド膜の電子伝達系を移動し光化学系Ⅰに到達し、その過程でATPが生成される。光化学系Ⅰに光が受け止められると、再び電子の流れがおき最終的にNADPHが生成される。順番でⅡが先、Ⅰが後になっているのは、光化学系の発見順にⅠ、Ⅱと命名したが、実際の反応順番は逆であったという歴史的な経過による。

次に、ストロマ(内膜の内側でチラコイド以外の基質の部分)においてCO2がC5化合物(RuBP)と結合し、C3化合物(PGA)になる反応が行われ、更に、チラコイドでの反応で生成したATPとNADPHを利用しながら、次々に物質が変化し、有機物を作り出す反応がおこなれる。この回路は発見者の名前をとって「カルビン・ベンソン回路」と呼ばれる。

 

葉緑体のチラコイド膜には、クロロフィルやカロチノイド(カロチン・キサントフィルの総称)という色素が含まれる。

クロロフィルは赤と青の光をよく吸収し、カロチノイドは青は吸収するが赤は吸収しない。その光の吸収の度合いを示した曲線が吸収曲線(吸収スペクトル)である。

クロロフィルaとbの吸収曲線は赤と青にピークがある点は類似しているが、bに比べaのほうがより両端の波長を吸収する。

特に光化学系Ⅱ・Ⅰの反応中心にはクロロフィルaが多いが、クロロフィルb・カロチノイドも光受容に関与している。

したがって、光合成に有効な光合成の作用曲線(作用スペクトル)は、これらの色素の吸収曲線を重ねあわせた図となり、青と赤が最も有効だが、緑や黄も少し有効となる。よって

問3

原始原核生物ではDNAは細胞質中に存在していた。細胞膜が変形して内部に落ち込んで網目をつくったものが、今の小胞体・ゴルジ体・液胞などの一重膜である。核膜は同じ由来であるが、二重に膜を作った。この外側の膜と内側の膜は起源が同じ(原始原核生物の細胞膜)なので同質二重膜と呼ばれる。

その後、原始好気性細菌が共生してミトコンドリアという細胞小器官になったものが動物細胞、更に原始シアノバクテリアが共生して葉緑体という細胞小器官になったものが植物細胞である。この流れを細胞内共生説(共生説)という。

細胞内共生でできたミトコンドリアと葉緑体は、外側の膜は原始原核生物由来、内側の膜は原始好気性細菌・シアノバクテリア由来で由来が異なり、今でも膜タンパク質などの組成が異なる異質二重膜である。

ミトコンドリア・葉緑体は、①異質二重膜であることに加え、②独自のDNAを持つ(図の赤い環状のもの)、③半自律的に増殖する、ことが、細胞内共生説の証拠と言われる。

よって4③(3点)

問4

細胞膜や細胞小器官の膜を生体膜という。生体膜は厚さ約8nmでリン脂質とタンパク質からできている。生体膜には膜の内外に物質を移動させるしくみがある。その移動を物質の種類や関与する膜タンパク質の種類で分類すると以下のようになる。

1、水分子やエタノール分子・気体など低分子物質は小さいので、リン脂質のすき間を通過する。またステロイドなどの脂溶性物質は、リン脂質を通過しやすい。流れの向きは、その物質が高濃度側から低濃度側に向かって移動する。このようなリン脂質のすきまからの物質の流れは単純拡散という。

2、チャネル、輸送体(トランスポーター)・アクアポリン

リン脂質の隙間を通り抜けることができない大きさの分子や電離したイオンは、それを積極的に通す構造である膜タンパク質の間を通過する。輸送するものの種類によって名称が異なり、イオンを通す膜タンパク質をチャネル、グルコースなどイオン以外の物質を通す膜タンパク質を輸送体(トランスポーター)、水分子を通すたんぱく質をアクアポリンという。

水分子は単純拡散でリン脂質のすきまを移動しうるが、大量に水を必要とする組織や細胞ではその速度では間に合わない。そこで水が移動できるタンパク質であるアクアポリンが、水の出入りの多い臓器などでは多くなっている。

このように膜タンパク質を介した物質移動を促進拡散という。

図で緑●で示したものが物質である。上側に緑●を多く、下側に少なく描いているのは濃度差を示しており、この図では上から下に濃度差に従ってが移動することは、煙(の中の粒子)が濃い場所から薄い場所に広がっていくように、自然の流れでありエネルギーを必要としない。この流れを受動輸送(拡散)といい、上記のように単純拡散と促進拡散に分けられる。

(なお図では細胞外・細胞小器官外が高濃度、細胞内・細胞小器官内が低濃度で表現しているが、実際には物質や膜タンパク質によっては細胞内・細胞小器官内が高濃度であることもある。)

3、ポンプ

一方、低濃度側から高濃度側に物質を輸送するのためにはATPのエネルギーが必要である。ATPのエネルギーを使いながら、この低濃度側から高濃度側への輸送を行うタンパク質をポンプといい、この働きを能動輸送という。

 

①×(能動輸送⇒受動輸送(促進拡散))

②×(カルシウムイオン⇒カリウムイオン)

(図の左はグルコーストランスポーターである)

図の右の赤い構造がナトリウムポンプ(Na+-K+ATPアーゼ)であり、ATPのエネルギーを使い、Na+を低濃度の内側から高濃度の外側に能動輸送すると同時に、K+を低濃度の外側から内側に能動輸送する。

③〇

④×(ADP⇒ATP)

⑤×(受動輸送(促進拡散)なのでポンプではない。アクアポリンと独自に表現されるが、水チャネルという別名もあり、促進拡散をする場所となっている。)

よって5④(3点)

問5

g>f>h>e

6⑤(3点)