共通テスト第2回試行調査「生物」第3問(発生)(配点14点)問題・解答・解説

問1

<動物の分類の基礎>

以下の図で動物の分類の基礎を確認しよう。

単細胞の原生動物と、多細胞だが胚葉を持たない海綿動物から分岐し、内胚葉・外胚葉の二胚葉の区分を持つようになった動物がクラゲなどの刺胞動物(それに近縁の有櫛動物)である。
さらに中胚葉ができ、三胚葉性の動物となったものは、運動性・左右相称・消化管を持つことが多い。発生段階で消化管を貫通させて形成する時、最初に原腸を陥入させる場所である原口が口になり、反対側の貫通完了点側に肛門を作るのが、(肛門の形成よりも口の形成が旧い)旧口動物である。逆に、最初に原腸を陥入させる場所である原口が肛門になり、反対側の貫通完了点側に口ができる場合、(肛門より口の形成のほうが新しい)新口動物となる。
旧口動物は、「脱皮動物」である節足動物(昆虫、エビ、カニなど)・線形動物(線虫など)と、トロコフォア幼生を持つ(祖先は持っていたと進化的に類推できる)「冠輪動物」である輪形動物(ワムシなど)・軟体動物(貝・イカ・タコなど)・環形動物(ミミズ・ゴカイなど)・扁形動物(プラナリアなど)に分けられる。
新口動物は、棘皮動物(ウニ・ヒトデ・ナマコなど)と、幼生や終生脊索を持ち続ける原索動物(ホヤ・ナメクジウオなど)、脊椎動物に分けられる。

×

独立栄養生物とは、無機物から有機物(糖など)を合成できる生物のことで、主に光合成ができる植物などである。
一方、動物や菌類は、無機物から有機物(糖など)を合成できず他の生物が作った有機物を取り入れて生命活動を行うので(他の生物が作った有機物に依存しているという意味で)従属栄養生物と呼ばれる。したがって誤り。
×

昆虫など節足動物は図のように、原口が口になる(反対側に肛門ができる)旧口動物である。したがって誤り。

×

脊索を(幼生か終生に)持つのは、原索動物、発生時にだけ持つものが多いのが脊椎動物であり、ともに新口動物である。旧口動物の節足動物は脊索を持たない。

×

昆虫だけの特徴ならば3つの肢(付属肢)は正しい。しかし節足動物には、エビ・カニなどより多数の肢を持つ甲殻類や4対の肢を持つクモ形類、多数の肢を持つゲジ・ヤスデなどの多足類も含むので、「節足動物に共通する特徴」ではない。

脊椎動物のように体内に骨格を持つ内骨格に対し、節足動物は、体の構造を支える硬い構造を体表部分に持つので「外骨格」という。カブトムシのような昆虫の体表、エビ・カニなど甲殻類の殻は同じ成分「キチン質」でできている。ハエやチョウなど他の昆虫もカブトムシほど硬くないが、キチン質の外骨格を持つ。
節足動物の共通の特徴としては、他に「はしご形神経系」「体節構造」などがある。
(配点3点、正答率50.2%)

問2

半分考察、半分知識の問題である。

ショウジョウバエの前後軸(頭尾軸)の形成は以下の図に示す流れである。


雌の卵巣で未受精卵が形成される時に、卵の細胞質の将来体の前方になる極(前極)にはビコイド、後方になる極(後極)にはナノスというmRNAが蓄積される。やがて受精がおき、mRNAからタンパク質への翻訳がされるようになるとmRNAjから合成されたビコイドタンパク質(この設問でのタンパク質Y)は前極から卵の中央より後極側に向けて拡散し、濃度勾配を形成する。同様にナノスタンパク質も後極から卵の中央より前極側に向けて拡散し、濃度勾配を形成する。ビコイドタンパク質の多い側は、頭部・胸部の形成の遺伝子発現を促進させ、頭部・胸部となり、ナノスタンパク質の多い側は、腹部を形成する。
このように、タンパク質が拡散でき、濃度勾配を形成できるのは、細胞膜の仕切りがないためであり

が正解である。

は事実としては正しいが、「タンパク質Yの濃度勾配による前後軸の形成に不可欠な性質」ではない。
(配点3点、正答率14.3%)

問3

設問の聞かれ方は異なるが、内容的にはセンター試験の実験考察問題の傾向を引き継いでいる問題である。
まず、実験考察問題では日本語だけで考えていると混乱しやすいので、簡単に〇×などを使って記号化することをお勧めする。
この設問では以下のように記号化表現できる。

翅の〇は翅ができたこと、×は翅ができなかったことを示す。遺伝子Xが第3体節ではたらく場合を〇、働かない場合を×とかく。X(エックス)という記号をそのまま使うと、×(バツ)と区別できないので、表のように位置に発現の有無を〇×で示す。本設問は第2体節でXが働いているという記述はないため、第2体節部分は空白にする。
実験考察では実験条件や結果が同じ部分でなく、異なる部分(差異)こそが実験の意味を示していることが多いので常に差異に注目する。野生型と変異型で異なる部分を赤で強調すると以下のようになる。(試験場では赤ボールペンは使えないので、違いの部分に下線を引くなどして強調してみるとよい。)

この差異部分に注目すると遺伝子Xの発現の有無(〇×)が、第3体節の翅の形成の有無と裏返しに対応していることがわかる。遺伝子は通常、存在する部位で働く。したがって選択肢がなければ、「第3体節で遺伝子Xが働くと翅の形成が抑制される」→「遺伝子Xは(第3体節で)翅の形成を抑制する」と考えるのが順当である。

しかし、選択肢のように、遺伝子が前の体節にはたらきかけるという推論も含めて検討しなければならないので、これも図式化してみる。翅は原基を・(点)で示し、それが翅に変化した場合を・→〇、翅に変化しなかった場合を、・→✖で表記してみる。そして遺伝子Xが働きかけた部分を赤の→で表記する。遺伝子Xが働かない場合の傾向を黒で表記する。
〇〇と同じものを作るを「=」、同じものを作ることを抑制する(まわりくどい表現であるが、結局「異なるものを作らせる」)を≠で表現する。
そして推論(選択肢)が、もし正しかった場合、どのような翅のでき方になるかを考え、実際の結果と一致する推論(推論)を選べばよい。

同じものになるのだから、第2体節は、第3体節と同じく翅がなるはずで、実際の結果と異なる。したがって誤り。

推論2は、野生型は説明できる。しかし、変異型で矛盾が生じる。遺伝子Xは第3体節の遺伝子発現には影響を及ぼさないのだから、第3体節の翅は野生型と同じく翅なし(×)となるはずである。そして遺伝子Xが第2体節で働かないのだから、第2体節は第3体節と異なるものにはならず(つまり同じものとなり)、×となり、第2・3体節ともに翅なしになるはずで結果と異なる。したがって誤り。

第3体節の遺伝子Xが発現すると第2体節と同じものを作らせるならば、野生型の第3体節で翅ができなければならないので結果と異なる。したがって誤り。

これが実際の結果と同じとなる。したがって

(配点3点、正答率46.8%)

問4

前問で、ショウジョウバエの第3体節で働く遺伝子Xは、第2体節と異なる構造を作らせることがわかった。

a そもそも、遺伝子Xがなければ、第2・第3体節は異なる遺伝子発現とならず、同じ翅ができたという仮説は成り立つ。
bこれは、第3体節での遺伝子Xの発現を阻害したショウジョウバエの変異型で起きていることが、チョウではもともと第3体節で生理的に遺伝子Xが発現しないことで翅ができるという仮説も成り立つ。
c、同じ昆虫類だから同じ種類の遺伝子をもって発現するが、発現した結果できるタンパク質が、種で異なり、ショウジョウバエでは翅形成の遺伝子の抑制に働くが、チョウでは働き方が異なって、抑制能力が不足しているという可能性も否定できない。
よってすべての可能性は否定できない(ショウジョウバエでの働き方と矛盾しないので、 (a、b,c全て矛盾しない)

(配点5点、正答率7.8%、部分正答率 3点ー21.3%、1点ー32.7%)