2021年大学入試共通テスト「生物」(第2日程)第5問「遺伝子間相互作用と分子進化」(配点12点)問題・解答・解説

【解説】

問1

ある生物の細胞で発現する遺伝子は多数あり、その中にはお互い影響しあっている遺伝子もある。この遺伝子どうしの関係を遺伝子間相互作用という。
ある遺伝子が別の遺伝子の発現を促進・誘導する場合と、抑制・阻害する場合が有名であり、大学入試問題レベルではこの2通りで考えてよい。
A遺伝子がB遺伝子の発現を促進・誘導する場合を記号で、で示す。

C遺伝子がD遺伝子の発現を抑制・阻害する場合をきごうで、 で示す。は腕を水平に突き出し、手のひらを立てて、何かを止めようとしている姿、たとえばサッカーのゴールキーパーが相手のシュートを止めている姿などとイメージすればよい。この記号を使うと、更に複数の遺伝子相互作用を次のように地図のように表現できる。


実際には、促進にも抑制にも量的な程度差があり、またもともと何もなくても発現しやすい遺伝子か刺激がないと発現しない遺伝子の差もあるのだが、初歩としては「抑制の抑制」は「促進」と考えてよい。数学で「負の数×負の数=正の数」となるイメージに近い。
この記号を使って問題本文・実験1・問1の遺伝子X・Yの関係を図示してみよう。記述からY遺伝子はショウジョウバエのものと、アルテミアのもので異なる働きをするので「Yシ」「Yア」と示した。
本文で「ショウジョウバエのハラで脚が形成されないのは、遺伝子Yが発現し、遺伝子Xの転写を抑制することで、遺伝子Xが発現しないためである。」と書いてある。「YがXを抑制すると脚なし」とのことなので、逆にムネに脚があるのは「Yが発現せずXが発現するので脚あり」と読める。遺伝子はどの細胞にも存在するが、発現するか否かは細胞により異なる。
次に実験1・問1を見る時に注意してほしいのは、ショウジョウバエにある遺伝子発現を追加するのであるが、すでにこれまで働いてきた遺伝子を停止させるとは書いていないことである。したがって本文に書いたようなXやYシ、その相互作用はそのまま残った上で、そこにある遺伝子発現を追加するということである。図では、本文と同じ遺伝子発現と相互作用をそのまま黒字で示し、発現を追加する遺伝子を赤で示した。
実験1により「Yア」はXを阻害しないことがわかる。一方、問1は「Yシ」である。YシはXを阻害することは本文で分かっているので、ムネで強制的に発現させれば、ムネも脚がなくなる。ハラは同じYシ遺伝子が追加されただけなので、同じように働き、ハラも脚なしのままである。よって
(なお、本設問の出題図では胸部のムネの位置をわかりやすくするための配慮であると思うが、胸部の3体節は省略してある。本当は3体節であり、各体節から1対ずつ脚が形成され、翅は真ん中の体節(中胸部)から伸びる)

問2

実験考察問題では、この出題図だけを見ていたのではわかりにくことがある。その場合、実験条件と結果を単純に〇×表に表すと条件の〇×と結果の〇×がどのような関係になっているかわやりやすくなる。
A・Bの領域がアかイかを〇で示し、問1からはYの働きは抑制することが基本であり、問2の選択肢でも述語は全て「抑制する」「阻害する」なので、抑制する場合を〇、抑制しない場合を×で示してみる。

実験条件の縦列の〇、〇なしが結果の〇×と完全に一致するならば、その縦列の存在の有無が唯一の原因と考えてよいが、どの列も結果と完全には一致しない。よって、複合的な要因によって結果が決まるようである。

そこで選択肢を1つずつ表で確認しよう。

ショウジョウバエのタンパク質Yの領域Aは、脚形成を抑制する。

3つのうち2つが抑制(図の結果〇)されており、逆の結果となった1つが他の要因の関与と考えれば正しい。

アルテミアのタンパク質Yの領域Aは、脚形成を抑制する。

 

3つのうち2つが抑制(図の結果〇)されており、逆の結果となった1つが他の要因の関与と考えれば正しい。

アルテミアのタンパク質Yの領域Bは、領域Aの働きを阻害する。
これも正しい。

するとを合わせて考えると以下のような関係で働くことがわかる。

領域Aはシかアのどちらでも抑制効果を持ち、どちらかが存在すれば抑制効果を持つ。しかし、Bアがあると、そのA効果が打ち消されてしまう。
ショウジョウバエのタンパク質Yの領域Bは、領域Aの働きを阻害する。

これが誤り。よって「誤っている」ものを選ぶ本設問の解答は

説明をわかりやすくするため、の順で説明しましたが、実際に入試ではの番号順に考え、が誤り候補と考え、が正しいとわかるので、結果としてを選ぶという流れになります。

問2

「ムカデでは、脚が形成される体節で遺伝子Yが発現している」とあるので、ムカデのYもアルテミアと同様、Xを抑制せず脚を形成してしまっているとわかる。するとショウジョウバエのみが遺伝子YがXの抑制効果を持つので、ショウジョウバエのみに引き継がれるQの時期に「脚形成を抑制する」変異が起きた。そしてムカデ・アルテミアとの共通祖先の段階では、「脚形成は抑制していなかった」ことがわかる。