2021年大学入試共通テスト「生物」(第2日程)第6問「聴覚」(配点12点)問題・解答・解説

【解説】

問1

まず耳の構造と機能を確認しよう。

耳は外耳・中耳・内耳の3部位から成り立つが、内耳に感覚器官がある。
内耳の一番下のうずまき管(蝸牛ともいう、蝸牛はカタツムリのこと)は聴覚。
真ん中の前庭は体の傾き(平衡覚)。
一番上の互いに直交した3つの輪からなる半規管は回転覚を感知する。
3つの感覚器官の共通点は、リンパ液で満たされており、脳に信号を送る神経細胞に接続する感覚毛を持った有毛細胞を持つことである。
聴覚の刺激受容にいたる流れを確認する。
空気の振動である音波は耳殻(耳介)で集められ、外耳道を経て、鼓膜を振動させ、中耳の耳小骨、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨という3つの骨をこの順に振動させ、それが内耳・うずまき管の入口である卵円窓を振動させる。
うずまき管の断面は以下の構造となっている。
この管の中は鼓室階(1階に相当)、前庭階(2階に相当)、そしてその中間にうずまき細管(中2階に相当)という3つの部分に分かれ、いずれもリンパ液に満たされている。卵円窓は前庭階の入口にあり、その振動は前庭階(2階に相当)のリンパ液の中を音波として伝わり、基部(卵円総)側から先端部(カタツムリのうずまきの頂上部)に向かう。先端部で前庭階(2階に相当)と鼓室階(1階に相当)がつながっており、今度は音波は鼓室階(1階に相当)から基部に戻ってくる。最終的に音波は鼓室階の基部(正円窓)に到達する。鼓室階を音波が戻ってくるとき、その音の高さとちょうど共鳴振動する幅の基底膜を振動させる。基底膜は鼓室階では天井の位置となるがが、うずまき細管(中2階)では床の位置となる。うずまき細管で基底膜が振動すると、おおい膜が振動し、その部分の聴細胞を刺激しその情報が脳に伝わり、その高さの音として感覚される。おおい膜・聴細胞・基底膜のまとまりをコルチ器という。音の高さは振動させる基底膜(感知するコルチ器)の位置によって異なって感じられる。基底膜の幅は(イメージとは逆かもしれないが)基部では狭く、先端部で広い。よって基部に近い側ほど「高音」、先端部に近い側ほど「低温」を感知する。 基底膜が狭いほど高音を、広いほど低音を共鳴しやすいのは、楽器で膜が狭い小太鼓やティンパニーが高い音、大太鼓が低い音を出すを考えれば実感できるのではないでしょうか?
音波が鼓膜を振動させる際の、鼓膜の振幅の大きさの違いを指標にしている。 
  →鼓膜は通り道として耳小骨に振動を伝えるだけで高低の感覚に関与していない。×
うずまき管内のリンパ球の振動が、うずまき管内のどの位置の基底膜を振動させるかを指標にしている。
内耳の前庭に伝わった振動によって共鳴する耳石(平衡石)の大きさの違いを指標にしている。→前庭は傾きの感覚である。×
    (前庭は傾きの感覚器官だが、前庭は、うずまき管の一部であるので間違えないようにしましょう。)
内耳の半規管のうち、どの方向のリンパ液が振動するかを指標にしている。→半規管は回転覚である。×
よって

問2

生物の問題というより、数学の問題として解く。中学で習う鋭角30°、60°の直角三角形の辺比を活用する。

 

このように大学入試生物では、中学数学の基礎知識が前提とされることがある。以下、この分野の基礎知識を確認しておこう。

 

問3

正面からの音が両耳に同時に届き、真ん中のニューロンdを興奮させるのは本文の通りである。

一方、音が、左や右方向から聞こえた場合は以下のようになる。

音の入る角度が正面からはずれるほど左右の時間差は大きくなるので興奮するニューロンは両端側となる。その感知で音の方向までおおまかに感知できることが推測される。

 

さて、次に数値計算に入る。軸索での伝導速度とニューロン間との距離の関係がわかりにくい数値なので以下のようにまず換算して整理しよう。

すると1ニューロン(区画)間の伝導に0.025ミリ秒要すると換算すると、この問題は考えやすくなる。本文で「0.075ミリ秒後には、信号は点Xと点Yからそれぞれ0.3mm(3区画)離れたニューロンdに同時に到達」も0.025ミリ秒×3区画=0.075ミリ秒と納得できる。

問2の図が左側に音源があったが、問3では左耳への到達が先なので、音源は右側にあることに注意してほしい。

左右の到達時間差が0.05ミリ秒なので、0,05÷0.025=2区画分の差である。右側到達時、速い入力であった左側は既に2区画進んでいるのでまで進んでいる。そしてcとgの真ん中に両者の伝導が同時に伝わるので、興奮場所はeとなる。

よって(5点)(なおまで正解であったの場合部分点2点

 

【解説者の朝倉の入試問題としての考察】
総合問題としては面白いが、生物入試としては、生物的な内容は問1のみ、問2・問3は数学的である。もちろん、生物の学問を進める上で数学は必要であり、それを示した意味はあるが、比重が数学に偏りすぎている。問2はなしにして、問3を問2にして、問3に感覚の左右差の統合による把握を、生物的に深めた問題を配置したほうがよかったのではないかと感じます。