2021年大学入試共通テスト「生物基礎」(第2日程)第1問「細胞(サンゴの細胞と褐虫藻)・遺伝子」(配点18点)問題・解答・解説

問1

本設問では様々な細胞やウイルスの大きさが聞かれている。大きさを確認する前に細胞の種類や、細胞とウイルスの違いを整理しておこう。

【原核細胞と真核細胞】

生物の基礎単位は細胞(cell)である。細胞は細胞膜(plasma membrane)で外界から隔てられた構造であるが、その特徴から二つに大別される。
・真核細胞 核膜に包まれた核を持ち、その中にDNAを収納する。また、ミトコンドリアなど様々な細胞小器官を持つ。
・真核細胞 核膜に包まれた核を持たず、DNAが細胞の中(細胞質)に裸で存在する。また、細胞内構造体も少ない。
真核細胞で構成された生物を真核生物(eukaryota)、原核細胞で構成された生物を原核生物(prokaryota)という。
 真核生物にはヒトなど動物、植物、またキノコ、カビ、コウボ(酵母)などの菌類、藻類の多く(緑藻、紅藻、褐藻など)とゾウリムシ、ミドリムシなどの単細胞の生物が含まれる。動物、植物、菌類の多くは、多数の細胞が個体を形成する「多細胞生物」である。原生生物の多くは一つの細胞が個体となっている「単細胞生物」である。
外界からエネルギーを得る方法は、動物は摂食、植物は光合成、菌類は分解吸収であり、個体の形態や生活様式は異なる。しかし、それらの構成する一つ一つの細胞(真核細胞)の基本構造は類似している。
 原核生物に含まれるのは、細菌(bacterium、複数形bacteria)やラン藻(cyanobacterium、複数形cyanobacteria)などである。多くの場合、単細胞であり、原核生物=原核細胞である。また、原核細胞は、核膜に包まれないDNAを持ち、真核生物に比べ細胞内構造体の種類は多くない。ただ、タンパク質合成装置であるリボソームを持ち、自ら必要なタンパク質を合成できる。また、細胞膜の外側に細胞壁を持つ。
(細菌には〇〇菌という名称が多い。したがって、酵母菌と呼ぶこともある酵母は細菌と間違えられやすいが、細菌でなく、菌類で核膜に包まれた核を持つ真核生物なので注意してほしい。最近はその混乱を防ぐため、単に酵母(コウボ)と呼ぶことが多い。)

【ウイルス】

ウイルス(virus)は、遺伝子としてDNAかRNAを持ち、それが脂質の膜(エンベロープ)やタンパク質に包まれている。細胞膜で包まれた細胞構造は持たず、とりわけタンパク質合成装置であるリボソームを持たない。

自らでタンパク質を合成できないこともあり、単独で分裂して増えるなどの自己増殖はできない。そして、他の細胞(宿主細胞)の内に侵入し、宿主細胞のリボソームなどのしくみを乗っ取って初めて増殖できる寄生体である。

【真核細胞(とその細胞小器官)・原核細胞・ウイルスの大きさ】

以下が入試でよく問われる大きさである。

特に赤字の4カ所をおさえておくとよい。
真核細胞 数十μm
原核細胞(大腸菌)・ミトコンドリア 2μm
ウイルス(インフルエンザ・コロナ) 100nm
DNAの横幅 2nm
位(くらい)のみに注目し、最高位の数値を1と仮定すると、真核細胞:原核細胞:ウイルス≒10μm:1μm:100nmなので、100:10:1となる。このイメージをもっておくとよい。ちなみにDNAの幅の2nmは生体分子の大きさの一例であり、分子の世界に注目する分野では「ナノ・・・・」と表現することが多いことから類推できるだろう(細胞膜の厚さはこれに近い10nmである)。なお原核細胞の大腸菌と、真核細胞の細胞小器官のミトコンドリアがほぼ同じ大きさであることは、ミトコンドリア自体が原始好気性細菌が細胞内共生した共生進化の歴史から理解しておいてほしい。
数十μmを標準とした真核細胞と比較して若干小さかったり大きかったりする真核細胞もある。
酵母は若干小さく10μm、核を捨てたことで小型化した赤血球は8μmである。
一方、ゾウリムシ(200μm)とヒト卵(140μm)は一桁大きく、カエル卵(2㎜)・ニワトリ卵(30mm)は卵黄を多く含み巨大化した真核細胞である。
なお図で分解能とは、肉眼や顕微鏡などを使って、異なる2点を異なる2点と判別できる長さである。これも肉眼→500倍→光学顕微鏡→1000倍→電子顕微鏡で、約3桁ずつ分解能が増す。
褐虫藻とサンゴの中のミトコンドリアが2nmであることから、褐虫藻とサンゴは数十μmであり、標準的な真核細胞とわかる。
選択肢を分類すると
ウイルス(100nm程度)ーインフルエンザウイルスT2ファージ
原核細胞(数μm程度)ー大腸菌
真核細胞ー酵母(酵母菌) カエルの卵 6人の座骨神経
であるが、カエル卵は2mm、ヒトの座骨神経は長さ1mと例外的に大きいので、酵母(酵母菌)(10um)のみが同じぐらいの大きさである。

問2

褐虫藻は核膜に包まれた核、葉緑体、ミトコンドリアという細胞小器官をもつので真核細胞である。それを取り込んだサンゴの細胞も核膜につつまれた核を持つので真核細胞であるが、葉緑体は持たずミトコンドリアを持ち、摂食をしているので動物細胞である。
よって、真核細胞を細胞内に取り込んだ動物細胞。(なお褐虫藻を取り込んで光合成を活用しているが、サンゴ全体としては摂食を続けているので、「葉緑体を取り込んで、植物細胞に進化しつつある動物細胞」とは言えない。)

問3

同化とは単純な物質から複雑な物質を合成しエネルギーを蓄える過程であり、代表例は光合成である。
異化とは、複雑な物質を単純な物質に分解しエネルギーを取り出す過程であり、代表例は呼吸である。
そしてサンゴは摂食で食物から得た有機物と、褐虫藻が光合成をした有機物を両方利用するので、

問4

本設問ではDNAの構造のみが選択肢で問われているが、RNAもあわせて構造をおさえておこう。

DNAとRNAの構造の基本をまず確認しておこう。

表で比較すると以下のようになる。

DNAでもRNAでも青でくくった区画(ヌクレオチド)が繰り返された「ヌクレオチド鎖」であり、ヌクレオチドと次のヌクレオチドの間は、図にで示したリン酸(phosohoric acid)と糖の間の結合である。 とも×

図にあるようにDNAの二重らせんで対面する鎖の塩基は相補的(AーT、GーC)なので配列は同じではない。×

間期は核の中にDNAは収納されており、ひも状の構造である染色体は観察されない。×

正解は

問5

ゲノム(genome)とは、遺伝子(gene)と全体を示すギリシャ語系の英語の接尾辞(-ome)をあわせて作った造語で、生物学の発展に伴ってその定義も変わっている。国立遺伝研の木原均さんが1960年代に、「地球の歴史は地層に、生物の歴史は染色体に刻まれる」という言葉を発した頃は、ゲノムは真核生物の持つ染色体の組を示していた。コムギの進化やネズミの進化に近縁種の交配により、染色体の組が変わることが関与することが解明され、ゲノム分析とは、染色体の組合せ分析を示していた。
しかし、DNAやRNAの解明が進んだ現在では、ゲノム(genome)は、その生物が持ちその生物の特徴を示すDNA(RNAウイルスの場合はRNA)の総体を示す。ただし、真核生物の場合は、精細胞・精子と卵細胞がそれぞれその生物の特徴を示すDNA(ゲノム)を保持しており、それが受精卵を経て、個体になるので、2セットの情報(ゲノム)を持つことになる。したがって真核生物の場合は、精子(精細胞)や卵細胞を持つDNAの全量をゲノムという。原核生物やウイルスの場合は、単純に持っているDNA・RNAの総体を示す。
それでは「ゲノム=遺伝子」なのであろうか?遺伝子とは、DNAの情報のうち、タンパク質に翻訳される部分、あるいは翻訳される部分を含む領域を示す。DNAにはタンパク質に翻訳されない非遺伝子領域も存在する。原核生物と真核生物のDNA(ゲノム)と遺伝子の関係を図に示そう。

原核生物のゲノムは環状DNAで、その上に複数の遺伝子が「ピチピチ」に詰まって並んでおり、それでも10%程度の遺伝子間領域(非遺伝子領域)がある。
一方、真核生物のゲノムは線状DNAでそれが折りたたまれて顕微鏡で見える染色体となる。線状DNAの中で、遺伝子(関連領域)は「飛び飛び」に存在し、その間は非遺伝子領域である。(更に遺伝子関連領域の中にもイントロンなどタンパク質に翻訳されない部位も含まれる)
それらを全て合わせたものがゲノムなので、(遺伝子の領域の全ての情報)+(遺伝子以外の全ての領域)で、正解は

問6

真核生物はヒトも含めて受精卵のDNA・染色体を複製して、それを2つの細胞に分配する体細胞分裂を繰り返して細胞数を増やすので同じ個体の各細胞の持つDNA・染色体は基本的に同じである。ミトコンドリアDNAも受精時に母由来の卵細胞から受け継いだ同じDNAを持つため、核遺伝子とは独立に存在していても細胞間に差はない。細胞が異なる性質や機能を持つように分化(differentation)するのは、同じDNA・染色体を持っていても発現させる遺伝子と発現させない遺伝子が異なるためである。
同じ街で同じ図書館に通って(家には本がほとんどなく)読書していた2人が、1人は、生物学の本を読み進め、文学の本は読まずに生物学者となり、もう1人は、生物学の本は読まずに、小説を読み進め、小説家になることがあるように、同じ情報を共有していても、何を使うか(使わないか)によって、性質が異なってくるのである。よって、