2021年大学入試共通テスト「生物基礎」(第2日程)第2問A「腎臓」(配点9点)問題・解答・解説
【腎臓の働きのまとめ】
腎臓は、尿素などの窒素性排出物を排出するとともに、体液の浸透圧調整に関わる。
腎臓は上図のように皮質・髄質、そして尿をぼうこうに運ぶ輸尿管につながる腎うからなる。皮質にはネフロン(腎単位)と呼ばれる基礎単位が、右腎に100万、左腎に100万ある(ネフロンの一部の深部は髄質側にも差し掛かる)。ネフロンでは腎動脈からの由来する血液はネフロン内で毛細血管のかたまりである糸球体を通過する。糸球体において、血しょう(血液の液体成分)の一部が、周りを取り囲むボーマンのうにろ過される。このボーマンのうはその後、細尿管(尿細管)→集合管→腎う→輸尿管→ぼうこう→尿道にいたる尿を体外に排出する管とつながっている。糸球体を経た血液は、細尿管(尿細管)や集合管をとりまく毛細血管を経て、腎静脈にいたる。
この過程で、尿排出にいたる管と血管の間で、何段階かで物質のやりとりが行われる。糸球体・毛細血管側を赤、尿にいたる管を黒で表現する。
1、ろ過(糸球体→ボーマンのう)
水・糖(グルコース)・アミノ酸・無機塩(Na+含む)・尿素など、糸球体・ボーマンの基底膜の孔よりも小さな物質は、種類に関わらずろ過される。これはエネルギーを使わない受動輸送である。エネルギーを使わず、「孔」よりも小さい物質だけを通す「コーヒーフィルター」と同じ働きでろ過という。なお基底膜の孔より大きい(正確には電荷の影響もある)タンパク質や血球はろ過されず、毛細血管側に残る。このようにして一旦ボーマンのう側に出された液体を原尿という。タンパク質を除く血しょう成分は、基本的にそのままの濃度で原尿に移行する。
2、再吸収(細尿管→毛細血管)
1でいったんボーマンのう側に排出され腎細管を通っている糖(グルコース)・アミノ酸のほとんどと、水や無機塩類(Na+など)の多くは、尿に逃がさず体内で使うため、濃度勾配に逆らってでも毛細血管側に再吸収する。基本的にはATPのエネルギーを使った能動輸送である。(一部の物質は、他の物質の能動輸送が作り出した環境を活用して受動輸送される)
なお、老廃物である尿素も一部再吸収される。
3、追加分泌(毛細血管→細尿管)
(これは「生物基礎」の範囲ではなく「生物」の範囲なので、「生物基礎」のみの受験者は知らなくてよい)
1でのろ過時間は短いため、老廃物の中には排出しきれず毛細血管に残っているものもある。そのようなものを毛細血管側から腎細管に追加で排出することがあると同じ部位で起きるが輸送の向きが逆である。このような物質として有名なのがPAH(パラアミノ馬尿酸)があり、腎機能の検査に応用できる。
4、水・Na+・尿素の再吸収(集合管→毛細血管・腎臓間質)
水の再吸収は1(細尿管)でも行うが、複数のネフロンからの細尿管の流れが集合した管である集合管で多量に行う。細尿管が各家庭内の排水管とすると、集合管は各家の排水管が集合した街の道路の下の下水管のような存在である。なおここで吸収したものは、すぐに毛細血管に入らず、腎臓間質にとどまるものもある。老廃物である尿素も一部再吸収される(尿素の再吸収は一部、細尿管でもおきる)。
体が水不足(Na+過剰)な場合、パソプレシンがここに働き、水の再吸収を促進する。
体がNa+不足(水過剰)の時には主に鉱質コルチコイドが働き、Na+の再吸収量を増やす。(なお鉱質コルチコイドは2でも働く。)
(注、この両ホルモンの作用がなくても、生理的に一定量の水・Na+再吸収は常におきている。この両ホルモンは日々の体内の水・Na+変化に応じで、主に集合管で、再吸収総量と比べると、「微調整」をしている。しかし、この「微調整」が健康保持に不可欠である。)
以上のプロセスで再吸収されなかったものが、尿となる。成分としては水が主成分で尿素を多く、Na+を少量含み、糖尿病でなければグルコースは含まれない。
人体の浸透圧(体液の濃度)を決める要素が様々あって簡単ではない。ただ、初歩の理解としては「水とNa+(塩分)のバランス」で大筋が決まり、どちらかが不足する時に、それを尿に逃がさず体内にとどめるように再吸収を促進すると考えてよい。したがってNa+過剰の時は相対的に水不足と考えてよくバソプレシンが働きやすく、水過剰の時は相対的にNa+不足と考えてよく、鉱質コルチコイドが働くと考えてよい。
問1・問2
ろ過、再吸収における量的な関係を計算することを求める一連の問題である。腎臓に関する問題を解くにあたって、以下の標準的な数値は前提知識として持っておいたほうがよい。(ただし、実際の入試では若干異なる数値設定で聞かれることはあるし、疾病の人や,その日の食事・飲料量・運動量で変動があるし、他の哺乳類などに置き換えられた時は数値が異なることがありうるので、あくまで、問題ごとに計算する)。
まず1日あたりを確認すると、1日当たりの尿量が1.5Lは生活的な実感とも一致すると思う。しかし、原尿量(糸球体でろ過される量なので糸球体ろ過量ともいう)はなんとその120倍の170Lにもなる。1日24時間なので、1時間に7Lもろ過していることになる。血液総量は5L、液体成分の血しょうが3L弱なので、1時間に2回、つまり約30分に1回は全血しょうがろ過されている。血液は1分間で全身を循環するので、30分間(30回循環)に1回程度全量がろ過されていると考えれば不思議な値ではない。そして、そのろ過された量の99%以上は再吸収され、1日当たりの排出尿量は1.5Lとなる。
1日は24時間×60分で1440分である。これは自然科学での数値換算で知っておいたほうがよい(また、1日は1440分と有限なので、1分1分を大切にして1日を過ごすという気持ちにもつながるかもしれない)。1日の数値を1440で割ると1分の値になり、この値が非常にとらえやすく計算しやすい数値になる。原尿は120mL/分(120mLは大きめの缶飲料の半分)、尿は1mL/分、再吸収は119mL/分である。原尿:尿:再吸収=120:1:119であるが、もっと簡略化した近似値で原尿:尿:再吸収≒100:1:99と考え、「原尿量の約99%は再吸収され、約1%が尿になる」と考えると更にイメージしやすいかもしれない。
次に各物質ごと調べられた原尿・尿中濃度の表の見方を考えてみよう。下表は問題文の表をNa+の尿素の順序を変えることで、再吸収量が多い順にきれいに並べた表である。
まずタンパク質は、血しょう中には含まれるが、分子量が大きいなどで、糸球体の基底膜を通過できないので、原尿中に出ないので尿中にも出ない。(尿にタンパクが出る現象を「タンパク尿」といいなんらかの疾病などが疑われる。)
糸球体の基底膜を透過しろ過されるタンパク質以外の物質は、ろ過の過程は受動輸送で、濃縮など起きず、そのまま移行するだけなので、血しょう中濃度=原尿中濃度である。その後、ATPのエネルギーを使った能動輸送での(血液側への)再吸収が多いと、尿に残る量は少なくなる。逆に再吸収されにくいものは尿中によく排出される。尿中濃度が、血しょう濃度(=原尿濃度)の何倍になったかを示すのが濃縮率であり、表の右に加筆したように計算できる。
代表的な4種類の物質のろ過・再吸収の動き
1、グルコースと4、イヌリンが両極の性質を持ち、2、Na+と3、尿素はその中間に位置する。イヌリンはゴボウなどに含まれる成分で水溶性食物繊維に分類される。本実験のように、ろ過されるが全く再吸収されない物質として腎機能の検査などに使われてきた図の箱の面積が、原尿:再吸収:尿の量的イメージを示し、図の様々な色の●が物質の存在場所を示し、面積あたりに●がどれくらい存在するかが、その物質の濃度を示す。どの物質も原尿中には含まれるが、それが細尿管での再吸収の過程を経て、再吸収(血液側)と尿側にどのように移行したかを後半の図の中に●で示している。グルコースは全量が再吸収され尿には出ない。一方、イヌリンは再吸収がなく、全て尿のみに出るので尿中濃度が高くなっていることがわかる。Na+と尿素はその中間で、一部再吸収、一部尿へ分泌される。ただその比率には差があり、Na+は水の移動量(再吸収:尿)とほぼ同じ比率で移動するため、尿中濃度と原尿中濃度は変わらない。尿素は尿中に多くが排出され、尿中濃度は高くなるが、イヌリンとは異なり一部再吸収もされる。この4つの物質の移行のイメージをしっかり持っていくとよい。
さて、量的計算に行く前に、間違えやすい部分なので、小中学校の基礎である体積と単位と密度を確認しておこう。本設問では尿・原尿は水と同じ密度1g/cm3(1g/mL)としてよいとされるし、実際もほぼ1なので、1mg=1mLと考えてよい。
そして、イヌリンが再吸収が全くなく、原尿中イヌリン量(g/分)=尿中イヌリン量(g/分)なので、原尿量をx(g/分)とおくと以下のように原尿量が求められる。
「量(溶液量)×濃度=溶質量」となる計算は、「濃度10%の水溶液100gの中の溶質量は?」と聞かれて、「100g(量)× 10/100(濃度)=10g(溶質量)」と計算した中学の計算を思い浮かべてほしい。
原尿量は前提知識とピタリと一致し、120mL/分であった。(ただ、計算によっては本設問のように120mL/分となるとは限らず、答にはヒトの健康時の問題の出題の場合でも100~150ぐらいの値の幅がある。その都度、与えられた問題の数値に基づき計算すること。)
次にこれを使ってNa+再吸収量を求める問題であるが、ついでに尿素も求めておこう。
最初に流れを理解する上でもこの箱の図は有効である。また、このような計算問題でも、それぞれの箱の位置に下に計算を書き込むことにより、自らの計算が何を意味しているのかを見失うことなく思考が続けられるとおもうので、この箱を書くことをおすすめする。図では●まで描いてあるが、実際は慣れてくれば●までは描く必要はない。
「尿素は不要なので全量を廃棄しているに違いない」と勘違いせず、尿素は一部再吸収されることを確認しておこう。
ちなみに尿素の再吸収率(%)と聞かれたら、再吸収量/原尿中量 ×100(%)で計算するので、0.16/0.36 ×100(%)で44,4%となる。
問3
血液側へのNa+再吸収が促進されると、尿にNa+が排出されにくくなるため、尿中のNa+濃度は低くなる。このままであると、Na+が血液側に増えるので、そのままでは濃度が上昇するはずである。したがって、体内のNa+濃度が維持されるとすれば、体内でNa+が増加したのと同比率で水も体内に増えなければならないはずなので、水の再吸収が増加するはずである。すると体液量は増加して血流量も増えるため血圧が上昇する。よって、