大学入試共通テスト「生物」第2回試行調査第5問B(15点配点)問題・解答・解説
2021年1月 朝倉幹晴(予備校講師・船橋市議)
2018年11月に実施された第2回共通テスト試行調査の第5問B(遺伝子)の問題(15点配点)です。第5問A(配点11点)は同じく遺伝子の問題ですが、内容的には異なるので別々に解答解説を作りました。共通テストの問題傾向を把握してください。
入試問題は白黒ですが、せっかくの画面上ですので一部カラーにしました。
B 保健の授業で、日本には、お酒(エタノール)を飲んだとくに顔が赤くなりやすい人が、欧米人に比べて多いことを学んだ。このことに興味をもったスミコ、カヨ、ススムの三人は、図書館に行ってその原因について調べてみることにした。
スミコ:この本によると、顔が赤くなりやすいのは、エタノールの中間代謝物であるアセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(以下、ALDH)の遺伝子に変異があって、アセトアルデヒドが体内に蓄積されやすいからなんですって。変異型の遺伝子をヘテロ接合やホモ接合でもつ人は、ALDHの活性が正常型のホモ接合の人の2割くらいになったりゼロに近くなったりするそうよ。
カヨ:ヘテロ接合体は、正常型の表現型になるのが普通だと思っていたけど違うのね。へテロ接合体の表現型って、どうやって決まるのかしら。
ススム:ヘテロ接合体の活性がとても低くなってしまうっていうところが、どうもピンとこないね。僕は、ヘテロ接合体であっても正常型の遺伝子をもつのだから、そこからできるdタンパク質が酵素としてはたらくことで、正常型のホモ接合体の半分になると思うんだけどなあ。(図5)
スミコ:あっ、もしかしたら、ALDHの遺伝子からつくられるポリペプチドは、e1本では酵素としてはたらかないんじゃないかしら。
ススム:ALDHに関する本を見つけたよ。本当だ、4本の同じポリぺプチドが複合体となってはたらくんだってさ。よし、4本ではたらくとして計算してみるか。あれれ、f4本でもヘテロ接合体の活性は、半分になってしまうぞ。
カヨ:ちょっと待って。私が見つけた文献には、へテロ接合体でできる5種類の複合体について詳しく書いてあるわ。(表1)
カヨ:表1から計算すると、ヘテロ接合体の活性は、正常型のホモ接合体の2割強になるわね。たぶん、ススムさんの計算は前提が違っているのよ。
スミコ:きっと活性のない変異ポリペプチドが、複合体の構成要素となって、活性を阻害しているのね。二人三脚で走るとくに、速い人が遅い人と組むとスピードが遅くなるというのと同じことよ。ああ、だから、ヘテロ接合の人は、変異型のホモ接合体の表現型に近くなるんだわ。
ススム:なるほどね。日本人にお酒を飲んだときに顔を赤くなりやすい人が多いのには、変異ポリペプチドを含む複合体のALDHの活性と、表現型の遺伝子頻度という生物学的な背景があるんじゃないかな。じゃ、みんなでg変異型の遺伝子頻度を調べてみようよ。
問4 下線部dに関連して、細胞でつくられるタンパク質には、ALDHとは異なり、細胞外に分泌されてはたらくものもある。このようなタンパク質を合成しているリボソームが存在する場所として最も適当なものを、次ののうちから一つ選べ。(配点3点、正答率56.0%)
核の内部 細胞膜の表面 ゴルジ体の内部
小胞の内部 小胞体の表面
問5 下線部eに関連して、2本の正常ポリペプチドが集合して初めてはたらく酵素を考える。このとき、正常ポリペプチドと、集合はできるが複合体の活性に寄与しない変異ポリペプチドがあると仮定する。正常ポリペプチドに対して混在する変異ポリペプチドの割合を様々に変化させるとき、予想される酵素活性の変化を表す近似曲線として最も適当なものを、次のグラフ中ののうちから一つ選べ。
(配点3点、正答率30.7%)
問6 下線部fについて、どのような前提で計算すれば、活性が半分になるか。考え得る前提として適当なものを、次ののうちから二つ選べ。ただし、解答の順序は問わない。
(配点5点、正答率14.3%、部分正答(2点)率54.3%)
複合体の酵素活性は、複合体の正常ポリペプチドの本数に比例する。
複合体の酵素活性は、複合体の正常ポリペプチドの本数に反比例する。
正常ポリペプチドが1本でも入った複合体の酵素活性は、100である。
変異ポリペプチドが1本でも入った複合体は、酵素活性をもたない。
問7 下線部gについてエタノールに浸したパッチシートで皮膚が紅潮するまでの時間の違いによって、その人のALDHの活性の高低を調べることができる。三人が同級生100人の協力を得て調べたところ、次の表2の結果が得られた。表2から推測される変異型のALDH遺伝子の遺伝子頻度として最も適当なものを、下ののうちから一つ選べ。(4点配点、正答率6.4%)
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