入試に出る地方自治1(市長選)~「2021年大学入試共通テスト「倫理、政治・経済」第2日程第5問「市長選に関する生徒2人の会話」(配点19点)問題・解答・解説~

目次

解説

問1

「政党を結成するためには、国の許可が必要である。」誤り。許可は必要ない。

「利益集団(圧力団体)は、みずから政権獲得をめざす。」誤り。政権獲得を目指すのは政党であり、利益集団(圧力団体)は、自らの政策の実現をその政党や政府に働きかける団体である。

「人事院は、公職選挙法に基づいて選挙に関する事務を行う。」誤り。公職選挙法に基づいて選挙に関する事務を行うのは選挙管理委員会である。人事院は、国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関である。
「国外に居住する有権者は、国政選挙において選挙権を行使できる。」正しい。在外選挙制度が設けられている。
在外選挙制度について(総務省HP)

よって正解は(3点)

問2

「行政手続法は、行政運営における公正の確認と透明性の向上を図ることを目的としている。」正しい。

行政手続法の概要(総務省)

「情報公開法は、行政機関の非開示決定に対する国民の不服申立てを審査するために、オンブズマン(行政監察官)制度を定めている。」誤り。
不服申し立ての審査請求は、以下の図のように「行政機関の長」(独立行政法人等)に対して行う。


オンブズマン(オンブズ、オンブズパーソンともいう)は、スウェーデンはじめいくつかの国では制度的に確立された苦情処理を分担する官職だが、日本では国の制度としては確立されていない。上記の不服申し立ての審査請求がその役割を担う制度となっているが、諸外国に比べ権限が弱く、いくつかの自治体や市民の自主的な運動として「オンブズマン」が実施されている。

↑情報公開制度の紹介

「特定秘密保護法は、行政機関による個人情報の適正な取扱を通じた国民のプライバシーの保護を目的としている。」誤り。

行政機関による個人情報の適正な取扱を通じた国民のプライバシーの保護を目的とする法律は、「行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法」である。
行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法

特定秘密保護法 は内閣官房HPでは「特定秘密の保護に関する法律とは、我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものの保護に関し、必要な事項を定めるもの」と説明されている。ただ、成立にあたっては反対の意見も強く、日本弁護士連合会は反対意見を公開している。
内閣官房HP「特定秘密保護法」

日本弁護士連合会「秘密保護法について」

よって正解は(aのみ正解)(3点)

問3

選択肢の4項目は日本国憲法ではそれぞれ、次のように記されている。

職業選択の自由
第22条1「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」
 結社の自由
第21条1「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」
請願権
第16条「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」
労働三権

第28条「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保証する」
この条文の内容を労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)という。

「大規模小売店に対するある種の出店規制」は、小売店の結社の自由まで制限していないし、請願権も制限していない。労働者のことでないので労働三法も関係しない。
そして、規制地域外では事業者の「職業選択の自由」は阻害されていないとはいえ、「その地域でその店の出店をすることでその職業を選択する」自由は制限していることになるので、に対する制限である。よって(3点)

問4

地方自治体が市長の公約などで実施できるものを選ぶ問題である。基本的に、地方自治体は独自に条例を定めることはできるが、条例において国が定めた基準を制限することはできない。しかし、地方自治体は、自らの予算で国の基準以上の政策は可能である。そして、地方自治体がとり得るその他の政策の自由度は国の法改正によって広がりつつある。

「生活保護費の支出を抑制するため、市独自の認定基準を条例で定めることで、国の基準より認定の範囲を限定する。」不可能。

生活保護制度は、国の基準である。
生活保護制度(厚生労働省HP)
2021年4月からの、生活保護基準
厚生労働省関係の主な制度変更(令和3年4月)について

生活保護基準は決まっているが、生活困窮の様々な過程に対して市が独自の施策をするもとは可能である。
船橋市では、生活保護認定が下りるまでの間の一時貸付や、生活困窮世帯の子育て世代に対する、学校に関わる経費の補助「就学援助」などを行っている。

 

「登山道の整備に必要な財源を確保するため、市の独自課税として登山客を対象とする入山税を創設する。」可能。
法定外税

「公共施設の管理費用の削減およびサービス向上を図るため、市が設置する市民会館やスポーツ施設などの運営を民間に委託する。」可能

指定管理者制度として可能である。ただ、これに関しては市の公的な関与が弱まり責任放棄ではないかと、市直接の運営(直営)を続けるべきという議論があり、各事例ごとに市議会に議案として図られる。
船橋市における指定管理者制度

よって、正解は(bとc)(4点)

問5

「自治体として国の法規定を超える条例はできない」という問4の小問の直後なので、誤解をした人もいるかもしれないが、この問5での母とYとの会話は、「もし国の制度(法)を変更するとしたら」の意味での会話である。

「定年退職者を正社員として継続雇用するよう義務化すること」正しい。
被用者が増え、被用者向け各医療保険制度の被保険者が増えることで、国民健康保険制度の被保険者の比率が減少する。

「定年年齢を引き下げること」誤り。

被用者が減り、被用者向け各医療保険制度の被保険者が減ることで、国民健康保険制度の被保険者の比率が更に増加してしまう。

「後期高齢者医療制度の対象年齢を65歳に引き下げること」正しい。
後期高齢者医療制度の被保険者が増えることで、国民健康保険制度の被保険者の比率が減少する。

「高齢者が医療サービスを利用したときの自己負担割合を引き下げること。」誤り。
これは、どの保険制度であるかに関係ないので、比率には直接影響を及ぼさないと考えられる。

よって(aとc)(3点)

問5

「週あたりの労働時間の上限規制は、労働基準法にはない。」誤り。

労働基準法に以下のように定められている。

厚生労働省HP「労働時間・休日」

  • 使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
  • 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。
  • 使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。

「労働者災害補償保険法上の労働者には、短時間労働者が含まれる。」正しい。

「使用者は、正当な争議行為により損害を受けたことを理由として、労働組合に対し損害賠償を請求することができない。」正しい。
日本国憲法28条と労働組合法で規定されている。

「事業主には、労働者の募集および採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与える義務がある。」正しい。
  男女雇用機会均等法に定められている。

よって、(3点)。

 

【参考】大学入試共通テスト・共通一次解答・解説シリーズ

●「試験に出る地方自治」~2019年大学入試センター「倫理、政治・経済」「政治・経済」地方自治問題・解答・解説(船橋市を例にした具体的解説)

●2021年大学入試共通テスト「数学IA」全問題・解答・解説(大学入試センター試験「数学IA」問題・解答・解説(一部))

2021年大学入試共通テスト「生物」全問題解答解説(+第2回試行調査・2019年・2018年センター試験問題)