2022年大学入試共通テスト「生物」(植物の環境応答・植物ホルモン)第6問、問題、解答、解説(配点19点)
【解説】
問1
一般的な被子植物のおしべのやくでの花粉、めしべの胚珠での胚のう形成から重複受精、種子の形成に至る過程をまとめてみよう。
本問題は、「一般的な被子植物の種子の形成から発芽に至る過程における現象の記述として最も適当なものを、次ののうちから一つ選べ。」問題である。
胚珠全体が、種子では種皮になる。
×胚珠の外側部分の珠皮が種皮となる。胚珠の内側の胚のう細胞が胚や胚乳になる。
受精卵は、細胞分裂を経ずに胚となる。
×上記のように体細胞分裂を繰り返し、胚柄と胚球になり、胚球が胚になる。
発芽前の種子ではまだ器官の分化はみられない。
×胚は子葉・幼芽・胚軸・幼根などの器官に分化している。幼芽は葉に幼根は根になる。胚乳や種皮も形成される。
種子は、成熟すると乾燥に対して強くなる。〇
種子は、アブシシン酸の含有量が増えると発芽しやすくなる。
×アブシシン酸は休眠を促し、発芽を抑制する植物ホルモンである。
問2
花粉管細胞と雄原細胞の形成は、低温の影響を大きく受ける。→×の時期は影響は大きくない。
花粉四分子の形成は、他の段階よりも低温の影響を受けやすい。→〇の時期の影響が他の時期より大きく最大である。
低温により、おしべが分化しなくなる。→× おしべの時期に低温にして受精しなかったのは全体の3%程度であり、ほとんどは分化できたと考えらえる。(また、受精しなかった3%の中にも受精はしなかったが分化はできているものも含まれる。)
成熟した花粉は、低温にさらされると受精の能力を失う。→×
(花粉が成熟する時期)については実験が行われていないので、「この(実験)結果から考えられる低温の影響」は不明である。生物の実験考察問題では行われていない実験については(たとえ知識で仮に正解とわかる場合でも)「実験からわかること」の設問の結果に加えてはならない。(の影響が少なく、から影響が低下し続けていることを考えると、おそらく影響は小さいと推定できる。ただ、そのこともあくまでも「推定」であり、実験をしてみないと正確な結果はわからない。)
どの発生段階であっても、低温にさらされることにより受精の効果は10%以上低下する。
×との低下の度合いは10%以下である。
問3
「この結果から導かれる考察として適当でないものを、後ののうちから一つ選べ。」という問題である。
「時期Xに、茎頂分裂組織が水面下にあれば、気温が一時的に低下しても、花粉の形成には大きな影響がない(阻害されない)」という結果である。前問で花粉四分子形成の時期の影響が大きいとわかったので、時期Xは花粉四分子形成の時期と推定できる。
時期Xに植物体の上半分だけが低温にさらされても、花粉の形成は影響を受けない。→〇茎頂分裂組織を含む下半分が水面下にあれば気温変化の影響がなく、花粉形成も影響がない。
時期Xに花粉四分子の形成が起こった。→〇前問で花粉四分子形成の時期の影響が大きいとわかったので、時期Xは花粉四分子形成の時期と推定できる。
花穂が水面下にあることにより、気温の一時的な低下から花粉の形成が保護された。→〇
花粉の成熟が遅れたままで花穂が伸びたときには、花粉の形成を低温から保護するために、水田の水深をより深くする必要がある。→〇花穂が伸びたので水深が下半分だと水面上に花穂が出てきてしまう可能性がある。水深を花穂が水面下になるようにより深くする必要がある。
時期Xに水田の水深を深くした際の気温の一時的上昇は、気温が変化しない場合と比べて、種子の割合を低下させる。→×気温の低下については実験しているが、気温上昇については実験をしていないので、この実験結果から導かれる考察としては、適当でない。(「低下させる」「上昇させる」「変化ない」のどの結果になるかは実験してみないとわからない。)
問4
実験1の最後に「(低温処理の際に)根からジベレリンを吸収させたところ、正常な花粉の割合が回復した。」とあるので、ジベレリンは花粉の形成を維持する、つまり「花粉の形成を阻害から守る」ことがわかる。
実験1の1文目で「草丈が低い矮性(わいせい)のイネでは、普通の草丈のイネに比べて、低温で処理した際には異常な花粉の割合がさらに高くなった。」とあるので、矮性イネも普通の草丈のイネも共通に低温処理で異常な花粉が増えることがわかる。
異常な花粉の割合は矮性のイネのほうが高いことから、矮性のイネのほうが、「花粉の形成を阻害から守る」働きが弱い、つまりジベレリンが少ないことがわかる。するとジベレリンが少ないことで矮性になるので、ジベレリンは草丈を高くする働きがあるとわかる。(ジベレリンが伸長成長を促すホルモンであることは問1の植物ホルモンのまとめ図にあるように知識としても知っておいてほしい。ただ、本設問は「実験1の結果から導かれる考察文」なので、あくまで実験結果から考える)
これらのことから、草丈が低い品種改良されたイネは、ジベレリンが少ないと推定でき、低温に対し「花粉の形成を阻害から守る」働きが少なく、低温に対して弱くなっている可能性がある。
まとめると
ジベレリンには、草丈をア(高く)する働きと、低温にさらされたときの花粉の形成をイ(阻害から守る)働きとがある。花粉の形成におけるジベレリンの働きから考えると、品種改良された草丈が低く倒伏しない現代のイネは、品種改良される前のイネに比べて、低温に対してウ(弱く)なっている可能性がある。
問5
「この考えが正しいかどうか調べるために追加すべき実験として、適当でないものを、後ののうちから一つ選べ。」という問題である。
凍結してしまうと、それ自身が生命活動を停止させるとともに、細胞内の水が氷になる時の体積膨張で、細胞や生物体の構造を破壊する可能性があるので、生物によって危険である。それを防ぐ生物の性質を「対凍性」ということがある。
凍結が危惧される本格的な冬になる前の秋の低温で、細胞内の糖やアミノ酸を増やし、凝固点降下により、細胞の凍結破壊を防ぐ生物の適応として有名である。ただ、その知識問題ではなく実験に関する問題である。
まず-15℃で数時間処理し、次いで2℃に移して3日後に糖やアミノ酸の量を測定する。→×2℃に下げてから、-15℃に下げる段階が重要なので、最初から-15℃に下げてしまうと生物が適応する以前に細胞が破壊されるので、その後2℃に戻して測定しても意味がない。
-15℃での処理による細胞の破壊の程度を、あらかじめ2℃での栽培をする場合としない場合とで比較する。→〇(あらかじめ2℃にしたほうが破壊の程度が低くなる結果が出ると推定される。)
2℃で3日間栽培する前後で、糖やアミノ酸の量を比較する。→〇(糖やアミノ酸の増加が確認できると推定される)
増えた糖やアミノ酸の合成に関わる酵素の遺伝子が働かなくなるようにした株が、-15℃の低温処理に対して弱くなるかどうかを調べる。→〇(アミノ酸・糖合成遺伝子が働かない株では、-15℃の低温処理に対して弱くなると推定される)
増えた糖やアミノ酸の合成に関わる酵素の遺伝子を過剰に働くようにした株が、-15℃の低温処理に対して強くなるかどうかを調べる。→〇(過剰発現により更に強くなるか調べることで、-15℃の低温処理に対する糖・アミノ酸増加の効果を確認でき、合成量と強さの関係を量的に分析できる。)