2021年、大学入試共通テスト「生物基礎」第3問B「感染症と生態系」(配点7点)問題・解答・解説
問4
全てのウシ科動物が、牛疫に対する抵抗性をもつようになった。×
→図4で1962・3年以降、ヌーは抵抗性を持っていない。
ワクチンの接種によって、牛疫に対する抵抗性がウシ科動物の子孫にも引き継がれるようになった。×
→ワクチンによる免疫記憶は、接種された個体のヘルパーT細胞・B細胞の記憶細胞によるものなので、子孫には受け継がれない。(もしワクチン効果が子孫に受け継がれるようならば、母が1回接種したはずのでワクチンを子どもに接種する母子保健関係のワクチンは必要ないはずである。)
接種したワクチンが、ウイルスを無毒化した。×
ワクチンは、その個体にウイルスに対する中和抗体を作らせ、ヒト細胞への侵入前に、ウイルスと結合して侵入させないようにする。その場合でもウイルスを物理的に破壊するわけではなく、ウイルスの形状はそのままで侵入を防いでいるだけである。したがって、それでもそれをすり抜けてヒト細胞に侵入したウイルスがあった場合には感染が成立する。「無毒化」が何を意味するかにもよるが、体内に侵入したウイルスを物理的に破壊するということではないので「無毒化」とは言えない。
ワクチンの接種によって、牛疫に対する抵抗性をもつ家畜ウシが増えたため、ウイルスの継続的な感染や増殖ができなくなった。が正解。
図4をもう少し深めてみよう。図4に関して以下のような疑問をもつ人がいたら、あなたはどのように答えますか?(あるいはあなた自身がそのような疑問を持ちませんか?)
このセレンゲティとその周辺とウイルス・抵抗性の変化を考えてみると以下のようになります。
周辺に家畜ウシが飼われるようになると以下のようになります。
まず、ウシでもヌーでも牛疫によって大量死がおきます。生き残った場合は、ウイルスに曝露された上で、自らの免疫で抵抗性を獲得したもの(図の青)と、たまたま曝露されず(曝露量が少なく)抵抗性はなくても生き残ったものです。そして、グラフの青線(抵抗性を持つヌーの割合)は「生き残った」中での数値であることに注意してください。大量死があった上で、生き残ったものはその8割が抵抗性を獲得しているわけです。(なおウシの抵抗性のデータはありませんがヌーとほぼ同程度と仮定した図を描いています)。
最後にウシに対するワクチンが徹底された以降を考えると以下のようになります。
ウシでの集団免疫のため、ウイルスが増殖しないため、結果としてヌーにも移行せず、ヌーは感染にさらされなくなっています。よって実は抵抗性もなくなっているのですが、ウイルスが存在しないため個体数も多いまま維持できているわけです。
その図を通じて最初に示した疑問に答えられるのではないでしょうか。
問4
だからこそ、もしなんらかの理由でヌーに牛疫ウイルスが再び広がったら、たちまち、大量死が起こることが危惧されるわけです。(ヒト社会にも同様なことがあります。過去に克服・根絶したはずの感染症に関して、現代のヒトは誰も曝露されずに、誰も抵抗性を持っていません。したがってなんらかの理由でその感染症が同様なことが危惧されるわけです。)
ヌーが大量死するとヌーの個体数は減ります(a×)。そして、餌となるはずの草本が食べられずに残ります(b×)。そして野火の発生が起こりやすくなり(c〇)、樹木を焼失させ森林面積を減少させる(d〇)ことが危惧されます。よって
★2021年「生物基礎」では、もう1題感染症に関する問題が出題されています。あわせてご覧ください。