2021年大学入試共通テスト「生物」(第2日程)第1問A「抗体の構造・同義置換と非同義置換」(配点13点)問題・解答・解説

目次

【解説】

問1

タンパク質の立体構造は以下のようにして形づくられる。


まず、アミノ酸どうしがペプチド結合して鎖状となる。これを一次構造という。
次にアミノ酸の鎖(一次構造、ペプチド鎖ともいう)の少し離れたアミノ酸どうしが水素結合で引きあい、らせん構造(α-helix)やジグザク構造(β-sheet)を作る。これを二次構造という。

そしてそれが、少し離れた場所どうしの、水素結合、イオン結合、疎水結合、SS結合などで更に折りたたまれてできたものが三次構造である。

× ペプチド結合した多数のアミノ酸を並び方をタンパク質の二次構造(→一次構造)という。

× タンパク質の部分的な立体構造であるαヘリックスやβシートは、S―S結合(ジスルフィド結合)(→水素結合)によってつくられる。


筋肉で酸素と結合して貯蔵する働きをするミオグロビンなど、三次構造のままで働くタンパク質もある。
しかし、三次構造がいくつか集まった塊となって働くヘモグロビン(赤血球中で酸素と結合し、酸素を運搬するタンパク質)のようなタンパク質もある。この場合、四次構造という。
四次構造を構成する三次構造1つ1つをサブユニット(subunit)ともいう。

× タンパク質の三次構造(→四次構造)は、複数のポリペプチドが立体的に組み合わさることでつくられる。

タンパク質の立体構造は、酵素が特定の物質だけに作用する基質特異性を決める。正解

 

これらで形づくられた立体構造が、酵素が特定の基質とのみ「鍵と鍵穴」のように結合して反応する基質特異性につながる。

なお、SS結合は、三次構造を形づくる結合の一種である。

問2

以下がmRNAの3塩基がどどのアミノ酸を指定するかの遺伝暗号表である。4×4×4=64種類の暗号で、3つの終止コドンと20種類のアミノ酸を指定するので、別の暗号でも同じアミノ酸を指定することもある。


CUGでロイシンを指定するコドンを考えてみよう。
CUG→CUA,CUC、CUU

と塩基が置き換わっても、ロイシンを指定することは変わらない。このように指定するアミノ酸が変わらない塩基の置換を同義置換という。

一方、
CUG→CGG
の置換の場合、ロイシンでなくアルギニンを指定することになる。このように指定するアミノ酸が変わる塩基の置換を非同義置換という。

(表を見ていただくと、3塩基目の置換は同義置換となることが多く、1・2塩基目の置換は非同義置換となることが多いことがわかる。
ただ3塩基目でもGAU(アスパラギン酸)→GAA(グルタミン酸)のように非同義置換になることもある。

ちなみに、この解説を作成しているのは、東京オリンピックの最中であるが、この最中に首都圏で広がりつつあるδ(デルタ)株はL452R変異という変異を持つ。これは、ウイルスの突起タンパク質(Sタンパク質)の452番目のアミノ酸がL(ロイシン)からR(アルギニン)に変異したことを示し、実はこの例で出した「CUG→CGG」変異による非同義置換である。(ウイルス遺伝子RNA全体では22916~22918番目塩基のコドンを示し、その真ん中の22917番目のUGへの塩基置換である。)

同義置換はタンパク質の機能に影響しないため、多くは進化的に中立である。
非同義置換には、タンパク質の機能に影響しない進化的に中立なものもある。
 →多くのタンパク質は300~500程度のアミノ酸配列でできており、1つの非同義置換で1つのアミノ酸が変化した場合、2通りの影響がありうる。
それが酵素の活性中心や立体構造全体によって重要な部位の変化だった場合、タンパク質の立体構造が変化して機能が変化するなどで、自然選択につながる変異になることがある。
しかし、あまり機能や構造に重要でない部位の変化の場合、生存に有利にも不利にもならず、進化的に中立となるものもある。
生存や繁殖に有利な表現型を生む非同義置換は、自然選択によって集団に広がりやすい。
生存や繁殖に不利な表現型を生む非同義置換には、自然選択が働かない。×
→自然選択が働き、集団内でその遺伝子を持つ個体の頻度が減少したり、なくなったりする。
誤りを選ぶ問題なので、

問3

抗体の可変部は、2つの鎖があって初めて抗原としっかりと結合できる。片方だけでも少しは結合することもありうるが、本設問が指定するように「分離前の抗体と同じように結合する」ことにはならない。したがって可変部の2つの鎖を分断してしまうeやfを含む切断では設問の条件を満たさない。すると選択肢の中で、e・fを含まない切断は、gのみでの切断か、hのみでの切断である。図を描いてみる。


両切断とも「三つの断片」を作るが、設問が指定する「二つの断片は互いに全く同一である。この二つの断片は構造が安定していて、分離前の抗体と同じように抗原とよく結合する」に結合するのは、g切断、つまりである。

なお左図に示したように、中央に位置する2つの鎖は長く重いので重鎖(heavy chain)でH鎖といわれ、両側に位置する2つの鎖は短く軽いので、軽鎖(light chian)でL鎖と呼ばれる。抗原との結合にはH鎖・L鎖両方の可変部(先端部)が必要である。

問4

定常部におけるアミノ酸配列の変化は進化的に中立である。×

→本実験データは、可変部の2つの領域の比較のデータであり、定常部については調べていない。生物の実験考察の問題は、「(実験)結果から導かれる考察」を問う問題なので、実験で扱っていない部分の考察は不適切である。

可変部では、領域の違いにもかかわらず、アミノ酸配列の変化の割合は同じである。×

 

→Xのほうが明らかに非同義置換の割合(縦軸方向の数値)が大きく、アミノ酸の変化の割合は大きい。
可変部の抗原と結合しない領域Yにおけるアミノ酸配列の変化は、進化的に中立である。×
Yはそもそも同義置換が多い。「Yにおけるアミノ酸配列の変化」とは「非同義置換」(縦軸方法の数値)のことを示す。それがもし進化的に中立、つまり生存に有利でも不利でもないとすれば、Xと同様にもっと非同義置換がおきてもよいはずである。しかし、あまり起きていないということは、大きな変化になると生存に不利になることを示している。つまり進化的に中立ではない。可変部の根元の部分は可変部の土台であり、先端部の抗原の結合のしやすさにも影響を及ぼすので変化が不利になる可能性がある。
抗原と結合する領域Xでは、進化的に中立であると仮定した場合と比べ、アミノ酸配列に多くの変化がみられる。正解。

 非同義置換はアミノ酸の変化であり、通常は生存に不利であることが多い。しかし、明らかに高い比率で非同義置換を持っており、逆に非同義置換が少ないものは存在しない(生き残っていない)。進化的に中立ならば、非同義置換が少ないものも生き残るはずである。よって中立的であると仮定した場合よりも多くの変化がみられる。つまり、アミノ酸を変えることで、より多様な抗原に対抗する抗体を作ったほうが、生存に有利である可能性があると考えられる。

<参考>

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受験対策「生物」参考

●がんばれ受験生!2019年・2018年大学入試センター試験「生物」第1~7問問題・解答・解説
●受験生物対策サイト(過去10年余の情報発信サイト・新情報は発信していませんが、発信済情報はそのまま閲覧いただけます)

 

数学(共通テストIA・センター試験IA(一部))

●大学入試共通テスト「数学IA」問題解答・解説+大学入試センター試験「数学IA」問題・解答・解説(一部)

新型コロナウイルスの生物学的解説関係・自治体(船橋市)の対策への質疑(7月28日加筆)
●2021年7月9日、朝倉幹晴の船橋市議会質疑「変異株」部分の動画(15分)&文字での記録(概要)

 

●動画「イギリス・南アフリカで発生したウイルス変異型の基礎知識」(37分)(2021年1月10日20時時点)
●動画「ウイルス・遺伝子・免疫・ワクチン・対抗薬の基礎知識」(57分)(2020年12月24日)
ファイザーmRNAワクチンの暗号(1273アミノ酸配列・4284塩基)
●2021年2月24日、船橋市議会での朝倉幹晴質疑録画中継(47分)(ワクチン・変異株対策・パルスオキシメーター ・心のケア他)