2021年大学入試共通テスト「生物基礎」(第2日程)第2問B「心臓」(配点7点)問題・解答・解説
【解説】
問4
心臓と血液循環を整理すると以下のようになる。
左心室・右心室は、拍動し、その収縮期に全身や肺に血液を送り出します。心室の1回の拍動(収縮)での血液の拍出量を1回拍出量(SV、stroke volume)といい、個人差ありますが、40~100mLです。血液循環は全体が1つの循環でつながっているので、左心室の拍出量と右心室の拍出量は同じです。これに1分あたりの心臓の拍動数(心拍数)(個人差あり60~90回)をかけると、1分あたりの心臓から送り出される血液量がわかります。
標準値として、1回拍出量70mL、心拍数70回/分とおさえておくと便利です。
すると心臓が全身・肺(左心室の場合は全身、右心室の場合は肺)に送り出す1分あたりの血液量は
さて、血液循環の順序のおさえ方ですが、図の下に書いたような順序でおさえるとよいと思います。図の下を試験場で、正確に再現するには、以下4原則を踏まえれば再現できます。
2、心室から送り出され、心房で受け入れる。
3、左から出たものは右に戻り、右から出たものは左に戻る。
4、心房は直下の心室に血液を送る。
また、高校生物では重視しないが、心疾患では、心臓の筋肉自身に血液を送り出す冠循環が動脈硬化や血栓などでの血流不足や閉鎖することによる問題が多い。大動脈の根元で分流し、心臓の筋肉に分布し、上大静脈に合流する冠循環があることも、健康知識として知っておきたい。
大循環(体循環)では動脈に動脈血、静脈に静脈血が流れるが、小循環(肺循環)では、肺に血液を送り出す肺動脈に静脈血、肺から心臓に血液を戻す肺静脈に動脈血が流れる(血管の名称と血液の名称が逆)であることに注意しよう。
問5
文系の高校生も学び受験する科目が「生物基礎」、理系の生物・医療系に進む高校生が学び受験する科目が「生物」である。「生物基礎」は、国民全般が持っていたほうがよい人体の基礎知識が説明されるが、大学入試共通テストでは、その素材として、医学部・薬学部・看護学部などで学ぶ生理学の図がよく用いられる。ただ、その深い理解がなくても解けるような出題となっているとはいえ、図の背景まで理解しておいたほうがよりよい。
これから、本設問に出題された図ともう1つ図を説明するが、説明の都合上、肺静脈・左心房・左心室・大動脈を以下のように縦一直線に並び、血液は上→下に一直線、そして房室弁と大動脈弁は左心室の上下に位置するイメージで説明したほうが説明しやすいので、以下のイメージ図を前提に説明をする(実際の弁・血管の位置関係は異なる)。
本設問の図は圧の変化を時系列で示したものであるが、同分野でよく聞かれる有名な図「左心室の心室圧ー容積曲線」と連動して理解したほうがいいのでまず、それを説明する。
左心室において、心拍のサイクル(1分間70回、つまり1秒約1回)で繰り返されるので、どこを出発にしてもよいが、房室弁閉鎖を出発点にしよう。
房室弁閉鎖。左心房からの血液受け入れが止まり、容積(横軸の数値)は変化しにくくなる。弁の閉鎖の時の音が心音()となる。
等容性収縮期。左心室は同じ容積のままで収縮する方向に筋肉が収縮するので内圧(縦軸の数値)は大きくなる。
大動脈弁開放。左心室の内圧が高まり、大動脈圧を上回ると大動脈弁が開く。(大動脈への拍出が可能となる)
心室拍出期。大動脈弁が開いているので、血液が大動脈側に拍出され、拍出した量に伴い、左心室の容積(横軸の数値)は小さくなる。
大動脈弁閉鎖。左心室がある程度拍出すると、今度は出した側の大動脈圧が左心室内圧より高くなり、大動脈弁は閉じ拍出が終わる。この時の音が心音()となる。
等容性弛緩期。左心室は拍出を終えた同じ容積のまま、筋肉が弛緩し、内圧が低下していく。
房室弁開放。左心室内圧が減少していくと、左心房圧のほうが高くなり、房室弁が開く。(心房→心室への血液移動が可能となる)
心室充満期。左心房から左心室に血液が移動し、左心室が充満して容積が増えていく。
(ある程度まで容積が増えると、出した側の左心房の内圧より、受け入れた側の左心室の内圧が高くなり房室弁が閉じる。以下繰り返し)
この図に左心室の内圧の変化を色の濃淡、容積の変化を長方形の面積の変化でイメージ化して加筆したのが次の図である。
図の上側は内圧が高く、下側は内圧が低い(色の濃淡)。また図の左側は容積が小さく右側は大きい(長方形の面積の変化)。4つの時期で容積変化と圧変化を交互に繰り返し、その転換点で弁の開閉がある。
等容性収縮期と等容性弛緩期の→は容積変化には影響を与えないが、筋肉の収縮・弛緩の方向性イメージだと考えてほしい。
緑の文字は各時期のイメージを、擬音語で表現するように、私が考えたもので、イメージの補強に使ってほしい。
トン(房室弁閉鎖)→ぎゅー(等容性収縮)→ブシュ―(心室拍出期、圧が高いまま液を押し出すイメージ)→トン(大動脈弁閉鎖)→ふー(等容性弛緩、ゆるむイメージ)→スー(吸う)(心室充満期、静かに吸い込むイメージ)
(なお、私は船橋市民で、ふなっしーのファンなので「ぶしゃー」としようかとも思ったが、それだと飛び散るイメージなので、一方向に押し出すイメージの「ぶしゅー」にした。梨汁ならブシャーと飛びちってもよいが、血液は飛び散ってはまずい。)
次に本設問の出題図に少し加筆した図を示す。横軸は問題文の図では0.8秒程度になっているが、1秒と考えておいても差し支えない。(本問題を解く際にはその違いは問題にならない)
今度は図の曲線で示された圧力の大小を中心に確認しよう。
房室弁閉鎖。心房圧よりも心室圧が大きくなり房室弁閉鎖。左心房からの血液受け入れが止まる。弁の閉鎖の時の音が心音()となる。トン
大動脈弁開放。左心室の内圧が高まり、大動脈圧を上回ると大動脈弁が開く。(大動脈への拍出が可能となる)
心室拍出期。大動脈弁が開いているので、血液が大動脈側に拍出される。大動脈圧と左心室内圧は拮抗し続け弁は閉じない。ブシュ―。
大動脈弁閉鎖。左心室がある程度拍出すると、今度は出した側の大動脈圧が左心室内圧より明らかに高くなり、大動脈弁は閉じ拍出が終わる。この時の音が心音()となる。トン。
等容性弛緩期。左心室は拍出を終えた同じ容積のまま、筋肉が弛緩し、内圧が低下していく。ふー。
房室弁開放。左心室内圧が減少していくと、左心房圧のほうが高くなり、房室弁が開く。(心房→心室への血液移動が可能となる)
心室充満期。左心房から左心室に血液が移動し、左心室が充満して容積が増えていく。スー(吸う)。
(ある程度まで容積が増えると、出した側の左心房の内圧より、受け入れた側の左心室の内圧が高くなり房室弁が閉じる。トン。以下繰り返し)
図の左端は、次の新周期の右端と重なっていて、同じ「心室充満期」であり、房室弁があき、心房→心室への血液の流れがおきている。
よって、房室弁(弁A)が開いている時期は、右端の、と左端の。
なお高校生物の範囲内ではないが、心電図も。この心周期の流れと対応して位置づけられる。