入試に出る地方自治4~2022年共通テスト「倫理、政治・経済」第5問(配点19点)問題・解答・解説~
解説
前提 日本国憲法と地方自治法での地方自治の位置づけの理解
「倫理、政治・経済」ならびに「現代社会」で増加している地方自治を考えるためには、日本国憲法第八章における地方自治の位置づけをまず確認しよう。なお共通テストでは司法試験などと異なり、条文番号や一字一句までの正確な表現をおさえる必要はなく内容が理解できていればよい。(青字強調は朝倉による)
日本国憲法
第八章 地方自治第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
地方自治法
第一編 総則第一条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。第一条の三 地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。
普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする。
特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体の組合及び財産区とする。
上記のように、市区町村・都道府県は、地方公共団体が法律上の正確な名称となる。では、地方自治体(略「自治体」)という別名は、正式な法律用語ではないが、「地方自治」を担う基礎的な「団体」であり、地方自治法で運営が位置づけられていることがわかりやすい通称である。自治(自ら治める(おさめる))ということに誇りを持っている地方自治体の首長や議員、そして住民運動などの関係者は「地方自治体」という言葉を好む傾向がある。私も
(地方)自治体という言葉のほうを使う。英語ではlocal governmentや local municipalityなどという。前者 local governmentは直訳すると「地方政府」であり、国と対等・平等なニュアンスが強い。後者local municipalityは、接頭辞muniーはラテン語munus(義務・労役)を意味するので、より納税などの義務面を意識したニュアンスが出ていると言われる。(因みに免疫immunityもmuniを含む。muniをim-(否定)する→義務・労役から免れる→病気から免れる、という語源である)
また漢字が1つ少ないから使いやすいという事情もあるような気がする。国との併記の際は「国と地方公共団体」とは言わず「国と自治体」ということ多い。
市町村・都道府県が開設する病院も「地方公共団体病院」とは言わず「自治体病院」と呼ぶのが通称であり、協議会名もそうなっている。
●全国自治体病院協議会HP
<地方分権改革>
上記、地方自治法第一条に「国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」にあるように、権限を地方自治体(地方公共団体)に移行する改革(地方分権改革)を進めて、今も進めている。
●内閣府HP「地方分権改革」
とくに1999年7月に国会で成立、2000年に施行された「地方分権一括法」での以下の改革は地方分権を大きく進めた。
国と自治体の関係を対等とし、本来国がすべきだが自治体に任せていた機関委任事務を廃止し、自治体が自主的に行う自治事務と自治体が国から引き受ける法定受託事務を創設
自治体が条例で独自に導入できる法定外目的税(税収を特定目的に使用)を創設(既存の法定外普通税(税収使途を限定せず)の導入も国の許可制から事前協議制に変更)
この地方分権一括法(1999年)まで行われた改革を第一次地方分権改革、それ以降行われた改革を第二次地方分権改革という。
(千葉市・さいたま市・横浜市のような政令指定都市と一般市の間に、人口規模の比較的大きい市が、中核市に認定され、保健所設置などのより強い自治権を持つようにした改革は第一次改革(1996年)である。たとえば、船橋市は、2003年に中核市となり、市独自の保健所を持ったことで、新型コロナウイルス対策(特に変異株検査など)を進めることができた。)
●参考 船橋市保健所の経過など 2021年12月2日、日本分子生物学会フォーラム、朝倉幹晴発表要旨、発表資料&関連リンク先一覧
問1 地方自治とは?
問題文に加筆しながら解説します。
地方自治の本旨は、団体自治と住民自治の原理で構成される。団体自治は、国から自立した団体(地方公共団体・地方自治体)が設立され、そこに十分な自治権が保障されなければならないとするア(分権)的要請を意味するものである。住民自治は、地域社会の政治が住民の意思に基づいて行われなければならないとするイ(民主主義)的要請を意味するものである。これは、地方自治体がその運営や施策にあたっては、説明会やパブリックコメント(ある制度の施行決定前などにに関して、事前にある期間内に自治体が住民から意見を公募し、それを踏まえた上で決定を行うことを保障する制度)の実施が求められること、また地方自治体の首長や議員を選挙で選ぶことや直接請求権などを含む。
国から地方公共団体への権限や財源の移譲、そして国の地方公共団体に対する関与を法律で限定することなどは、直接的にはウ(団体自治)の強化を意味するものということができる。団体自治の団体とは地方公共団体(地方自治体)のことを意味し、国に対する権限の強化が進められている。住民自治は住民が自治体の政策に参加・発言できるというの関係性で、団体自治は自治体の国に対する自治権を意味する。よって(3点)
問2
ア 津地鎮祭訴訟の最高裁判決では、市が体育館の起工に際して神社神道固有の祭式ののっとり地鎮祭を行ったことは、憲法が禁止する宗教的活動にあたるとされた。
イ 愛媛玉ぐし料訴訟の最高裁判決では、県が神社に対して公金から玉ぐし料を支出したことは、憲法が禁止する公金の支出にあたるとされた。
ウ 空知太(そらちぶと)神社訴訟の最高裁判決では、市が神社に市有地を無償で使用させていたことは、憲法が禁止する宗教団体に対する特権の付与にあたるとされた。
日本国憲法には宗教に関して以下の条項がある。(青字は朝倉による)
第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、
又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
20条でわかりやすいのは、日本には愛光学園、雙葉中高、白百合学園、聖心女子学院などにカトリック系の中学校があるが、すべて私立であり、公立ではない。
憲法は20条第1項で個人の信教の自由を保障する一方、20条 では他者に強制することを否定し、で国として宗教活動の関与を否定し、更に89条で公金の支出などを否定していることである。
国が特定宗教の活動への関与することを否定する原則を政教分離の原則という。
ただ、伝統、慣例行事などの中に、特に神社(神道)が関与するものが多いこともあって、「政教分離の原則」を越える範囲について、裁判などで争われてきた。
これまでの判例で示されてきた基準は「目的効果基準」といわれる。
・この行為の目的が宗教的意義を持つ
・その行為の効果がその宗教に対する援助、助長や圧迫、干渉になる
場合には政教分離に反すると判断し、そうでない場合は許容されるという基準です。
ア、津地鎮祭訴訟の最高裁判決では、市が体育館の起工に際して神社神道固有の祭式にのっとり地鎮祭を行ったことは、憲法が禁止する宗教的活動にあたるとされた。×(→されなかった)
起工の目的は世俗的なもので、神道を助長し、他の宗教を圧迫するとはならないので違憲ではない(合憲である)との判断がなされた。
イ 愛媛玉ぐし料訴訟の最高裁判決では、県が神社に対して公金から玉ぐし料を支出したことは、憲法が禁止する公金の支出にあたるとされた。〇
「県が特定の宗教団体の挙行する重要な宗教上の祭祀にかかわり合いを持ったということが明らかである。そして、一般に、神社自体がその境内において挙行する恒例の重要な祭祀に際して右のような玉串料等を奉納することは、建築主が主催して建築現場において土地の平安堅固、工事の無事安全等を祈願するために行う儀式である起工式の場合とは異なり(=地鎮祭の場合と異なり)、時代の推移によって既にその宗教的意義が希薄化し、慣習化した社会的儀礼にすぎないものになっているとまでは到底いうことができず、一般人が本件の玉串料等の奉納を社会的儀礼の一つにすぎないと評価しているとは考え難いところである。そうであれば、玉串料等の奉納者においても、それが宗教的意義を有するものであるという意識を大なり小なり持たざるを得ないのであり、このことは、本件においても同様というべきである。」(判決文一部)
ウ 空知太(そらちぶと)神社訴訟の最高裁判決では、市が神社に市有地を無償で使用させていたことは、憲法が禁止する宗教団体に対する特権の付与にあたるとされた。〇
砂川市が市有地を空地太神社の敷地として無償で使用させていることは,憲法89条に違反し,さらに憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権付与にも該当すると判断した。
よって(3点)
問3
農業と工業の生産性の格差を縮小するため、米作から畜産や果樹などへの農業生産の選択的拡大がめざされることになった。
国民生活の安定向上のため、食料の安定供給の確保や農業の多面的機能の発揮がめざされることになった。
地主制の復活を防止するため、農地の所有、賃貸、販売に対して厳しい規制が設けられた。
農地の有効利用を促進するため、一般法人による農地の賃貸借に対する規制が緩和された。
日本の敗戦後、日本を統治したGHQが主導し、日本政府が実施した農地改革は、大土地所有の地主と不在地主から強制的に安値で土地を買い上げ、実際に耕作していた小作人に売り渡し、地主制解体と農民の自立を促した。それを安定化させる施策が1952年の農地法制定なので、アは(地主制の復活を防止するため、農地の所有、賃貸、販売に対して厳しい規制が設けられた。)である。
1960年から始まる高度経済成長による工業の生産性の向上と格差が広がることなく、農業者も生産性が増していくような基本法が制定された。米作中心から果樹・畜産など、需要拡大が見込まれる農産物を「選択」して栽培することが推奨された。よってウは である。(3点)
1900年代より、消費者の安全意識、生態系の保全、農村地域のリクレーション機能などの側面を加味し、協議の「農業」に留まらない法律として、1999年「食料・漁業・農村基本法」が制定された。
国民生活の安定向上のため、食料の安定供給の確保や農業の多面的機能の発揮がめざされることになった。
●参考 北川太一「食料・農業・農村基本法」の理念は実現されたか?
農業者人口の現象、過疎化などの対策の一環として、従来の農業者だけでなく一般法人の農業に参入させやすくする農地法改正が2009年に実施された。よってエはである。
問4
ホテル・旅館など宿泊施設の運営や基準は1948年に成立した旅館業法で規定されています。
一方、急増する外国人観光客(とくにコロナ前は多くの外国人観光客を見込んでいた東京オリンピックの観光客)に対応するためもあって、民泊を規定した住宅宿泊事業法が2017年に成立、2018年の施行されました。民泊とは戸建住宅・マンション・アパートの全部あるいは一部を活用し、旅行者に宿泊を提供することです。
これに関して、設問のような議論がなされたわけです。
X:住宅宿泊事業法が制定されて、住宅を宿泊事業に用いる民泊が解禁されたと聞いたけど、うちのJ市も空き家を活用した民泊を推進しているらしいね。でも、同じく宿泊施設であるホテルや旅館の経営者の一部からは、経営への悪影響を懸念して、規制をすべきという声も出ているらしいよ。
Y:ア(規制緩和)を支持する考えからすれば、民泊がたくさんできると、利用者の選択肢が増え利便性が上がるだろうし、将来的には観光客の増加と地域経済の活性化につながって、いいことなんだけどね。
X:問題もあるんだよ。たとえば、閑静な住宅街やマンションの中に民泊ができたら、夜間の騒音とか、周辺住民とトラブルが生じることがあるよね。彼らの生活環境を守るための対策が必要じゃないかな。
Y:民泊の営業中に実際に周囲に迷惑をかけているなら個別に対処しなければならないね。でも、自身の所有する住宅で民泊を営むこと自体は財産権や営業の自由にもかかわることだし、利用者の選択肢を狭めてはいけないね。だから、住宅所有者が民泊事業に新たに参入することを制限するのはだめだよ。その意味で、イ(住宅街において民泊事業を始めることを地方議会が条例で禁止する)ことには反対だよ。
よって答は。(4点)
ちなみに、このような問題は具体的に皆さんが住む地域でも起きていることなので、それに気が付くと学習が身近に感じられます。民泊施設の管轄は都道府県であり、都道府県のHPには民泊施設の全住所が記載されています。
●千葉県HP 民泊について(住宅宿泊事業法)
住宅事業法成立に伴って、各マンションの管理組合は民泊の取り扱いの管理組合総会で議決することになりました。多くのマンションが住民の生活の静穏を守るという理由で民泊禁止決議をしました(私のいるマンションも)。一方で民泊を認定した集合住宅もあり、認定は部屋ごとであるたため、認定された部屋にはその掲示がなされます。以下は船橋市内での民泊禁止のマンション(管理室前の掲示)、「住宅宿泊事業(民泊)」と掲示された民泊認定の部屋の写真です。
問5
法の分類をまとめよう。
X:調べてみたら民泊を営むにも利用するにもいろんな法律がかかわるんだね。
Y:そうだね。まず民泊の解禁を定めた住宅宿泊事業法があるけど、ほかにも、利用料金を支払って民泊を利用する契約にはア(民法)が適用されるね。ちなみに、私人間の関係を規制するア(民法)は、公法か私法かという分類からすればイ(私法)に該当するね。
X:また、民泊を営業する人は事業者だから、不当な勧誘による契約の取り消しを可能にしたり、消費者に一方的に不利な条項の無効を定めたりするウ(消費者契約法)も関連するよ。
Y:一つの事項についてもさまざまな法律が重層的にかかわることが確認できたね。
よって、(3点)。
独占禁止法は、消費者契約法と一緒の社会法に分類されるが、私的独占やカルテル・入札談合などの不当な取引制限、不公正な取引方法を禁止し、公正かつ自由な競争を促進するために企業(事業者)を規制する法律で、消費者に関する法律ではない。
問6
国会議員が予算を伴わない法律案を発議するには、衆議院では議員20人以上、参議院では議員10人以上の賛成を要する。〇
(地方議会の場合は定員の1/12以上の賛成で条例の発議ができます。船橋市議会の場合は50人定員なので5人以上の賛成となります。)
法律案が提出されると、原則として、関係する委員会に付託され委員会の審議を経てから本会議で審議されることになる。〇
(ちなみに船橋市議会の場合、市長からの議案はまず本会議で審議したのち、委員会に付託し審議し、再び本会議に報告して議決する流れとなっています)
参議院が衆議院の可決した法律案を受け取った後、60日以内に議決をしないときは、衆議院の議決が国会の議決となる。×
60日以内に議決しない場合は、参議院は法律案を否決したとみなされ、その後、衆議院で出席議員の2/3以上の再可決で成立する。
日本国憲法第59条
法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
国会で可決された法律には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。〇
参考 関連の過去出題の解答解説です。
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