入試に出る地方自治5~2022年大学入試共通テスト「倫理、政治・経済」第7問(配点12点)問題・解答・解説

解説

 

 

目次

問1

正確な年号までは問われないがたいたいの戦後史の流れは知っておいた方がよい。
C 地方自治の本旨に基づき地方自治体の組織や運営に関する事項を定めるために地方自治法が制定され、住民が知事を選挙で直接選出できることが定められた。(1947年)
GHQが主導して、日本政府が行った第二次世界大戦直後の改革の一つ。

B 公害が深刻化し住民運動が活発になったことなどを背景として、東京都をはじめとした都市部を中心に日本社会党や日本共産党などの支援を受けた候補者が首長に当選し、革新自治体が誕生した。
朝鮮戦争(1950~1953年)後、日本経済は復興していく。1960年自由民主党の池田隼人内閣は「所得倍増計画」を打ち出す。1960年頃~1973年頃を高度経済成長期と呼ぶ。工業が発展する一方、排ガス・排水による「公害」が発生し、被害者と支援者による公害反対運動が活発化し,1972年には公害対策基本法が成立する。。国会では自由民主党が多数で内閣を維持する状況が続く中、都市部では公害反対運動や住民運動の世論も受けて、自由民主党に対抗する日本社会党(当時)、日本共産党が支援する首長が誕生する。これを革新自治体といい、主に1960~1970年代の出来事である。

参考 美濃部都知事(革新都政)誕生)(1967年NHKニュース)

A 地方分権改革が進む中で行財政の効率化などを図るために市町村合併が推進され、市町村の数が減少し、初めて1,700台になった。
地方分権改革一括法成立の1999年(平成11年)から2010(平成22年)で、国が推奨した市町村合併が行われた。1999年4月に3229市町村あったものが2010年3月には1727市町村に減ったこれを平成の大合併という。
検証 平成の大合併①合併するかしないか 地域の決断と今(12分)(岡山県・香川県)(2014年時点取材)

D 大都市地域特別区設置法に基づいて、政令指定都市である大阪市を廃止して新たに特別区を設置することの賛否を問う住民投票が複数回実施された。
2015年と2020年の2回行われ、両投票ともに反対多数で否決された。

これは私は両方、大阪市に見に行きましたので、その様子です。

<2015年5月17日投票の1週間前5月10日>

賛成意見の集会

反対意見の集会

<2020年11月1日投票>

投票用紙

テレビでの結果報道

参考記事1 大阪と構想が2度も否決されたたった一つの理由(プレジデント)
参考記事2 大阪都構想2度の否決の謎の解明に向けて

(都構想を進めようとした日本維新の会に関連しては、2022年に高校教育における三角関数の削減を求める発言をする議員がいたので、数学教育への悪影響を危惧し、以下のような申し入れを行いました(本記事執筆の6月28日時点回答がありません)。

●参考5月18日、日本維新の会、藤巻衆議院議員に三角関数削減発言の撤回、説明、公開討論要望書提出(朝倉幹晴)
●2022年6月6日「高校教育における三角関数削減発言」に関する朝日新聞記事

3番目はAで答(3点)

 

問2

X:この時の地方分権改革で、国と地方自治体の関係をア(対等・平等)の関係としたんだね。
Y:ア(対等・平等)の関係にするため、機関委任事務制度の廃止が行われたんだよね。たとえば、都市計画の決定は、イ(自治事務)となれたんだよね。
X:ア(自治事務)の関係だとして、地方自治体に対する国の関与をめぐって、国と地方自治体の考え方が対立することはないのかな。
Y:実際あるんだよ。新聞で読んだけど、地方自治体上の国の関与について不服があるとき、地方自治体はウ(国地方係争処理委員会)に審査の申出ができるよ。申出があったらウ(国地方係争処理委員会)が審査し、国の機関に勧告することもあるんだって。ふるさと納税制度をめぐる対立でも利用されたよ。

よって(3点)

<地方分権改革>

地方自治法第一条に「国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」にあるように、権限を地方自治体(地方公共団体)に移行する改革(地方分権改革)を進めて、今も進めている。
●内閣府HP「地方分権改革」

とくに1999年7月に国会で成立、2000年に施行された「地方分権一括法」での以下の改革は地方分権を大きく進めた。
1、国と自治体の関係を対等とし、本来国がすべきだが自治体に任せていた機関委任事務を廃止し、自治体が自主的に行う自治事務と自治体が国から引き受ける法定受託事務を創設
2、自治体が条例で独自に導入できる法定外目的税(税収を特定目的に使用)を創設
(既存の法定外普通税(税収使途を限定せず)の導入も国の許可制から事前協議制に変更)

この地方分権一括法(1999年)まで行われた改革を第一次地方分権改革、それ以降行われた改革を第二次地方分権改革という。
(千葉市・さいたま市・横浜市のような政令指定都市と一般市の間に、人口規模の比較的大きい市が、中核市に認定され、保健所設置などのより強い自治権を持つようにした改革は第一次改革(1996年)である。たとえば、船橋市は、2003年に中核市となり、市独自の保健所を持ったことで、新型コロナウイルス対策(特に変異株検査など)を進めることができた。)


<法定受託事務と自治事務>
法廷受託事務 国(あるいは県)が本来は行うべきものを市区町村が行うもの。全国統一の国の基準に準拠して実施される。
国政選挙、旅券の交付、生活保護、児童扶養手当、国道の管理、戸籍事務、国勢調査、(犬への)狂犬病ワクチン接種など
自治事務 法定受託事務以外の事務。つまり、市区町村が行う事務のうち、市区町村自身の判断で実施の有無・内容が決められる事務
都市計画決定、病院・薬局の開設許可、飲食店営業の許可、小中学校建設、住民基本台帳の事務 介護保険の介護給付など

<新型コロナウイルス感染症対策・予防接種に関して>

法定受託事務 新型コロナウイルス感染症対応、新型コロナワクチンも含む臨時予防接種
自治事務   定期予防接種、定額給付金(2020年に行われた全国民一律10万円給付)

新型コロナウイルス感染症対応は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」で行われ、そのワクチン接種も含め法定受託事務です。一方、予防接種法で定められて内容の自由度はあまりないのですが、一般の定期予防接種は自治事務とされています(法廷受託事務にすべきという議論はある)。2020年に行われた全国民一律10万円給付の定額給付金は、(出し方についての様々な議論があった経緯から)自治事務とされました。

<自治事務である都市計画決定>
●船橋市の自治事務である都市計画
審議会での議論の例
第141回船橋市都市計画審議会(2021年9月15日)会議録
都市計画決定に関する市議会での議論の例
●東葉高速線新駅(2026年度開業予定、海老川との交差地点、駅名未定)と船橋市内各駅までの料金(&海老川上流地区街づくり予算への朝倉の質疑と議決態度)

<国地方紛争処理委員会>

国地方紛争処理委員会
本文の「ふるさと納税」に関する申立てとそれに対する審査に基づく勧告
2019年6月10日、泉佐野市長による審査申立書
2019年9月3日、国地方係争処理委員会の総務大臣への勧告
一番最近の審査申立書
2022年5月30日の沖縄県知事による審査申立書

 

問3

自治体の財政、とくに歳入(収入)に関する問題である。まず船橋市を例に財源の分類をまとめておこう。

次に財源の種類を整理しましょう。具体例とともにおさえるとわかりやすいと思います。
地方消費税交付金は2022年までは未出題ですが、今後出題される可能性があります。


国庫支出金の例の1つが生活保護費です。実際の事務は市区町村が行いますが、その財源の3/4は国が負担し、1/4を自治体が出します。また、国が公立小中学校に対して、耐震補強、最近ではGIGAスクール構想のための全児童・生徒へのタブレット端末の配布に出した補助金です。その目的に限定して、全国の自治体に市立に補助金(国庫支出金)が出されました。

本設問の表は、わざと財源項目をはずしてわかりにくくしています。
そこで記載されていない項目を加筆し、船橋市の具体例を書き込むと以下のようになります。
船橋市は市か市に近い市です。

難しそうに見えますが、
ただポイントは以下の2つの式です。
地方税(%)+使用料・手数料、分担金・負担金(%)+その他(%)=自主財源(%)
自主財源(%)+依存財源(%)=100(%)、変形して依存財源(%)=100(%)-自主財源(%)

この設問の場合、表の但し書きに「表中に示されていない歳入のうち、自主財源に分類されるものはないとする」と書いてあるので
「使用料・手数料、分担金・負担金」「その他」は0%とみなしてよいということです。
するとこの設問に限っては
自主財源(%)=地方税(%)
依存財源(%)=100(%)ー地方税(%)
となります。

<設問の文章(青で解説を加筆)

 

L市の依存財源の構成比は、表中の他の地方自治体と比べて最も低いわけではありません。
→表より、依存財源の構成比が最も低い市が市(25%)。L市は市以外。

ただし、「国による地方自治体の財源保障を重視する考え方」に立った場合は、依存財源が多いこと自体が問題になるとは限りません。たとえばL市では、依存財源のうち一般財源よりも特定財源の構成比が高くなっています。
→表より、依存財源のうち、特定財源(国庫支出金)より一般財源が大きくなっているのは市。L氏は市以外。残る選択肢は

この特定財源によってナショナル・ミニマム(憲法25条に書かれた「最低限度の文化的な生活」の維持)が達成されることもあるため、必要なものとも考えられます。
●厚生労働省「ナショナルミニマムの構築」
しかし、「地方自治を重視する考え方」に立った場合、依存財源の構成比が高くなり地方自治体の選択の自由が失われることは問題だと考えられます。
L市の場合は、自主財源の構成比は50パーセント以上となっています。
は自主財源42%、自主財源52%。よって(3点)。

(船橋市は地方税は42%ですが、使用料および手数料、分担金および負担金、その他の自主財源を加えると51%で、ぎりぎり50%を上回っています。)

 

なお、本設問は財源(歳入・収入)に限っての出題ですが、歳出(支出)も含めた自治体の財政全体の動きを知る上で、以下の「船橋の台所事情」はよくできた資料です。ぜひご覧ください。
あわせて他自治体にお住まいの方は、お住まいの市の財政の記事をご検索ください。
●令和4年度版(2022年度版) 船橋の台所事情

特に歳出における次の2つの図は重要です。


この義務的経費、投資的経費、その他の経費の分類は、歳入において2022年度の入試で問われた歳入における「自主財源」「依存財源」、「一般財源」「特定財源」の分類に相当するものなので注目してください。

わかりにくい市の財政を家計のイメージに捉え直した以下「家計簿」も参考になります。

問4

一つ目はA社とB大学についての事例です。L市に本社があるベンチャー企業のA社は、それまでの地元の大学からの人材獲得を課題としていました。そのたえA社は、市内のB大学と連携してインターンシップ(就業体験)を提供するようになりました。このインターンシップに参加したB大学の卒業生は、他の企業への就職も考えたものの、仕事の内容を事前に把握していたA社にやりがいを見いだして、A社への就職を決めたそうです。この事例はア(b雇用のミスマッチを防ぐ取組み)の一例です。
二つ目は事業者Cについての事例です。事業者Cは、市内の物流拠点に併設された保育施設や障がい者就労施設を運営しています。その物流拠点では、障がいのある人たちが働きやすい職場環境の整備が進み、障がいのない人たちと一緒に働いているそうです。この事例はイ(ノーマライゼーションの考え方を実行に移すしくみ)の一例です。よって答は、(3点)

スケールメリットとは、「規模の経済」とも言うこともあり、同種のものを多く生産することでコストが抑えられることを指します。
トレーサビリティ(Traceability)とは、トレース(trace、追跡)とアビリティ(ability、能力)を組み合わせ「追跡可能性」を示す。食品、医薬品、製品などに産地、製造過程などを追跡調査できることで、とくに食品については消費者に情報公開するとともに、何か問題がおきた時の、追跡調査、原因究明などが行いやすくなります。

 

 

2022年の他の問題です。
● 入試に出る地方自治4~2022年共通テスト「倫理、政治・経済」第5問(配点19点)問題・解答・解説~
2021年以前の問題です。
●入試に出る地方自治1(市長選)~2021年大学入試共通テスト「倫理、政治・経済」第2日程第5問「市長選に関する生徒2人の会話」(配点19点)問題・解答・解説~
●入試に出る地方自治2~2021年大学入試共通テスト「倫理、政治経済」第2日程第7問(配点12点)問題・解答・解説
●入試に出る地方自治3~2019年大学入試センター「倫理、政治・経済」「政治・経済」地方自治問題・解答・解説(船橋市を例にした具体的解説)